特許出願を行う際、願書の「発明者」欄に誰を記載するかは、ともすると軽視されがちですが、法務リスクを生じる恐れもあります。そこで、記載すべき「発明者」の基本と注意点について考えてみたいと思います。

(1)「発明者」とは
日本の特許法には「発明者」の定義規定はありませんが、発明者の認定については、多数の裁判例の蓄積があり、一般的に「発明者」とは、当該発明の創作行為に現実に加担した者を指すと考えられています。例えば、以下のような者は、技術的思想の創作行為に現実に加担したとはいえず、「発明者」にはあたらないとされています。

・課題解決の方向性を大筋で示しただけの者
・単なるアイデアや研究テーマを与えたにすぎない者
・助言・資金の提供・命令を下す等の行為をしたにすぎない者
・発明者に対して一般的管理をしたにすぎない者
・指示に従い補助をしたにすぎない者
・発明の完成を援助にしたにすぎない者

(2)「発明者」の記載に関する法務リスク
このように、特許出願の願書では発明者として誰を記載してもよいという訳ではありません。具体例を挙げると、東京地判平成16(ワ)第14321号は、願書に「発明者」として記載されている元従業員が、職務発明の対価を使用者である会社に請求した事案において、当該元従業員は「発明者」ではないと判断しています。他方、知財高判平成18年(ネ)第10035号は、被告である使用者が、『原告は発明者の欄に記載されているが、真の発明者ではない』と主張したのに対し、使用者が発明者の欄に当該従業員の名前を発明者として記載した以上、それに反する主張をすることは信義則違反である旨述べています。

使用者側としては、「発明者」の記載を適正なものにするよう心掛けることが望ましいと言えます。

(3)誰を願書の「発明者」と記載するか
多数の裁判例が多くの事実を考慮して「発明者」の認定をしているように、「発明者」の認定はしばしば困難を伴います。しかし、実務上、出願人自らが特許出願ごとに厳密に発明者を認定することは現実的ではありません。そこで、前述した裁判所が示す一般的な考え方に従って、明らかに「発明者」にはあたらないと思われる者については「発明者」欄に記載することを避けつつ、認定が困難な場合には、弁理士に相談するという運用が現実的であると考えられます。

また、単一性欠如の拒絶理由を受けて請求項を削除する場合、分割出願を行う場合等においては、特許を受けようとする発明が変更される可能性があり、結果的に、当該出願の「発明者」にはあたらない者が記載されることになる恐れがあるため、注意が必要です。

なお、本コラムでは、特許法下の「発明者」について検討しましたが、実用新案の「考案者」や意匠法の「創作者」についても、同様に考えることができます。

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