上記審決取消請求事件では、特許3152945号(本件特許)の訂正後の請求項1及び4に係る部分について、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件に適合しないとして、審決が取り消された。

1. 本件特許の内容

本件特許の訂正後の請求項1に係る発明は以下の通りである。

「【請求項1】 Cu 0.3~0.7重量%、Ni 0.04~0.1重量%、残部Snからなる、金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上したことを特徴とする無鉛はんだ合金。」

審決では、上記下線部分の発明特定事項は、実質的に裏付けられており、発明の詳細な説明に記載されていると判断した。

2. 裁判所の判断

裁判所は、「構成A(金属間化合物の発生を抑制し)及びB(流動性が向上した)の機能ないし性質が得られたとの結果の記載並びにその理由として『CuとNiが互いにあらゆる割合で溶け合う全固溶の関係にあるため、NiはSn-Cu金属間化合物の発生を抑制する作用をする』との記載が明細書中にあるに過ぎず、本件構成A及びBの機能ないし性質が達成されたことを裏付ける具体例の開示はおろか、当該機能ないし性質が達成されたか否かを確認するための具体的な方法(測定方法)についての開示すらない」と判断した。そして、「本件『発明の詳細な説明』が、当業者において、無鉛はんだ合金が本件組成を有することにより、本件構成A及びBの機能ないし性質が得られるものと認識することができる程度に記載されたものでないことは明らかであり、かつ、本件出願当時の技術常識を参酌しても、当業者において、そのように認識することができる程度に記載されたものでないことは明らかである」として、審決の一部を取り消した。

3. 考察

明細書には、通常、特許請求の範囲の請求項に係る発明によって、課題が解決されるメカニズムを記載する。このような記載は、進歩性を主張する際に、従来技術との差異を主張するうえで有効になり得る点、また、特に化学系の発明では、実施例等に開示された内容を、請求項に係る発明の範囲にまで拡張、一般化することの根拠にもなり得る点で有効である。

ところで、このメカニズムの記載は、機能・特性として請求項に係る発明の特定事項となり得る場合があり、その機能・特性が新規である場合には、本事例のように、新規性・進歩性を主張するうえで有効となり得る。

ところが、この機能・特性が容易に導き出せないものであるほど、進歩性の主張には有効であるが、一方で、本件出願時の技術常識を参酌して理解することが困難になることから、サポート要件等を充足するか否かについての判断がより厳しくなってしまうこととなる。

したがって、機能・特性に特徴があり、将来的に発明特定事項として、請求項に組み入れる可能性があるものについては、その機能・特性が達成されたことを示すデータを出願当初から明細書中に記載することが好ましいといえる。

以上

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