TRIPP TRAPP事件(知財高判平27・2・10)

1.概要

「応用美術」についても著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たせば,「美術の著作物」として同法上の保護を受けるものであるとして,その判断基準を示した事例を紹介する。

2.応用美術とは

美的鑑賞品である純粋美術に対し,実用性,有用性をふまえた美術をいう。今回の判決では,「実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とする表現物」と定義されている。広義の応用美術は,美術工芸品,建築等を含む概念であるが,著作権法上の保護を受けるか否かが問題となるのは,美術工芸品には該当しない大量生産される工業製品である。

3.過去の判例・考え方

応用美術については「美術の著作物」該当性を否定して著作権上の保護は及ばないとする学説・判例が多く,ニーチェ事件(大阪高判平2・2・14)では「著作権法上の「美術」とは,原則として,専ら鑑賞の対象となる純粋美術のみをいい,実用を兼ねた美的創作物である応用美術でありながら著作権法上保護されるのは,同法二条二項により特に美術の著作物に含まれるものとされた美術工芸品に限られるのである。」と判示し,その保護はもっぱら意匠法によるべきものとされてきた。
そして,応用美術であっても「独立に美的鑑賞の対象となりうるもの」については例外的に著作物性を認める場合があった。

4.判示内容

今回の判決は,「同法2条2項は,『美術の著作物』の例示規定にすぎず,例示に係る『美術工芸品』に該当しない応用美術であっても,同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,『美術の著作物』として,同法上保護されるものと解すべきである。」として応用美術についても著作権法上の保護を受ける場合があることを認めた。

そして,著作物性の要件として,「何をもって『美』ととらえるかについては個人差も大きく,客観的観察をしてもなお一定の共通した認識を形成することが困難な場合が多いから,判断基準になじみにくい」,「応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」として従来の基準を否定したうえで新たな客観的判断基準を示し,本件の形態的特徴は,平凡かつありふれたものではなく,「機能に係る制約により,選択の余地なく必然的に導かれるもの」でもないとして,「創作的」な表現であると認定した。

応用美術については意匠法で保護されるべきとの被控訴人の主張に対しても「著作権法と意匠法とは,趣旨,目的を異にするものであり(著作権法1条,意匠法1条),いずれか一方のみが排他的又は優先的に適用され,他方の適用を不可能又は劣後とするという関係は,明文上認められず,そのように解し得る合理的根拠も見出し難い。」,「加えて,著作権が,その創作時に発生して,何らの手続等を要しないのに対し(著作権法51条1項),意匠権は,設定の登録により発生し(意匠法20条1項),権利の取得にはより困難を伴うものではあるが,反面,意匠権は,他人が当該意匠に依拠することなく独自に同一又は類似の意匠を実施した場合であっても,その権利侵害を追及し得るという点において,著作権よりも強い保護を与えられているとみることができる。これらの点に鑑みると,一定範囲の物品に限定して両法の重複適用を認めることによって,意匠法の存在意義や意匠登録のインセンティブが一律に失われるといった弊害が生じることも,考え難い。」として重複適用を認め,「応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があるので,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。」として著作物性を認めてもそれによる弊害が生ずるおそれは認めがたいとした。

5.解説

応用美術と美術工芸品との境界はあいまいである。大量生産される工業製品であっても「独立に美的鑑賞の対象となりうるもの」となりうる。実際,ニューヨーク近代美術館(MoMA)など工業製品を収蔵・展示している美術館もあるなど,工業製品が美的鑑賞の対象となりうることは否定できない。少なくとも,大量生産の工業製品であることのみを理由に「美術の著作物」であることを否定する見解は妥当でない。

一方,著作物性の判断に主観的な「美」を採用することは,判断基準が不明確で予測可能性を欠くこととなる。司法によって「美」と判断されたものがそうでないと判断されたものより手厚く保護されることは,文化の多様化を否定し,「文化の発展に寄与する」という著作権法第1条の目的にもかえって反することになる。判決が指摘するように,著作物性の判断は,「創作的」な表現であるか否かによって客観的に決すべきである。

著作権法と意匠法による重複保護の可能性についても,それぞれ保護の対象,要件等が異なる以上,いずれか一方による保護を排除する必要性もない。応用美術について,著作権法による保護のみを除外したとしても,意匠法による保護と不競法第2条第1項第1号,第3号や立体商標による保護との重複は起こりうるのであり,著作権法による保護をことさら排除する合理性はない。

著作権法で応用美術が保護されるとしても,判決のいうように応用美術であるがゆえにその表現の余地は狭く,保護の範囲も意匠法による保護範囲と変わらない場合が多いと予想される。加えて,意匠法による保護は,保護期間は短いものの,意匠権が独占権であり,損害額の推定(意匠法39条),過失の推定(同法40条)規定等もあるなど,著作権法による保護よりも強い保護が与えられており,意匠権を取得するメリットが減殺されるものではない。著作権法の保護期間が長いことについても,長期間保護を必要とされるような形態は,不競法2条1項1号にいう「商品等表示」としても保護される場合が多いと予想されるから,著作権法による保護を及ぼすことにより弊害が生ずるおそれは少ないと思われる。

いずれにしても著作権,意匠権,商標権,不正競争防止法に基づく権利には,それぞれ保護範囲,要件等の違いがあるから,商品の形態の保護にあたっては,これらの権利を多面的,戦略的に活用する必要があろう。

(弁護士・鰺坂 和浩)

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。