1 はじめに

データベースとは、論文、数値、図形その他の情報の集合物であって、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの(著作権法2条1項10号の3)であり、そのうち、その情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものは、著作物として保護されます(同法12条の2第1項)。

今回は、データベースの著作権侵害に関して、これを肯定する裁判例(知財高裁平成28年1月19日判決・平成26年(ネ)第10038号著作権侵害差止請求控訴事件)がありましたので、これを紹介します。

2 事案の概要

本件は、一審原告が著作権等を有するデータベース(判決の言い方にならい「原告CDDB」といいます)を含む旅行業者向けシステムの開発、営業等を担当していた旧原告会社の社員であった一審被告らが設立した被告会社で制作した旅行業者向けシステムを顧客らに販売するにあたり、同システムに含まれる業務用データベール(「被告CDDB」といいます)の複製・頒布等する行為について、原告CDDBについて原告が有する著作権(複製権、翻案権、譲渡権、貸与権、公衆送信権)を侵害するものであるとして、著作権法112条1項にもとづき、被告らに対し、被告CDDBの複製、翻案、頒布、公衆送信(送信可能化を含む)の差止め、廃棄、それに基づく損害賠償を請求したものです。

3 リレーショナルデータベース

 前提として、リレーショナルデータベースとは何かについて説明します。データベースには、「階層型」「ネットワーク型」「リレーショナル型」などがありますが、現在最も一般的に使用されているのが「リレーショナル型」のデータベースです。リレーショナルデータベース(RDB)は「2次元の表形式」と「表の相互のリレーション」を特徴としています。image002

2次元の表形式と表の相互のリレーション

 リレーショナルデータベースでは、「正規化」というテクニックが用いられます。正規化の主な作業は、テーブル(2次元の表のことです)にキーを設定し、余分なフィールド(表の内、縦の列のことです)を整理し、適切にテーブルを分割することです。

例として、次のようなテーブルを正規化してみます。

表1:image004

  表は「IT Pro 新入社員必読、データベースの基本を理解しようテーブル設計の正規化ってなに?」

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130416/471174/?rt=nocntから引用

 上記のような表では、顧客からの注文がデータベース化されています。この表を見れば、どの顧客からどの商品の注文がいくつ入ったかがわかります。しかし、注文によって商品の種類や数が異なり、表の要素に重複が含まれます。このままで、商品名や単価を変更した際に、修正箇所が広範囲に及んでしまいます。そこで、

表2:image006

表2のように表を2つに分けます。同一の情報のグループが繰り返し出現している部分が分離されており、縦の列数が均一になりました(第一正規化)。「注文番号」や「商品番号」(青字のもの)は、それが決まればある行が一意に決まるという意味で、「プライマリーキー」と呼ばれます。

表3:image008

表2の「注文明細テーブル」についてみると、「商品番号」が決まれば、「商品名」と「単価」も決まることがわかります(部分従属)。そこで、部分従属するフィールドを分離し、候補キーが決まれば、その他のフィールドも決定できるようにします(第二正規化)。

表4:image010

さらに、プライマリーキー以外についても、これに従属する部分を切り離し、新たな表とします(第三正規化)。

以上のような手順により、正規化が進められます。正規化を行っておけば、表の要素の追加・削除・変更を容易に行うことができます。

4 本件の争点

裁判例に話を戻します。本件の主な争点は、以下の5点です。

 1.一審被告らの損害賠償義務の有無及び原告の損害額原告CDDB(「当初版」「2006年版」「現行版」「新版」の著作物性および被告CDDBが原告CDDBに依拠して作成された複製物ないし翻案物といえるか
2.一審被告らによる著作権侵害についての共同不法行為の成否
3.一般不法行為の成否(予備的主張)
4.原告の行為の私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律違反の可能性の有無
5.一審被告らの損害賠償義務の有無及び原告の損害額

本稿では、争点1と5について扱います。

5 判旨

(1)本判決は、データベースの著作物性について、

 著作権法12条の2第1項は,データベースで,その情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものは,著作物として保護する旨規定しているところ,情報の選択又は体系的構成について選択の幅が存在し,特定のデータベースにおける情報の選択又は体系的構成に制作者の何らかの個性が表れていれば,その制作過程において制作者の思想又は感情が移入され,その思想又は感情を創作的に表現したものとして,当該データベースは情報の選択又は体系的構成によって創作性を有するものと認めてよいものと解される。

として、著作権法の条文に従い、「情報の選択」と「体系的構成」に着目して創作性を判断するものとしています。続いて、リレーショナルデータベースの著作物性については、

 リレーショナルデータベースにおける体系的構成の創作性を判断するに当たっては,データベースの体系的構成は,情報の集合物から特定の情報を効率的に検索することができるようにした論理構造であって,リレーショナルデータベースにおいては,テーブルの内容(種類及び数),各テーブルに存在するフィールド項目の内容(種類及び数),どのテーブルとどのテーブルをどのようなフィールド項目を用いてリレーション関係を持たせるかなどの複数のテーブル間の関連付け(リレーション)の態様等によって体系的構成が構築されていることを考慮する必要があるものと解される。また,リレーショナルデータベースにおいては,一般に,各テーブル内に格納されるデータの無駄な重複を減らし,検索効率を高めるために,フィールド項目に従属関係を設定して,新たなテーブルを設けたり,テーブル内に格納されているデータの更新を行う際にデータ間に不整合が起こらないようにするために,関連性の高いデータ群だけを別のテーブルに分離させるなどの正規化が行われており,その正規化の程度にも段階があることから,正規化がもたらす意義や正規化の程度についても考慮する必要があるものと解される。

として、「体系的構成」の創作性について、テーブルの内容、フィールドの内容、リレーションの態様の他に、「正規化がもたらす意義や正規化の程度」についても考慮する必要があることを示しています。

さらに、リレーショナルデータベースの複製・翻案については、

リレーショナルデータベースにおいては,データベースの一部分を分割して利用することが可能であり,また,テーブル又は各テーブル内のフィールドを追加したり,テーブル又はフィールドを削除した場合であっても,既存のデータベースの検索機能は当然に失われるものではなく,その検索のための体系的構成の全部又は一部が維持されていると評価できる場合があり得るものと解される。以上を前提とすると,被告CDDBが原告CDDBを複製ないし翻案したものといえるかどうかについては,まず,被告CDDBにおいて,原告CDDBのテーブル,各テーブル内のフィールド及び格納されている具体的な情報(データ)と共通する部分があるかどうかを認定し,次に,その共通部分について原告CDDBは情報の選択又は体系的構成によって創作性を有するかどうかを判断し,さらに,創作性を有すると認められる場合には,被告CDDBにおいて原告CDDBの共通部分の情報の選択又は体系的構成の本質的な特徴を認識可能であるかどうかを判断し,認識可能な場合には,その本質的な特徴を直接感得することができるものといえるから,被告CDDBは,原告CDDBの共通部分を複製ないし翻案したものと認めることができるというべきである。

として、その判断手法を示しています。

(2)本件では、被告CDDBは「当初版」「2006年版」「現行版」「新版」がありましたが、いずれも上記判断手法を用いて、情報の選択、体系的構成のそれぞれについて、著作物性、複製・翻案権侵害を認めました。

(3)損害額についてもデータベースならではの判断をしています。

データベースは通常、それ自体として取引の対象になるのではなく、あるシステムに組み込まれて利用されます。その意味では、データベースがシステム全体のもたらす利益額のうちどの程度まで寄与しているかが問題となります。この点について判旨は、

 原告システムは,システムの各機能を実行させるプログラムとデータベース(原告CDDB)とで構成されており,プログラム部分とデータベース部分は,構成上は別のものであること,1審原告は,データベース部分である原告CDDBを単体では販売することはなく,原告CDDBを含む原告システムを一体のシステムとして販売していること,原告システムにおいては,プログラム部分とデータベース部分のそれぞれが顧客吸引力を有し,原告システムの購入動機の形成に貢献ないし寄与しているものと認められることを総合考慮すると,著作権法114条1項に基づく1審原告の損害額の算定の基礎となる「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額」は,原告CDDBを含む原告システムの1本当たりの利益額全額ではなく,データベース部分である原告CDDBの上記貢献ないし寄与の割合(以下,単に「寄与割合」という。)に応じて算出するのを相当と認める。

として、システム全体に占めるデータベースの寄与割合を考慮することとし、結論として、「原告システム(TR-P1)の1本当たりの利益額における原告CDDBの寄与割合は,50%と認めるのが相当である」としました。

さらに、データベースは一度売ったら終わりではなく、特に本件の原告システムのように、常に新しい情報が必要となるようなものにおいては、データベースを適宜更新していくことが必要となります。本裁判例ではこの点についても触れ、

 旅行業者が原告CDDBを含む原告システムを購入するに当たっては,適宜の時期に情報の更新等を行い,できる限り最新の情報をデータベースに格納しておくことを希望するものと認められるから,原告システムの購入時にデータメンテナンス契約を締結し,少なくとも1年間は上記データメンテナンス契約を継続するのが通常であるものと認められる。そうすると,1審被告らによる被告CDDBを含む被告システムの販売に係る著作権の侵害行為とその販売数量に対応する1審原告のデータメンテナンス契約に係る1年分の利益額に相当する損害との間には相当因果関係が認められ,1審原告は,上記損害を被ったものと認めるのが相当である。

として、「データメンテナンス契約」に係る利益額についても、侵害との相当因果関係があるものとしました。

6 まとめ

データベースの著作権侵害を認めた裁判例はいまだ蓄積が少なく、本裁判例は実務上の参考になるものと思われます。本裁判例では、リレーショナルデータベースの著作権侵害を認めた東京地裁H14.2.21(マンション販促用DB事件)からさらに進んで、著作物性について、「正規化がもたらす意義や正規化の程度についても考慮する必要がある」としたことにも意義があります。(ただし、本件DBの侵害についての判断をよく見ても、「正規化」の意義や程度についてそれほど重視されていないという印象を受けます。私見では、「正規化」はいわゆる「リレーションの取り方」の一部として、さほど重視しなくても問題ない要素とも思えます。)

ほとんどのシステムにデータベースは欠かせないものとなっており、データベースの著作物性・著作権侵害については、今後も裁判例の蓄積が期待されるところです。また、この裁判例では見られませんでしたが、著作権侵害が認められない場合に、いかなる場合に一般不法行為が成立するか(またはしないか)なども課題として残されています。

 

(弁護士 水野 秀一)

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。