平成27年改正特許法の施行日と同日の2016年4月1日より、既報の「食品の用途発明」を含む3つの改訂「特許・実用新案審査基準」の運用が開始された。本稿では、残り2つの「特許権の存続期間の延長」及び「特許法条約への加入等を目的とした特許法等の法令改正に伴う改訂審査基準」について概要と共に、その関連事項を紹介する。

1.特許権の存続期間の延長(第Ⅸ部 3.1.1
今回の改訂は、2015年11月17日の最高裁判決(平成26年(行ヒ)356号)に従った判断を行うためのもので、特許法67条の3第1項1号の判断において拒絶理由が生じる場合の下記要件のうち、要件2について行われた。

  • 要件1:本件処分の対象となった医薬品類の製造販売の行為又は農薬の製造・輸入の行為が、延長登録の出願に係る特許発明の実施行為に該当しない場合
  • 要件2:延長登録の出願に係る特許発明のうち、本件処分の対象となった医薬品類又は農薬の「発明特定事項(及び用途)に該当する事項」によって特定される範囲が、先行処分によって実施できるようになっていた場合

この要件2に関する改訂の概要は次の2点となっている。

(1)本件処分と先行処分がされている場合における「特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」か否かの考え方
(2)願書の記載事項

このうち、(1)に関しては、「延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして、医薬品類又は農薬としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について両処分を比較し、先行処分の対象となった医薬品類の製造販売又は農薬の製造・輸入が、本件処分の対象となった医薬品類の製造販売又は農薬の製造・輸入を包含すると認められるときは、延長登録出願に係る特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められず、審査官は、拒絶理由を通知する。」ことが「基本的な考え方」とされた。これにあわせて、審査基準では、上記で下線を付した「実質的同一性に直接関わることとなる審査事項」の考え方及び「包含」の定義も示された。

審査基準とあわせて「特許・実用新案審査ハンドブック」も改訂され、附属書 A の「9. 特許権の存続期間の延長」では、14の事例について拒絶理由の有無が示された。その中では、本件処分と先行処分の比較に関して、出典4(第8回資料3)において、改訂前は「拒絶理由あり」、改訂後は「拒絶理由なし」とされていた事例に対応する下記の計5つの事例は注目に値する。

  • [事例38及び9]:「用法」及び「用量」において相違
  • [事例4]:「分量」において相違
  • [事例11]:「物理的化学的性状」において相違

2. 特許法条約への加入等を目的とした特許法等の法令改正に伴う改訂審査基準(第Ⅵ部第4章第Ⅶ部第1章
特許法条約(PLT)への加入(2016年6月11日発効予定)により導入される手続に対応させるため、改訂審査基準では下記の3点に関する改訂が行われた。

(1)第Ⅵ部第4章として「先願参照出願」の章を新設(制度の概要、要件及び効果、実体的要件についての判断等を記載)
(2)上記実体的要件についての判断は、新規事項の追加の例による
(3)その他、平成27年改正特許法等の施行に伴う形式的な修正(例えば、第Ⅶ部第1章2.2において、外国語書面出願の言語を「英語」に限定していた特許法施行規則25条の4の改正にあわせた変更)

3. 特許法条約加入に伴う特許法38条の2の新設
今回の改訂審査基準では第Ⅵ部において<関連規定>として追加されているに過ぎないが、平成27年改正特許法では特許法38条の2として「出願日認定要件の明確化及び手続の補完」に関する規定が新設された。

特許庁は、出典5の<出願日認定に関するFAQ>への回答において、補正及び新規事項の追加に関する留意事項を示しつつ「願書に研究論文を添付して出願した場合、出願日の認定の際は、その研究論文は、明細書として扱われますので、願書に必要事項が記載されていれば出願日は認定されます。」としており、出願日確保の選択肢として注目できる。

【出典】
いずれも特許庁
(1)「「食品の用途発明に関する審査基準」、「特許法条約への加入等を目 的とした特許法等の法令改正に伴う審査基準」、「特許権の存続期間 の延長登録出願に関する審査基準」の改訂について 」
(2)「「特許・実用新案審査基準」改訂案に対する意見募集(平成28年2月10日)
(3)「「特許・実用新案審査ハンドブック」の改訂について(平成28年3月23日)
(4)「産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会 審査基準専門 委員会ワーキンググループ 第8~9回配布資料及び議事録
(5)「特許法条約(PLT)への加入に伴い導入される手続の概要について

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