「約」の付加により、特許請求の範囲が不明確との拒絶理由通知を受けた場合、これを解消するため、通常、「約」を削除する補正が行われる。 しかし、「約」を削除できない場合はどうなるであろうか?

特許請求の範囲に、「約」等の曖昧な表現を付加して数値限定している明細書は、公開公報のみならず、特許庁の審査を経た特許公報にも散見され珍しいことではない。

審査済みの特許公報に頻出することからすると、「約」を付けた数値限定が運用上許容されているかというと、必ずしもそうではない。

特許庁の審査基準には、「範囲を曖昧にする表現」として、「~を除く」、「~でない」等の否定的表現、「~以下」、「~以上」等の上限又は下限のみの限定、「やや」、「はるかに」、「高~」、「低~」等が曖昧な表現の例として挙げられている(特許庁審査基準第I部2.2.2.1(5))。しかし、ここに「約」は挙げられてはいない。

したがって、「約」を可とするか不可とするかは、各ケースごと、審査官ごとに茫漠とした幅が存在することとなる。

ちなみに、ヨーロッパ特許庁の審査便覧では、「約」(about,approximately)は注意が必要であるが、新規性・進歩性の判断において曖昧さがなければ許すとしており(欧州特許庁審査便覧C部第III章)、新規性・進歩性の面からはともかく、明細書の明確性要件の面からは確とした否定的判断を示していない。

また、米国では、「約」(about)を融通性のある用語としてとらえ、クレームを不明確としないとの運用が主である。ただし、「約」周辺の技術範囲の画定は、裁判所の判断に委ねられることとなる。

そして、仮に、「約」の付加により、特許請求の範囲が不明確との拒絶理由通知を受けた場合、これを解消するため、通常、「約」を削除する補正が行われる。

しかし、「約」を削除できない場合はどうなるであろうか?

例えば次のような例を見てみる。

【例1】

【特許請求の範囲】

「成分A10~90%、成分B90~10%、及び、有効量の触媒からなる硬化性組成物。」

【発明の詳細な説明】

「・・触媒の有効量は0.1~0.3%である。」

このような出願に対して、「約」及び「有効量」は不明確であるとの拒絶理由通知がなされた場合、常法にしたがい数値に付加された上記4つの「約」を削除して、成分A10~90%、成分B90~10%すると、0.1~0.3%の硬化触媒が入る余地がなくなり、合計が100%を越えることにより、別の拒絶理由が発生することとなる。

上記の例では、主成分A及びBの10桁オーダー量に比較して、触媒の量が0.1~0.3%と2桁違いに僅少であり、触媒を加えて全量(100%)とする余地を確保するため、成分A及びBの量に「約」を付したものであり、「約」は実質的な意味を有し、単に曖昧な表現をしたものとはいえない。

ただし、上の拒絶理由通知に対して、仮に、「約」を残し、触媒量を「0.1~0.3%」と補正した場合、「約」が本来的に発明の外延を不明確にする曖昧な用語である点からすると、明確性要件違反の拒絶理由を解消したとすることは困難と考えられる。

一方、数値限定クレームにおいて、出願当初の明細書に具体的な記載が無い数値を新たに創出して補正することは通常困難である。

しかしながら、本例のように「約」が合計量との差し引きの量として明らかといえる場合等、出願当初の明細書に具体的数値の記載は無くとも、出願当初の明細書の記載から自明な事項として、成分A及びBの上限値から触媒量を差し引き、「成分A10~89.9%、成分B89.9~10%、触媒0.1~0.3%」とする補正が許容され、出願当初の明細書に具体的な記載がない数値を繰り入れた補正が許されるべきものと考えられる。

上の例のケースのように、拒絶理由通知や無効理由の主張に対して、数値限定クレームに付した「約」等のファジー語を削除できないケースの取扱いについて、判例の推移を見守るとともに、微量成分を含有する数値限定発明のケースについて、出願当初の明細書の書き方を工夫する必要があるといえる。

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。