(1)エンドユーザがクラウドに指示したことにより行われる複製ないし配信のクラウドプロバイダの行為主体性
 ア 問題の所在
  エンドユーザがクラウドに具体的支持を行うことにより、インストール、アップロード、ダウンロードが行われていれば、これらの行為は「複製」に該当し、私的使用を目的とするとき(著作権法30条1項柱書)を除き、原則として複製権侵害に該当します。また、コンテンツのアップロード行為については、「公衆」がダウンロードすることを予定している場合には、「送信可能化」に該当し、ダウンロードやストリーミングは、公衆に向けられている場合には、「自動公衆送信」に該当します。
  このとき、エンドユーザではなく、クラウドプロバイダが、著作権法上の何らかの責任を負うことはないのでしょうか。本項ではこの点について、判例を踏まえて検討していきます。
 イ クラウドプロバイダが複製権等を侵害しているか否かについて
  (ア)クラウドプロバイダの利用行為主体性
   a.クラウドプロバイダの複製行為における利用行為主体性
    (a)ロクラクⅡ最高裁判決 
  エンドユーザの指示によるものでも、物理的処理はクラウド上のリソースが行っており、クラウドプロバイダを主体とした複製権侵害等が構成できるかが問題となります。このような構成を考える(著作権者側の)実益としては、サービス全体として侵害行為の停止を可能とすること(一網打尽効果[1])や、利用主体の行為が適法であることを隠れ蓑にして利益を上げる者の責任追及を可能とすること(隠れ蓑対策効果[2])があると言われています。
この点につき参考になる近似の最高裁判例が以下の「ロクラクⅡ事件最高裁判決」です。

■ロクラクⅡ事件最高裁判決[3]
・事案
  インターネットを通じて視聴可能地域外でテレビ番組を視聴することができるようにするために、番組を録画して転送する機能を有する装置をユーザーから預かり維持管理していたサービスに関して、著作権者の複製権及び放送事業者の複製権を侵害しているかどうかが争われた事案。
・判旨
「(a)放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,(b)その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち,(c)複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,(d)上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。」(下線(a)~(d)は著者)
・検討
  (b)が本件の結論になります。その実質的な内容は(c)の基準で判断することになるところ、(d)が本件の場合を具体的に検討したものになります。ここでは、サービス提供者が「複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず」、放送機器に「放送番組等に係る情報を入力する」という「枢要な行為」をしていることなどを考慮して、サービス提供者を複製の主体であるとしています。
・判決の射程
  最高裁判決を見ると、「放送番組等の…場合には」(下線部(a))としており、そのため、設定事例判決または場合判決に過ぎないものと思われます。したがって本判決の直接の射程は、設定事項の事実関係の範囲に限られます。
しかし、複製対象が放送番組ではなくて、例えば音楽や映像、コンピュータプログラム、書籍等であっても、複製対象をサービス提供者が提供し、かつ複製を実現するためのほとんどすべての側面をサービス提供者が担っているような事案では、本最判を先導として、規範的な複製主体性を判断することになろうと思われます。[4] そのため、本判決を参考として、クラウドコンピューティングの場合の著作権侵害の主体について検討することができます。

    (b) クラウドコンピューティングの場合
 ロクラクⅡ事件判決の枠組みをクラウドコンピューティングに適用して検討する場合、クラウドコンピューティングをサービスモデルごとに分けて検討するのが有用と思われます。ここで、クラウドコンピューティングのサービスモデルとは、いわゆるIaaS, PaaS, SaaSという、クラウドコンピューティングがどのサービスレベルまでを提供しているかの分類をいいます。
①SaaSプロバイダのみがクラウドを構築している場合
  SaaSプロバイダは、アップロード等の対象となるコンテンツの種類、アップロード等の方法を決定し、これに必要な設備を保有し、管理、支配しています。そのため、他の各場合(PaaS, IaaS)よりも著作権侵害の主体として判断される可能性が最も高くなります。
  しかし、一般的なSaaSの場合には、アップロードする具体的なコンテンツを決めて、当該コンテンツを入手ないし入手方法を得て、アップロードを行う点について、これを管理支配下において行っているのは、エンドユーザであることが多いと思われます。そのため、SaaSプロバイダが著作権侵害の主体として判断されることが必ずしも多いとは言えないと思われます。
  ただし、SaaSプロバイダが、アップロードされた具体的なコンテンツが著作権侵害を構成するものであることに気づきながら、これを長らく放置するなどすれば、その行為は、エンドユーザの行為と同視され、あるいはプロバイダ独自の行為として著作権侵害を構成する可能性があるかとは思われます。
②PaaSプロバイダとエンドユーザが重層的にクラウドを構築している場合
  物理的にすべての設備を管理しているのはPaaSプロバイダです。しかし、具体的指示や、その指示を処理するアプリケーション自体はエンドユーザが用意するものです。したがってPaaSプロバイダの行為主体性は否定される場合が多いと思われます。ただしこれも程度問題であり、少なくともPaaSプロバイダがサービスを提供しなければエンドユーザが著作権侵害をすることもないという条件関係は認められます。PaaSプロバイダがどの程度支配管理下において当該行為を行っていたかの個別の問題を検討すべきことになるでしょう。
③IaaSプロバイダとエンドユーザが重層的にクラウドを構築している場合
  IaaSが提供するハードウェアやOSは、汎用性が高められていることが通常であるから、PaaSの場合よりさらにプロバイダの行為主体性が否定されることが多いと思われます。ただしこの場合も②と同様、個別の事情から判断されるべきものとなります。

   b.クラウドプロバイダの送信行為における利用行為主体性
  次にクラウドプロバイダの送信行為における利用行為主体性を見てみましょう。この点については、下記「まねきTV」最高裁判決が参考になります。
    (a)■まねきTV事件最高裁判決[5]
・事案
  インターネットを通じてテレビ番組を視聴可能地域外においても視聴することができるようにするため、番組転送機能を有する装置をユーザーから預かり維持管理していたサービスが、著作権者の公衆送信権、放送事業者の送信可能化権を侵害しているかどうかが争われた事案
・判旨
「自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると,その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。」
「これを本件についてみるに,各ベースステーションは,インターネットに接続することにより,入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的にデジタルデータ化して送信する機能を有するものであり,本件サービスにおいては,ベースステーションがインターネットに接続しており,ベースステーションに情報が継続的に入力されている。被上告人は,ベースステーションを分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し,当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上,ベースステーションをその事務所に設置し,これを管理しているというのであるから,利用者がベースステーションを所有しているとしても,ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被上告人であり,ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被上告人であるとみるのが相当である。」(下線は著者)
     (b).クラウドプロバイダの送信行為における利用行為主体性
  まねきTV事件判決は、送信可能化、公衆送信の有無を判断するにあたり、著作権法の解釈を行い、受信者からの求めに応じて自動的に情報を送信する機能を有する装置を用いて送信がされる場合の送信の主体は、「当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当」であると述べた上で、「当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力する者」が送信の主体であるとしました。
  前述したロクラクⅡ最高裁判決においても、サービス利用者の指示があれば、装置が自動的に処理を行う場合、当該処理の実現における枢要な行為を行っているものが利用行為主体であると判断されているところ、この二つの判決は、送信行為か複製行為かの違いはあるものの、少なくとも、複製または送信にかかるコンテンツを自動処理する装置における利用行為主体性の判断基準を同様に解したものと思われます。
  (イ)クラウドコンピューティングにおける公衆送信性
   a. 問題の所在
  まねきTV判決では上記の他に、同サービスの公衆送信性についても判断されました。
   b. まねきTV判決
公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。」
「何人も,被上告人との関係等を問題にされることなく,被上告人と本件サービスを利用する契約を締結することにより同サービスを利用することができるのであって,送信の主体である被上告人からみて,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,したがって,ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。そうすると,インターネットに接続している自動公衆送信装置であるベースステーションに本件放送を入力する行為は,本件放送の送信可能化に当たるというべきである。」
   c. 検討
  最もクラウドと利用者の関係が密接に関連付けられているいわゆるホスティング型のプライベートクラウドにおいても、クラウドプロバイダのテータセンター内には、複数の利用者に向けたクラウドが構築されており、利用の申し込みは誰でも行えます。したがって、エンドユーザに向けてコンテンツの配信が行われるクラウドにおいては、原則として公衆送信性が認められることになるかとおもわれます。
  判決の論理からすると、クラウド上のサーバーの各ユーザー用記録領域と各ユーザーの端末とが技術的に1 対1 の関係となっている場合であっても、誰もがそのサービスを利用することができるという点をもって「公衆」性が肯定され、クラウド上のサーバーからユーザーの端末に対するコンテンツの送信は自動公衆送信に該当することになるのではないかと思われます。しかし、そのような1 対1 の関係が技術的に強固に築かれる場合(例えばいわゆるVPNの場合などを想定してみるとよいかと思います)には、「公衆」性はむしろ否定されるべきであって、クラウド上のサーバーから各ユーザーの端末に対して行われる送信は自動公衆送信に該当しないと考えるべきではないかとも思われます。

(2) まとめ
  最高裁の一連の判決は著作権者側に有利と思われるもので、厳格に適用するとすれば、システム・技術として社会的に有用なものまでその機能を停止させてしまうものと言えなくもありません。例えば我々も日常的に利用している動画配信サービスや、オンラインストレージなどはすでに社会的承認を受けているものが現れていることを考えると、旧来の考え方をそのまま適用するのではなく、現実に合わせた法の適用、さらには法改正が必要になるのではと思われます。

(弁護士・水野秀一)

 


[1] 奥邨弘司「まねきTV・ロクラクⅡ事件最判後の著作権の間接侵害論」パテント2011 vol.64 No.11 P89~
[2] 前掲注1
[3] 最判平成 23・1・20 民集65 巻1 号399 頁、判時2013 号128 頁(上告審)、知財高判平成21・1・27 裁判所ウェブサイト(控訴審)、東京地判平成20・5・28 判時2029 号125 頁(第一審)、東京地決平成19・3・30 裁判所ウェブサイト(仮処分)
[4] 前掲注1
[5]最判平成 23・1・18 民集65 巻1 号121 頁、判時2103 号124 頁(上告審)、知財高判平成20・12・15、判時2038 号110 頁(控訴審)、東京地判平成20・6・20、裁判所ウェブサイト(第一審)、知財高決平成18・12・22 裁判所ウェブサイト(抗告審)、東京地決平成18・8・4 判タ1234 号278 頁(仮処分)

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