1.はじめに
   今回はタイトルにもあります通り、プロバイダ責任制限法による発信者情報開示請求について説明したいと思います。例えば、インターネット上で自社の商標が勝手に使われている、自社のホームページとそっくりのウェブページが見つかったなどといった場合、商標権著作権を元に、相手方に侵害を辞めるよう警告し、あるいは、賠償の請求などをしたいところです。しかし、インターネットの場合、そういったウェブページが見つかったとしても、必ずしも誰がその情報を発信しているかわからないといったことが多々生じます。
   このような発信者情報は、ISP(=インターネットサービスプロバイダ:電話回線、光ファイバー回線などを経由して、ユーザーに対してインターネット接続・利用サービスを提供する業者)や、CSP(=コンテンツサービスプロバイダ:インターネット上の各種情報やサービスなどを運営し、ユーザーに提供する業者)が保有しています。そこで、先のプロバイダ責任制限法(正確には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」という長い名前があります)は、インターネット上の情報の流出によって権利侵害がなされていることなどを示せば、ISPやCSPに対して、発信者情報(例えば、氏名や住所、IPアドレスなど)の請求ができることを定めています。

2.諸例
   実際に発信者情報の開示がなされた裁判例をいくつか見てみましょう。
(1)大阪地方裁判所平成27年(ワ)第7540号
   この事例は、インターネット上のウェブサイトに使用されるドメイン名あるいはウェブページの掲載記事の流通によって権利を侵害されたとする原告が、不正競争防止法著作権侵害を理由とする損害賠償請求権等の行使のために、問題とされるウェブサイトが開設されたレンタルサーバーを保有、管理する被告に対し、プロバイダ責任制限法に基づき、発信者情報(氏名又は名称、住所)の開示を求めたものです。
   この事例で原告は、「アクシスフォーマー」と呼ばれる健康器具を製造販売し、また、その製品名について商標権を有していました。一方で被告は、「アクシスフォーマー.com」とのドメイン名でウェブページを展開し、当該ウェブページには、「他社メーカーの本格健康アイテムを自社の名前で売り出しているだけなので驚きの低価格を実現。規格は同等でも、製造クオリティが非常に低い商品です。(詳細は最新情報をcheck!)」などと記載されていました。これでは原告も困ってしまいますね。
   当該ウェブページにはさらに、「この下図の過去キャッシュから切り抜いてきたキャプチャーですが、在庫処分品と明記するどころか、「有名メーカーと同じ素材で驚きの価格を実現」という表記は、意図的に在庫処分品を自社製品かのように錯覚させる表記であり、消費者庁が指導を行なわなかったことにも疑問を感じるところです。」などとも書かれ、原告を揶揄するような記載がいくつも見られました。
   そこで裁判所は、「本件サイトでは、原告製品に興味を持ち、その購入を検討しようとしてインターネットを利用してアクセスしてきた需要者に対し、ウェブページの随所において、需要者の購入意欲を損なうことを意図しているとしか考えられない内容の記載をしているのであり、また、その記載は、併せて製造者としての原告の信用を損なうことをも意図していると解さざるを得ないものである。結局、これらのことからすると、本件サイトは、被告が主張するような原告製品の販売促進を意図したものではなく、むしろ原告が主張するように、原告に「損害を加える目的」で開設されたサイトであると断ぜざるを得ないというべきである」などと判断しました。これは、不正競争防止法でいう、「他人に損害を加える目的で、他人の商品等表示(※商標など)と同一…のドメイン名を使用する行為」に当たりますから、原告の権利が侵害されたとして発信者情報の開示を認めた、ということになります。

(2)東京地方裁判所平成28年(ワ)第2419号
   こちらは報道カメラマンとして稼働していた原告が、被告の提供するインターネット接続サービスを経由してウェブサイト「NAVERまとめ」に投稿された写真が原告が著作権を有する写真を複製したものであるとして、著作権侵害を理由に発信者情報の開示を求めたものです。
   いわゆる「まとめサイト」はその記事の信憑性なども相まって昨今話題になっているところですが、まとめサイトに限らず、インターネット上のサービスでは、簡単に他人の記事や写真を流用できてしまうところに問題点があると思われます。本件でも、記事の投稿に写真が使われていましたが、これが原告の著作物であるとして、著作権侵害の主張がなされています。
   結論として裁判所は著作権侵害を認め、その権利侵害に基づく損害賠償請求権の行使のために必要であるとして、投稿者の氏名、住所、メールアドレスなどの情報を開示するよう判断しました。

3.注意点
   CSP等においては、権利侵害に関わる投稿がされた際、アクセスしたものが用いたIPアドレスとタイムスタンプが保存されており、その開示を求めることになります。このIPアドレスを元に、ISPに対して契約者の情報を開示するよう請求します。
   注意すべきなのは、ISPでは大量のアクセスが有り、アクセスログの保存が通常3~6ヶ月程度しかないということです。こうなるとスピード勝負になりますから、裁判上の手続きを利用するにしても早急な手配が必要になります。具体的には、発信者情報開示請求件を被保全権利とする保全手続きや、アクセスログの消去禁止仮処分を用いることになります。
   また、CSPやISPが海外にある場合は、(日本法人がある場合などを除くと)かなり困難な状況になると想定されます。

4.まとめ
   プロバイダ責任制限法による発信者情報開示請求は近年急激に増加し、請求が認められることも多いことから、注目される手続きとなっています。現にインターネット上では、知的財産権にかぎらず様々な権利侵害が発生し、同手続の必要性も高まっていると思われます。
   インターネット上の権利侵害について、なにかお困りのことがございましたら、ぜひご相談ください。

弁護士 水野 秀一

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。