「本件発明は、引用発明1に係る金属材質の炊飯器内鍋構造をセラミックに変更し、蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部を形成するものであるところ、別の目的で設けられている凸部を開示しているにすぎない周知例1ないし3等をもって、露の垂れを防止する構成とする動機付けがあるとはいえない。」

平成21年(行ケ)第10412号「炊飯器」(平成22.7.14)(知財4部)
無効2008-800133号:特許第4052390号

 第1 本件発明

【請求項1】内鍋と、前記内鍋が収納される本体と、前記内鍋の外面に対向するように配設され、前記内鍋を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えた炊飯器であって、前記内鍋は、基材がセラミック材又はセラミックとガラスの混合材で構成されており、少なくとも前記誘導加熱コイルに対向した部分における外面には、磁性材からなる加熱部材を接合し、内面には、ガラス質の釉薬又はフッ素加工を施し、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより、前記フランジ部に当接して前記上部開口部をシールする蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部が形成されていることを特徴とする炊飯器。

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第2 審決の理由の要旨

(1)引用発明1(特開2003-70631号公報)

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(2)<相違点>

露の垂れを防止する構成について、本件発明では、フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより凸部が形成されているのに対し、引用発明1では、フランジ部の水平部から内鍋の内方に延設して露溜まりの溝部を形成している点

(3)審決の判断

周知例によれば、陶磁器製の鍋の上部開口部の外縁の、蓋が載置される平坦部と同じ高さ位置で、鍋内面方向に鍋の厚みを厚くすることにより凸部を形成することは、陶磁器製の加熱調理器の分野において、本願出願前周知の技術であり、上記凸部が露を溜める効果を奏することは当業者に明らかであるところ、上記周知技術を参照し、引用発明1の露溜まりの溝部に換えて、フランジ部の水平部から内鍋内面方向に、内鍋の厚みを厚くすることにより凸部を形成することによって、露の滴下を防止しようとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

☆周知例1(実公平4-27483号公報)、周知例2(実願昭59-156124号(実開昭61-71986号)のマイクロフィルム))

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第3 当裁判所の判断

取消事由1(相違点についての判断の誤り)について

(1)本件発明について

本件発明は、内鍋内面にフッ素樹脂加工が施され、基材としてアルミニウム、外面にステンレス等を使用している従来の電磁誘導による加熱方式の炊飯器における課題である、ご飯の付着及び保温時の消費エネルギーが多いこと(本件明細書【0005】【0006】)を解決し、ご飯が付着しにくい内鍋を得るとともに、保温時の省エネルギー化が図れる炊飯器を得ることを目的とする発明である。

本件発明の構成は、請求項1記載のとおりである。

そして、このような構成により、本件発明は、ご飯が付着しにくく、また、蓄熱性がよくなり保温時の加熱通電時間を短くすることができ、電気エネルギーの節約による省エネルギー化が図れる炊飯器を得ることができる。さらに、内鍋の上部開口部の内側に形成した凸部により、保温中に蓋パッキンに付いた露の垂れが遮断されて、露が内鍋内に垂れるのを防ぐことができ、ご飯のふやけを防止することができるという効果を奏するものである。

(2)引用発明1について

引用発明1は、上部開口部の外縁には、フランジ部が形成され、前記フランジ部の水平部に前記上部開口部をシールする鍋パッキンを当接させ、フランジ部の水平部から鍋の内方に延設して露溜まりの溝部を形成することにより、鍋パッキンに付着した露が鍋内のご飯へ滴下するのを防止する発明である。

(3)相違点について

☆ 周知技術の認定について

周知例1は、鍋料理用の大型土鍋で、使用時の把持部の高温化に対処することを課題とするものであり、土鍋本体に形成した、蓋受部ともなる庇状内縁による熱衝撃強化の記載がある(甲19)。周知例1の庇状内縁の機能は熱衝撃強化にあり、露を溜めることの記載はない。

また、周知例2は、電磁調理器用の土鍋に関するもので、土鍋本体底部に鉄板を載設することで、土鍋特有の清潔性、保温性、美観と、電磁調理器としての使用を両立させたものであるが、第3図の本体形状として、蓋が載置される構造として凸部が図示されている(甲20)。周知例2の凸部について、特に説明はなく、蓋を載置する以外の用途ないし機能の記載はない。

以上のとおり、周知例によれば、陶磁器製の加熱調理器において、鍋の上部開口部外縁の、蓋が載置される平坦部と同じ高さ位置で、鍋の内面方向に鍋の厚みを厚くすることにより凸部を形成すること自体は、周知であったということはできるが、上記凸部に露を溜める機能があることを記載したものではなく、上記周知例の加熱調理器における凸部の目的は、専ら蓋を載置することにあって、本件発明における凸部の目的とは全く異なり、凸部を設けて露を溜めるという技術思想はなかったものといわざるを得ない。しかも、周知例における加熱調理器は、炊飯器ではないから、米を炊いて保温するものではないため、保温中に蓋パッキンに付いた露が鍋内に垂れるのを防止するという課題すらない。

したがって、蓋等の部材の載置を目的とする凸部の形成自体が周知であったとしても、フランジ部との関係や課題との関係でみると、露の垂れを遮断するために凸部を設けることについて、何ら示唆はない。

☆ 容易想到性について

加熱調理器において、内鍋内面方向に凸部を形成することは、蓋等の部材の載置を目的とするのが通常であり、蓋等の部材の載置を目的とする凸部の形成自体が周知であったとしても、フランジ部との関係や課題との関係では、何ら示唆がない。そして、引用例1の「鍋パッキン74に付着したつゆは、ある一定量を超えると鍋62のフランジ部62fを伝って鍋62の側面へと滴下し」の記載をもって、直ちに、蓋の載置を目的とする凸部が露等を溜める効果をも奏することが当業者にとって自明であるとすることはできない。本件発明において、露の垂れを防止することを目的として内鍋内面方向に凸部を形成することは、従来のものと目的を異にするものである。

本件発明は、引用発明1に係る金属材質の炊飯器内鍋構造をセラミックに変更し、蓋パッキンに付いた露の垂れを遮断する凸部を形成するものであるところ、別の目的で設けられている凸部を開示しているにすぎない周知例等をもって、露の垂れを防止する構成とする動機付けがあるとはいえない。

そして、本件発明は、特定の内外面構造を有するセラミックス内鍋を用いて、ご飯の付着防止、保温時の省エネルギー化という課題を解決させながら、露の垂れを防止する構成を検討した結果「フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすること」による凸部を形成したものである。蓋の載置を目的とする凸部の形成自体が周知であったとしても、フランジ部との関係や課題との関係で何ら示唆がない以上、金属の内鍋を用いた、異なる露垂れを防止する構造の引用発明1から出発して、内鍋材質と凸部の具体的位置及び構造を変更して、内鍋内面方向に内鍋の厚みを厚くすることにより凸部を形成することは、技術常識を参酌してもなお通常の創作能力の発揮を越えるものといわざるを得ない。

よって、引用発明1のフランジ部の水平部から内鍋の内方に延設して露溜まりの溝部を形成している構成を、フランジ部と対向する位置で内鍋内面方向に前記内鍋の厚みを厚くすることにより凸部を形成して露の垂れを防止する構成とすることは、当業者といえども容易に想到することはできないというべきである。

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。