中国では、知的財産関連訴訟の急増に伴い、最高人民法院(日本の最高裁判所に相当)によって新しい取り組みが相次いで推進されています。本稿では、その例として、2014年末に北京、上海及び広州の知識産権専門法院が設立された後に始まった2つの取り組みを紹介します。

(1)技術調査官制度の導入
2015年1月19日、最高人民法院は「知識産権法院技術調査官の訴訟活動参与に関する若干問題について暫定規定」を発表し、知的財産訴訟のうち技術的な側面が強い民事・行政訴訟に技術調査官が参与できることを規定しました。この規定では、技術調査官は事件を審理する権限はないものの、司法補助役として、技術的事実を明確にするために裁判官の許可の下で訴訟当時者等に質問することを認めています。技術調査官の構成については日本の裁判所調査官とは異なる点があり、大学等の高等教育機関、科学研究機関、国家専利機関等から募集された専門家・研究者が主となっています。

この技術調査官制度は、すでに広く活用されており、北京知識産権法院だけでも250件以上の実績があります。また、北京を含む上記3つの知識産権専門法院だけでなく、中級・高級人民法院や最高人民法院でも導入可能となっており、最高人民法院では、2015年4月22日開廷の米国礼来社(Eli Lilly and Company)と江蘇省常州市華生製薬社との特許侵害訴訟において技術調査官制度を初めて運用しました。

なお、中国裁判制度には陪審制度がありますが、陪審員が関連分野の技術専門家である場合には、技術調査官と実質的に同様の役割を果たすことができるため、重ねて技術調査官に参与させることは多くないとのことです。

(2)「案例指導研究基地」の設立及び判例制度の研究
2015年4月24日、最高人民法院は、北京知識産権法院に「案例指導研究基地」を設立しました。この「基地」は、中国における判例制度を模索するための研究施設として、典型的な判例を評議する機構と位置づけられています。また、2016年5月12日には、商標、専利、著作権、総合との四分野に分けて、各分野の専門家や学者、政府関係者、弁護士等の200人余りの専門家からなる専門家委員会を設け、活動を開始しました。

北京知識産権法院では、既に判例制度を運用した判決((2014)京知行初字第1号、(2014)京知行初字第50号)を下しており、判決書では、先例を引用する形を取っています。大陸法系である中国における判例制度の研究・運用は斬新な面があり、今後の実務運用に注目していきたいところです。

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