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(PBPクレーム最高裁判決).pdf

 

最高裁判所 平成27年6月5日判決

平成24年(受)第1204号(原審:知財高裁平成24年1月27日大合議判決(平成22年(ネ)第10043号))

平成24年(受)第2658号(原審:知財高裁平成24年8月9日判決(平成23年(ネ)第10057号))

 

目次

第1 はじめに

第2 従来のPBPクレームに対する考え方

1.PBPクレームに対する考え方

2.従来の裁判例

3.原審でのPBPクレームの考え方

第3 最高裁判決の概観

1.技術的範囲について

2.明確性の要件について

第4 考察

1.最高裁判決の評価

2.PBPクレームの分類

3.分類にしたがった明確性の判断

4.最高裁判決の当否

5.今後の動向

 

第1 はじめに

平成27年6月5日に、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下「PBPクレーム」という。)に関する二つの最高裁判決が出された。平成24年(受)第1204号は、PBPクレームの技術的範囲の確定に関するもので、平成24年(受)第2658号は、PBPクレームの発明の要旨の認定に関するものである。同日に出された両判決によれば、PBPクレームの技術的範囲の確定と、発明の要旨の認定は、同じ基準でなされることが明確に打ち出された。

 

本稿では、従来のPBPクレームに対する考え方を振り返り、その上で今回の最高裁判決を概観し、これに対する考察を行うこととする。

 

第2 従来のPBPクレームに対する考え方

1.PBPクレームに対する考え方

(1)物同一説と製法限定説

PBPクレームの定義も様々である。具体的には、PBPクレームが許容されるようになった経緯に照らし、「物の発明の特許請求の範囲において、物の構成、化学的構造ないし物性を直接クレームに規定することが困難ないし不適切である場合に、製法により物の発明を規定するもの」と定義したり[1]、「目的物の特定において、目的物を作りだす行為又は現象によって成立する経時的要素を少なくとも包含するクレーム」と定義したり[2]、種々の捉え方がある。

本稿では、その中でも審査基準にしたがい「製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む場合」をPBPクレームとして扱う。

 

PBPクレームの技術的範囲の確定及び発明の要旨の認定の仕方について、大きく分けて「製法限定説」と「物同一説」の二つの考え方が存在する。「製法限定説」は、クレームに記載された製法に限定して物を捉えるのに対し、「物同一説」では、クレームに記載された製法に限定されず、物そのものを基準に判断する点で両者は相違する。

ただ、原則として「物同一説」を採用する立場であっても、出願経過を参酌して、特段の事情がある場合には例外的に製法限定説を採用したり、逆に、原則として「製法限定説」を採用する立場であっても、製造方法以外に物を特定することが不可能・困難である等の特段の事情がある場合には例外的に物同一説を採用したり、と第三者と出願人・特許権者との間での利益衡量を図る考え方が主流となっている。この考え方にしたがえば、両説の相違は、最終的に特段の事情の主張立証責任を出願人・特許権者が負うのか、それとも第三者・特許庁が負うのかという点に帰着することになる。

 

(2)物同一説を採用した場合の問題点

PBPクレームの解釈に際して、物同一説を採用した場合に、明確性の点が問題となることは以前から指摘されていたことである[3]。

物同一説を採用した場合に、明確性の問題が生じることについて、以下具体例を挙げて説明する。

 

(具体例1)

一つ目は高分子の例を挙げる。

例えば、高分子Mについて、「製造方法Pによって製造される高分子M」(以下「権利X1」とする。)というクレームで特許を取得したとする。出願時にはとりわけ意識されていなかったが、製造方法Pによって得られる高分子Mは重合度がせいぜい10~20程度のものだったとする。なお、この点は第三者にとっても分からなかったとする。

これに対し、製造方法Qによると、高分子Mと構成が良く似た高分子M’が得られる。ただ、高分子M’の重合度は100を超え、それがゆえに高分子Mにはない新たな物性Xが生じたとする。

この場合に、権利X1を、製法限定説で解釈した場合には、高分子MとM’を実際に対比するまでもなく、製造方法Qが製造方法Pと均等のものである等の特段の事情がない限り、製造方法に差異が認められれば、高分子M’に権利X1が及ばないのは第三者にとって明らかであるといえる。

他方で、権利X1を、物同一説で解釈した場合は、製造方法PとQの違いにより、高分子の構造にどのような差異をもたらしているか明確ではなく、高分子Mと同一性が認められる物の範囲が明らかではない[4]。このため、第三者が、製造方法Pによって生じる高分子Mと、製造方法Qによって生じる高分子M’を実際に製造して、両者の構造等を対比し物として同一か否か確認しなければならないとすれば、第三者の研究開発に対して、萎縮的な効果が及ぶことになる。

 

(具体例2)

次に酵素の例で考える。

例えば、製造方法P2により、加水分解酵素M2が得られたため、「製造方法P2によって取得される加水分解酵素M2」というクレームで特許を取得したとする(以下「権利X2」とする。)。

他方で、製造方法Q2によってM2と類似する加水分解酵素M2’が得られたとする。両者は同じ加水分解酵素ではあるが、加水分解酵素にもたくさんの酵素が存在し、加水分解酵素M2とM2’が同一のものかは分からない。

この場合に、権利X2を、製法限定説で解釈すれば、物が製法によって限定されるため、製造方法P2とQ2が互いに異なるものであることを示せれば、権利X2が製造方法Q2によって取得された加水分解酵素M2’に及ばないことは第三者にとって明らかであるといえる。

他方で、権利X2を、物同一説で解釈した場合には、製造方法P2とQ2によって取得される加水分解酵素が同じ物か否か明確ではない。後になって、加水分解酵素M2とM2’のアミノ酸配列を対比させる等して、M2’がM2と同じ物であることが解明された場合に、第三者にとって、不測の不利益を被る可能性も生じうる。

 

従来から、物同一説を採用した場合に生じる明確性の問題点として、「侵害を避けようとする第三者の負担」と「新規性・進歩性の評価の観点からの問題」が指摘されている。前者は、権利範囲の公示という観点からの不明確性の問題である。また、後者は、新規性・進歩性の判断の対象が明確でなく、先行する発明との相違が不明確であるという問題である[5]。

 

このような物同一説を採用した場合に生じる明確性の問題に対して、プロダクト・バイ・プロセス・クレームが許容された経緯を踏まえ、製法以外での物の特定が不可能・困難であるという特段の事情を有する場合を除き、PBPクレームを一切認めない、との意見も見られる[6]。

 

2.従来の裁判例

(1)発明の要旨認定

審決取消訴訟では、物の発明において製造方法の記載がある場合の発明の要旨認定は、クレームに記載された製法にかかわらず「物」そのものに基づいて判断されている。すなわち、PBPクレームにより特定される「物」自体が先行技術に記載された物に対して同一であるか又は進歩性がない場合は、特許性が否定されている[7],[8]

特許庁の審査基準でも、「請求項が製造法によって生産物を特定しようとする表現を含む場合には、通常、その表現は、最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解して、請求項に係る発明の新規性・進歩性等の特許要件の判断を行う」とされており、審査においても物同一説が採用されていることが分かる。

 

(2)技術的範囲の確定

侵害訴訟の場面では、物の発明において製造方法の記載がある場合の技術的範囲の確定について、クレームに記載された製法に限定されず物として同一であれば権利が及ぶとする「物質同一説」を原則としながら[9],[10]、製法に特許性が認められて特許になった等の特別の事情がある場合には製法を考慮する考え方[11],[12]が主流となっている。

 

3.原審でのPBPクレームの考え方

(技術的範囲の確定(知財高裁平成24年1月27日大合議判決(平成22年(ネ)第10043号))及び発明の要旨認定(知財高裁平成24年8月9日判決(平成23年(ネ)第10057号))

平成24年(受)第1204号の原審である大合議判決では、PBPクレームの技術的範囲の確定について、当該発明の技術的範囲は、当該物をその構造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときでない限り、特許請求の範囲記載された製造方法により製造される物に限定して確定されるべきとし、原則として製法限定説を採用している。

また、平成24年(受)2658号の原審である知財高裁平成24年8月9日判決でも、PBPクレームの発明の要旨認定について、当該発明の要旨は、当該物をその構造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときでない限り、特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物に限定して認定されるべきとし、技術的範囲の確定と同様に、原則として製法限定説を採用することを判示した。

 

第3 最高裁判決の概観

1.技術的範囲について

(1)最高裁判決(平成24年(受)第1204号)

・・・特許は、物の発明、方法の発明又は物を生産する方法の発明についてされるところ、特許が物の発明についてされている場合には、その特許権の効力は、当該物と構造、特性等が同一である物であれば、その製造方法にかかわらず及ぶこととなる。

したがって、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても、その特許発明の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。

 

(2)コメント

PBPクレームの技術的範囲について、その製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定される、としており、物同一説を採用したことを明確にしている。また、平成24年(受)第2658号では、上記「その特許発明の技術的範囲」との文言を「その発明の要旨は、」という言葉に置き換えて記載しており、技術的範囲の解釈と発明の要旨の認定で同じ基準で行うことを明確にしている。

 

2.明確性の要件について

(1)最高裁判決(平成24年(受)第1204号)

・・・この観点からみると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に、その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物に及ぶものとして特許請求の技術的範囲を確定するとするならば、これにより、第三者の利益が不当に害されることが生じかねず、問題がある。すなわち、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか、又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり、適当ではない。

他方、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては、通常、当該物についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが、その具体的内容、性質等によっては、出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技術的に不可能であったり、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど、出願人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところである。そうすると、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく、上記のような事情がある場合には、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても、第三者の利益を不当に害することがないというべきである。

以上によれば、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。

 

(2)コメント

PBPクレームの解釈において、その物と構造、特性等が同一である物に及ぶとして、物同一説を採用した場合に、独占権の範囲が第三者にとって不明確になる問題点を指摘し、原則として物の発明について物の製造方法が記載されている場合は、明確性の要件に適合しないとして扱うとしている。ただ、出願時に物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときは、物の発明で物の製造方法が記載されていたとしても明確性の要件に適合するとして扱うとしている。

この判示の、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において、その製造方法が記載されていると、一般的には、・・・不明であり、・・・当該発明の内容を明確に理解することができず、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うことになり、適当ではない。」「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく、上記のような事情がある場合には、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として特許発明の技術的範囲を確定しても、第三者の利益を不当に害することがないというべきである。」等の記載からすると、物の発明について製造方法が記載されている発明すべてに適用されると読むことが素直なように思われる。

また、千葉補足意見の3(2)では、「特許庁の現在の審査実務で採用されているとされている「不適切な場合」という基準は、余りにも価値判断的な要素が強く、内容が明確でないため範囲が広がり過ぎ、また、構造等でさほど困難なく特定できる場合であっても、単に発明の構成を理解しやすくするために製法を記載することまで認める余地を残すこととなり、いずれにしろ、PBPクレームの概念を認めた趣旨と齟齬しかねない面が生じ、妥当とはいえないところである。」としており、この記載にしたがえば、多数意見は、「単に発明の構成を理解しやすくするために製法を記載すること」を認めない立場であると推測される。

このため、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することがおよそ実際的でないという事情」の中に、PBPクレームの方が簡潔で分かり易くなり実際上便宜である場合等は含まれないと解される。すなわち、今後は限定的にしかPBPクレームを許容しないとの趣旨と解される。

 

第4 考察

1.最高裁判決への評価

最高裁判決では、上述のとおり、PBPクレームの技術的範囲を物同一説によって確定することを明確にした。それとともに、PBPクレームを許容した本来の趣旨に立ち返り、PBPクレームが明確性の要件に適合しているといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると判示した。

この考え方は、物の発明でPBPクレームを許容した趣旨と合致するし、今後PBPクレームも通常の物の発明と同等の強い権利として確立していくという観点から一定の評価ができる。

また、PBPクレームの解釈に対し物同一説を採用した結果生じる明確性の問題を低減するために、原則として製造方法ではなく、構造、特性等による物の特定を要求する立場を打ち出した点でも評価できる。

 

他方で、発明をいかなる形式で記述して発明を特定しようが出願人の自由であるとしてきた経緯に照らして、発明の構成を理解しやすくするためにPBPクレームを用いて成立した特許までもが、明確性に関して無効理由をはらんでいるとすることは行き過ぎではないかとの見方もある。

 

そこで、最高裁判決が判示の理由として挙げている明確性の問題に対応するために、全てのPBPクレームについて、製造方法以外の方法による特定の不可能性・非実際的性が認められない限り、明確性の要件を満たさないとする必要があったのか、以下検討する。

 

2.PBPクレームの分類

PBPクレームについては、いくつかの分類の仕方が試みられている[13]。

本稿では、PBPクレームの明確性の観点から、①特定の製造方法によって得られる結果物(以下「結果物」という。)が具体的に何か明確である場合と、②結果物が具体的に何か不明確な場合とに分類して、以下検討する。

①の結果物が具体的に何か明確であるにもかかわらず、PBPクレームを用いる場合として、以下の二つの場合が想定される。

 

①-1:特定の製造方法によって製造された物に限定する場合(例えば、製造方法自体に特徴がある等。)

①-2:結果物が具体的に何か明確ではあるものの、PBPクレームを用いた方が記載が簡潔でより分かり易くなる場合(例えば、積層板の発明等)

 

また、②の結果物が具体的に何か不明確であり、製造方法で物を特定している場合として以下の場合が想定される。

 

②-1:製造方法で特定する以外で物を特定できない、又は、特定する実際的な方法がない場合

②-2:製造方法以外で物を特定する方法はあるものの、構造・物性等で物を特定するにはさらなる実験を要する場合

②-3:濫用的なPBPクレームの利用である場合

 

3.分類にしたがった明確性の判断

ここで、最終的な結果物が何か具体的に明確である場合には、最高裁判決でいうような、第三者の利益を不当に害することはないといえる。PBPクレームの結果物自体が何か明確である場合、物同一説を採用しても、権利が及ぶ範囲も明確といえるからである。

また、結果物が何か具体的に明確である場合には、新規性・進歩性での比較対象も明確である。このため、結果物が何か具体的に明確である場合には、あえて明確性の要件で判断しなくても、新規性・進歩性の判断で特許性を実質的に検討することが可能である。

他方で、①-1のように製造方法自体に特徴がある場合には、物を生産する方法の発明として記載した方が良いといえる。ただ、この点についても、PBPクレームについて物同一説で発明の要旨を認定する以上、物自体に新規性・進歩性がないのであれば拒絶理由を有するといえ、①-1については自ずから物を生産する方法の発明として記載すべきという結論が導かれるといえる。

 

これに対し、結果物が具体的に何か不明確である場合は、PBPクレームを物同一説で解釈すると、最高裁判決でいう、どの範囲に独占権が及ぶのか第三者の予測可能性を奪うという事態が生じる。したがって、②の場合には、製造方法以外で物を特定することが不可能か、実際的でないという事情があるか出願人に主張させる必要性が認められる。

このように解することで、②-2のように出願人の実験が不十分(何をもって実験を十分とするかは別途の考慮を要するが)である場合や、②-3のように濫用的なPBPクレームの利用を排除することが可能である。

 

4.最高裁判決の当否

最高裁判決では、結果物が何か具体的に明確である場合も含めて、原則として、特段の事情がない限り、PBPクレームは明確性の要件を満たさないとする立場を採用した。

しかし、PBPクレームの解釈に際して物同一説を採用した場合に生じる権利範囲の不明確性による第三者の不測の不利益については、上述のとおり、結果物が何か具体的に不明確であるPBPクレームのみ原則として明確性の要件を満たさないとすれば足るはずである。

それにもかかわらず、PBPクレームすべてを原則として明確性の要件を満たさないとする結論を導くには、明確性の問題以外のさらなる理由付けが必要であると思われるが、この点は最高裁判決では理由として示されていない。

 

さらに、最高裁判決にしたがえば、PBPクレームで記載された発明が特許されている場合は、仮にPBPクレームで記載した方が分かり易く便宜であるような場合であっても、明確性要件の不充足との無効理由をはらんでいることになる。発明の特定方法としてPBPクレームとすることも広く認められていた中で、原則としてPBPクレームを認めないとのドラスティックな立場を採ることは、法的安定性の観点からも妥当とはいえない。

 

このような観点から、製造方法以外に物を特定することが難しい等の特段の事情が存在しない場合は、PBPクレームを認めないとする極端な立場を採るべきではないと考える。それより緩やかに、結果物が何か具体的に不明確である場合に限って、特段の事情が存在しない場合には、明確性の要件が不充足として扱い、特段の事情の主張立証責任を出願人に課すという判断の方が妥当であったように思われる。また、明確性との文言との関係でも、結果物が何か具体的に不明確な場合に、原則として明確性の要件が不充足であると扱う方が整合的であるように思われる。

 

5.今後の動向

最高裁判決で、PBPクレームの技術的範囲は物同一説により確定するとし、原審でもこれにしたがい技術的範囲が確定される。ただ、物同一説を採用した場合でも、出願経過等を参酌して技術的範囲が製法限定的に解釈される余地は残されている。

仮に特許無効の抗弁の判断に及んだ場合に、「a)~e)を含んでなる方法によって製造される、プラバスタチンラクトンの混入量が0.5重量%未満であり、エピプラバの混入量が0.2重量%未満であるプラバスタチンナトリウム。」と結果物が何か具体的に明確な場合にも、PBPクレームの明確性が否定されるのか、その判断に興味が持たれる。

 

また、PBPクレームの審査・審判での取り扱いについては、現在特許庁で検討中であり、今後の特許庁の動向が注目されるところである。

 

弁護士 栁本 高廣

弁理士 山口 和弘

 

[1] 設樂隆一「クレーム解釈手法の推移と展望」金融・商事判例No.1236(2006年)

[2] 神谷惠理子「プロダクト・バイ・プロセスクレームの意義を求めて―プロダクト・バイ・プロセスクレームの分類・解釈に関する提言―」パテント2014 Vol. 67 No.8

[3] 岡田吉美、道祖土新吾「プロダクト・バイ・プロセス・クレームについての考察」パテント2011 Vol.64 No.15

[4] PBPクレームにおいて、物として同一であると認められる範囲については、「全部説」や「作用効果説」などがある。

[5] 審査基準においても、製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む場合において、「発明が不明確となる類型」として、(i)製造方法(出発物や製造工程等)を理解できない結果、発明が不明確となる場合、(ii)生産物の特徴(構造や性質等)を理解できない結果、発明が不明確となる場合、の二つの類型を挙げている。さらに(ii)については、「請求項が製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む場合には、通常、その表現は、最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解して、請求項に係る発明の新規性・進歩性等の特許要件の判断を行うため、当該生産物の構造や性質等を理解できない結果、的確に新規性・進歩性等の特許要件の判断ができない場合がある。このような場合には、一の請求項から発明が明確に把握されることが必要であるという特許請求の範囲の機能(2.2.2.1(1)参照)を担保しているといえないから、第36条第6項第2号違反となる。例えば、請求項に係る物の発明が製造方法のみによって規定されている場合において、明細書及び図面には、その物に反映されない特徴(例:収率がいい、収率よく製造ができる等)が記載されているだけで、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る物の特徴(構造や性質等)を理解できない場合には、第36条第6項第2号違反となる。」としている。

[6] 三村淳一「日本におけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈に関する一考察」参照。

[7] 東京高判平成14年6月11日判決(平成11年(行ケ)第437号)、東京高判平成16年2月12日判決(平成14年(行ケ)第652号)等。

[8] 例えば、東京高判平成14年6月11日判決(平成11年(行ケ)第437号行政訴訟事件、「光ディスク用ポリカーボネート形成材料事件」)では、以下のように判示されている。

「本件発明が、製造方法の発明ではなく、物の発明であることは、上記特許請求の範囲の記載から明らかであるから、本件発明の上記特許請求の範囲は、物(プロダクト)に係るものでありながら、その中に当該物に関する製法(プロセス)を包含するという意味で、広い意味でのいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するものである。そして、本件発明が物の発明である以上、本件製法用件は、物の製造方法の特許発明の要件として規定されたものではなく、光ディスク用ポリカーボネート成形材料という物の構成を特定するために規定されたものという以上の意味は有し得ない。そうである以上、本件発明の特許要件を考えるに当たっては、本件製法要件についても、果たしてそれが本件発明の対象である物の構成を特定した要件としてどのような意味を有するかを検討する必要はあるものの、物の製造方法自体としてその特許性を検討する必要はない。発明の対象を物を製造する方法としないで物自体として特許を得ようとする者は、本来なら、発明の対象となる物の構成を直接的に特定するべきなのであり、それにもかかわらず、プロダクト・バイ・プロセス・クレームという形による特定が認められるのは、発明の対象となる物の構成を、製造方法と無関係に、直接的に特定することが、不可能、困難、あるいは何らかの意味で不適切(例えば、不可能でも困難でもないものの、理解しにくくなる度合が大きい場合などが考えられる。)であるときは、その物の製造方法によって物自体を特定することに、例外として合理性が認められるがゆえである、というべきであるから、このような発明についてその特許要件となる新規性あるいは進歩性を判断する場合においては、当該製法要件については、発明の対象となる物の構成を特定するための要件として、どのような意味を有するかという観点から検討して、これを判断する必要はあるものの、それ以上に、その製造方法自体としての新規性あるいは進歩性等を検討する必要はないのである。」

[9] 東京高判平成9年7月17日判決(平成6年(ネ)第2857号)、東京地裁平成11年9月30日判決(平成9年(ワ)第8955号等。

[10] 例えば、東京高判平成9年7月17日判決(平成6年(ネ)第2857号)では、以下のように判示されている。

「次に、本件特許請求の範囲記載の「ヒト白血球インタフェロン」がヒトの白血球を産生細胞とするインターフェロンを意味すると解する結果、ヒト白血球以外を産生細胞とするインターフェロンは本件発明の技術的範囲から当然除外されることとなるか否かについて検討する。

まず、本件発明は、医薬組成物の発明として新規な化学物質に係る用途発明にあたると認められるが、右用途発明に用いられる新規な化学物質の特定の問題自体は、化学物質特許における物の特定の問題と同じであると考えられる。

そして、一般に、特許請求の範囲が生産方法によって特定された物であっても、対象とされる物が特許を受けられるものである場合には、特許の対象は飽くまで生産方法によって特定された物であると解することが発明の保護の観点から適切であり、本件において、特定の清算方法によって生産された物に限定して解釈すべき事情もうかがわれないから、本件特許請求の範囲にいう「ヒト白血球インタフェロン」は、産生細胞たる「ヒト白血球」から得られたものに限らず、他の細胞から得られたものであっても、物として同一である限り、その技術的範囲に含むものというべきである。このように解することは、特許請求の範囲の記載要領につき、「(1)化学物質は特定されて記載されていなければならない。化学物質を特定するにあたっては、化合物名又は化学構造式によって表示することを原則とする。化合物名又は化学構造式で特定することができないときは、物理的又は化学的性質によって特定できる場合に限り、これら性質によって特定することができる。また、化合物名、化学構造式又は性質のみで十分特定できないときは、更に製造方法を加えることによって特定できる場合に限り、特定手段の一部として製造方法を示してもよい。

ただし、製造方法のみによる特定は認めない。」と定めている特許庁の「物質特許制度及び多項性に関する運用基準(昭和五〇年一〇月)」の趣旨とも合致するものである。」

[11] 東京地判平成12年9月29日判決(平成11年(ワ)第8435号)、東京高判平成14年9月26日判決(平成14年(ネ)第1089号)等。

[12] 例えば、東京地判平成12年9月29日判決(平成11年(ワ)第8435号)では、以下のように判示されている。

「二 原告らは、本件特許請求の範囲は、製造方法によって特定された物の特許についてのもの(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム)であり、特許請求の範囲に記載された製造方法と異なる製造方法によるものであっても、物として同一であるものは、本件発明の技術的範囲に属するところ、被告製品は、物として同一であるから本件発明の技術的範囲に属すると主張するので、判断する。

1 解釈の指針

一般に、特許請求の範囲が製造方法によって特定されたものであっても、特許の対象は飽くまで製造方法によって特定された物であるから、特許の対象を当該製造方法に限定して解釈する必然性はない。しかし、特許の対象を当該製造方法に限定して解釈すべき事情が存する場合には、特許の対象が当該製造方法に限定される場合があり得るというべきである。」

[13] 前掲注2等

 

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