Williamson v. Citrix Online, LLC (Fed. Cir. en banc 2015) No. 2013-1130

米国特許法112条第6パラグラフ(現112条(f)項)に規定されるミーンズ・プラス・ファンクション・クレームは、その権利範囲が明細書の実施形態・実施例に対応する構造、材料又は作用及びそれらの均等物(注:均等論における均等とは異なる)を対象としているものと解釈される。そのため、クレームにおいて「means(手段)」の文言を避けることで、112条第6パラグラフが適用されない「強い推定」が働くことを期待する実務が行われてきた。

しかしながら、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の大法廷(en banc)は、このような実務の根拠とされていた先例となる裁判例を覆す判決を2015年6月16日に下した。

本件では、対象特許(US 6155840 A)のクレーム8における「a distributed learning control module for ~」という「means」を用いていない文言が争点となったが、大法廷は、従前認められていた「強い推定」は不当であると結論付けた。その上で、クレームの文言が、十分に明確な構造で記載されていない場合、又は、機能を実行するために十分な構造を記載していない機能で記載されている場合には、クレームにおいて「means」が用いられていないときであっても、推定が覆されて112条第6パラグラフが適用されると判示した。一方、「means」を用いた場合には112条第6パラグラフが適用されるという推定は変更されずに維持された。

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今回の大法廷判決では従前の「強い推定」が不当であると判断されたが、米国特許庁商標庁(USPTO)から提供されている「Examination Guidance and Training Materials」のトレーニング資料(2011年公表)等にもあるとおり、「means」の文言が使われていなくとも、「mechanism」、「member」、「element」等の文言でミーンズ・プラス・ファンクション・クレームであると裁判所が認定した例があり、同じ文言であっても認定が異なっている例も存在する。

例えば、USPTOによる2011年1月署名(2011年2月公表)の補充審査ガイドラインその説明スライドでは、本件大法廷判決で争点となった「module for ~」は112条第6パラグラフ(現(f)項)が適用される例として挙げられている。その一方で、2013年8月公表の資料「35 USC 112(f): Identifying Limitations That Invoke 112(f)」ではmemoryとともに記載されている具体的な事例ではあるものの、「module for ~」であっても112条(f)項が適用されない例も挙げられている。

USPTOでは、ここ数年、審査段階においてミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの適用を明確にする方針を取っていることに加えて、最近の裁判例の流れを考えると、形式的にmemoryを記載すればミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの認定を回避できるとは考えづらいため、審査段階と権利化後のいずれにおいても、個別の案件における具体的な文言、特に構造的な文言の有無や、構造的な文言と機能的な文言との関連付けによって判断が変わることが予想される。

実際のところ、Williamson v. Citrix Online, LLCのCAFC大法廷判決から間もない2015年6月23日に下された別件のCAFCのパネル判決(Lighting Ballast Control v. Philips Electronics North America (Fed. Cir. 2015) No. 2012-1014)においては、対象特許(US 5436529 A)のクレーム1における「voltage source means」がミーンズ・プラス・ファンクション・クレームではないと認定されており、「means」の文言の有無という形式面のみでクレーム解釈がされないことを示す直近の裁判例として興味深い。
(論点は異なるが、本件では、地裁での専門家の証言に基づいて「voltage source means」の解釈がなされており、地裁判決を見直す際の基準を2015年1月の最高裁判決であるTeva Pharmaceuticals USA, Inc. v. Sandoz, Inc.に依っている点も興味深い。)

近年、ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームと認定した上で機能に相当する構造(ソフトウェア関連発明の場合は、特にアルゴリズム)が明細書に記載されていないとして、112条第2パラグラフ(現112条(b)項)の明確性要件違反で特許無効とされる事例が目立っている。Williamson v. Citrix Online, LLCのCAFC大法廷判決においても、ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームと認定された結果、機能に相当する構造が明細書で十分に記載されておらず不明確と判断されている。

このように、ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームは、権利範囲の観点だけでなく、有効性の観点からも重要な問題と言える。そのため、クレーム作成に際しては、ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームと認定されることの適否を検討しつつ、その認定を確実に回避する必要がある場合には、単に「means」の文言を使わないという形式面だけではなく、機能的な文言を避けつつ構造的な文言でクレームを作成するように、これまで以上に実体面を考慮する必要があるものと考えられる。

***追記(2015年10月27日、11月30日、2016年4月24日)***
記事の後半を追記・加筆

【出典】
米国特許商標庁「35 U.S.C. 112 (f) “Means-plus-function” limitations  Examination Guidance and Training Materials」(2015年7月更新)
※USPTOにおける現在の運用(”3-Prong Analysis”の適用等の審査の進め方)に関する概要の説明とあわせて、上述のトレーニング資料のほか、審査官がオフィスアクションで用いる定型パラグラフ(Form Paragraphs)へのリンクが提供されている。なお、概要の説明に用いられているMPEP 2181 [R-07.2015](2015年10月公表)では、本稿で取り上げたWilliamson v. Citrix Online, LLCのCAFC大法廷判決がさっそく引用されている。

【参考】
拙稿「日米欧中における機能的クレームについて ─実務上の相違点に関する検討と近年の動向─」(日本弁理士会, 2014年)
※MPEP 2181における”3-Prong Analysis”の参考和訳として、次の(A)〜(C)の分析すべてに該当する場合に、審査官が112 条(f)項(旧112条第6パラグラフ)を適用することを説明している。

(A) クレームの限定で「means」若しくは「step」という用語を使用している、又は、クレームの限定で「means」の代替として使用される用語が、クレームされた機能を達成するための一般的な代用語(その場限りの用語(nonce term)、又は、特定の構造的な意味を有さない非構造的な用語とも呼ばれる)である;

(B) 「means」若しくは「step」という用語又は一般的な代用語が、機能的な文言によって修飾され、常にではないが典型的には、つなぎ言葉(transition word)の「for」(例えば、「means for」)、又は、「configured to」若しくは「so that」のような他の連結語若しくは語句によって連結されている;及び

(C) 「means」若しくは「step」という用語又は一般的な代用語が、クレームされた機能を達成するために十分な構造、材料又は行為によって修飾されていない。

【関連記事】
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