プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(物の発明に係るクレームにおいてその物の製造方法が記載されているもの。以下、「PBPクレーム」という。)に関する2015年6月5日の最高裁判決(平成24年(受)第1204号、同第2658号)を受けて、既報の通り、特許庁は同年7月6日公表の「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査・審判の取扱い等について(以下、この詳細のことを単に「当面の審査の取扱い」という。)」に始まって、これまでに審査・審判における取扱いに関する資料を順次公表してきた。これと並行して続けられた検討の結果を踏まえて、特許庁は2016年3月30日付けで特許・実用新案審査ハンドブックの改訂を公表し、同年4月1日以降の審査に適用を始めている。

また、審判に関しては、審査ハンドブックの改訂に先立つ2016年3月15日に、PBPクレームの「物」の発明から「物を生産する方法」の発明へのカテゴリー変更を認めた訂正審判事件の審決があった。

審査・審判のいずれにおいても個別具体的な事案に応じた判断が示されることになるが、今回の訂正審判事件と改訂審査ハンドブックとは、特許庁における取扱いを明確化するものとなっている。それぞれの概要は、次の通りである。

1. 訂正審判事件(訂正2016-390005)
2016年3月、特許第5759172号に関して、「定着部材」のPBPクレームを「定着部材の製造方法」とするカテゴリー変更の訂正が認められたことが発表された(出典(1)参照)。2016年3月15日付けの審決では、訂正要件の1つである「クレームの実質的な拡張・変更の禁止」の判断に際して、「発明が解決しようとする課題とその解決手段」及び「訂正による第三者の不測の不利益」をメルクマールとして用いている点が注目される。

2. 改訂審査ハンドブック
(1)2204における「PBPクレームに該当するか否かについての判断」
明確性要件違反の有無を判断する際の「1. 基本的な考え方」において、「『その物の製造方法が記載されている場合』の類型、具体例に形式的に該当したとしても、明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載並びに当該技術分野における出願時の技術常識を考慮」することが明記された(※下線は筆者が付加)。また、具体例の入れ替え及び追加が行われた。

(2)2205における「『不可能・非実際的事情』についての判断」
2015年11月25日付けの公表資料における主張・立証の参考例が組み込まれると共に、具体例が追加された。

本稿執筆時点(2016年5月)で、特許庁ウェブサイトの「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する審査の取扱いについて」のページでは、「物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合」、すなわちPBPクレームに該当するとして当該物の発明は不明確であるという拒絶理由の通知を受けた際に、それを解消するために取りうる対応として次の5項目が挙げられている。

ア.当該請求項の削除
イ.当該請求項に係る発明を、物を生産する方法の発明とする補正
ウ.当該請求項に係る発明を、製造方法を含まない物の発明とする補正
エ.不可能・非実際的事情についての意見書等による主張・立証
オ.当該請求項は、「その物の製造方法が記載されている場合」に該当しない旨の反論

審査ハンドブックの改訂点は上記エ.及びオ.に関連するが、特に、上記オ.と関連する2204の改訂は、改訂と同日2016年3月30日付け資料「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの明確性に係る審査ハンドブック関連箇所の改訂の背景及び要点」(以下、「改訂の背景及び要点」という)」とあわせて理解されるべきと考えられる。

この「改訂の背景及び要点」では、従前の「当面の審査の取扱い」では最高裁判決について「明確性要件に関する結論部分を厳格にとらえる立場」を特許庁が取っていたとした上で、改訂前の【旧版】2204の具体例にあったボルト・ナットに係る次の事例を削除したことについての説明がなされている。

「凹部を備えた孔に凸部を備えたボルトを前記凹部と前記凸部とが係合するように挿入し、前記ボルトの端部にナットを螺合してなる固定部を有する機器。」

その説明からの引用を以下に示す。

しかしながら、当該事例においては、「機器」の製造方法が当該「機器」のどのような構造を表しているのかが明らかであることから、当該事例は、最高裁判決中、上記結論部分に至る理由の説示における「一般的には ・・・ 不明であり」との記載には、該当しません。この点にかんがみ、また関係諸方面の識者やユーザーのご意見を勘案して検討した結果、かかる事例は「その物の製造方法が記載されている場合」に該当しないものとして取り扱うこととし、それに伴い当該類型(1-1)の具体例を入れ替えました。

このような取扱いは、「その物の製造方法が記載されている場合」の他の類型、具体例に形式的に該当するときにも、同様に成り立つ事項です。

※下線・強調は筆者が付加

したがって、形式的にPBPクレームに該当するのみであると判断して、上記オ.の反論を行う際には、改訂後の審査ハンドブック2204及び「改訂の背景及び要点」における上記説明の考え方に沿って、適切な説明と共に「明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載並びに当該技術分野における出願時の技術常識を考慮すれば、『その物の製造方法が記載されている場合』に該当しない」とする反論が効果的になるものと考えられる。

【出典】
いずれも特許庁
(1)「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「物」の発明から「物を生産 する方法」の発明へのカテゴリー変更を含む訂正審判事件の審決について
(2)「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する審査の取扱いにつ いて

【参考】
特許庁「特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書(平成27年度研究テーマ)プロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査の取扱いに関する調査研究

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