キヤノン元従業員の箕浦一雄氏が、レーザービームプリンター(LBP)などに使われる技術の特許に対する職務発明の対価の一部として、キヤノンに10億円の支払いを求めた訴訟の一審判決が1月30日、東京地裁であった。設楽隆一裁判長はキヤノンに3352万円の支払いを命じた。

従来のLBPでは、「静止ゴースト像」と呼ばれるレーザービームの反射で画像に線が出る欠陥があったが、箕浦氏はビームの角度をコントロールして、これを防ぐ技術を発明し、キヤノンは1981年に特許出願した。 訴状などによると、元社員は1968年にキヤノンに入社。 同社がLBPを小型化する開発中、商品価値を損なう画質の低下が生じたが、元社員はこれを解決する技術を編み出したという。 同社は元社員の発明を利用したLBPなどで、世界6割以上の市場シェアを占める上、 同業他社とライセンス契約を結ぶなど利益を獲得。元社員を社内で表彰するなどし、 対価として計約85万円を支払った。 元社員側は会社が得た特許の対価を約458億円と算定。 「問題の発明は業務命令ではなく、自主的に解析、個人的に所有していた卓上計算機によって解決したもので、 会社の貢献度は認められない」として全額を請求する権利を主張、その一部を請求したという。

設楽裁判長は、発明の有用性は認められるとしつつ、ゴースト像の発生を防止する代替技術も導入されているとし、ゴースト発生防止に不可欠な基本特許とは言えないと述べた。また、ゴースト像の発生原理は、発明時点で既に解明され、同社の技術文書には解決方法の示唆もあり、そこからこの発明に至るのは困難ではないとして、発明に対する箕浦氏の貢献度を3%と認定した。その上で、キヤノンがこの発明で得た利益を包括クロス契約など考慮して11億4600万円と算定し、 支払額は社内規程で同社から受け取った額を差し引き、3352万円を命ずる判決となった。

判決に対しては、 原告、被告双方とも、金額などを不服として控訴する意向を示している。

箕浦氏は、 「会社は数百億円の利益を上げているのに、判決は低い額でがっかりした」と語っている。

一方、 キヤノンは今回の判決について、「誠に遺憾。今回の判決が示した計算方法は、包括ライセンス契約における対価の算定で、 当社の主張した算定法を一部採用した点では評価できるが、その前提となる本件特許の技術的範囲の解釈などに納得できない点がある」 として、控訴する考えを示した。

本件は、近年、多く生じている社員の職務発明を巡っては、企業側の報酬に納得できない社員が退職後に訴訟に持ち込んだケースの一つと言える。上記発明者側への支払額は史上5番目に高い額とのことだが、現段階では最終的にどのような形に収束するかは不明であり、今後の動向を見守りたい。

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