1.企業等における新たな職務発明制度への対応状況に関する調査研究

 去る平成29年3月、平成28年度産業財産権制度問題調査研究「企業等における新たな職務発明制度への対応状況に関する調査研究」について、調査結果内容の報告書が公表されました(http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/2016_14.pdf)。この調査研究は、平成27年改正後の新たな職務発明制度への対応状況について、使用者等2,000者及び従業者等7,000者に対してアンケート調査を実施し、使用者等834者及び従業者等1,958者から得た回答内容を元に作成されています。

 今回以降、日頃職務発明制度に関する法律相談を受けている立場から、本報告書の内容を数度に分けてご紹介したいと思います。

2.職務発明制度の改正

 職務発明制度の見直しを含む、特許法等の一部を改正する法律は、平成27年7月3日に可決・成立し、平成28年4月1日に施行されました。

 職務発明制度の改正は、次の3つの点が挙げられます。

①職務発明について、契約等においてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利はその発生時から使用者等に帰属する旨が規定されたこと(いわゆる「 原始使用者帰属」。法35条3項)。

②職務発明の特許を受ける権利を使用者等が取得・承継する場合の、従業員に支払われる「相当の対価」が、「 相当の金銭その他の経済上の利益」に変更されたこと(同条4項)。

③相当の利益を定める場合の合理性の考慮要素を明確化するために、経済産業大臣が指針(ガイドライン[1])を定めて公表する旨が新たに規定されたこと(同条6項)。

 今回は、主に①の点について見ていきたいと思います。

3.「原始使用者帰属」への対応について

(1)制度の選択

 原始使用者帰属を選択している割合は46.2%、原始従業者帰属を維持している割合は49.9%でした[2]。原始使用者帰属を選択した理由としては、「権利の帰属の安定性」(85.0%)、「事務手続きの簡素化」(45.5%)が多く見られました。

 法改正により原始使用者帰属制度が規定された趣旨は、特許を受ける権利が共有に係る場合の問題及び二重譲渡問題の解決にありましたが[3]、多くの企業も、これらの効果を狙って原始使用者帰属制度を取り入れたと考えられるでしょう。

 他方、原始従業者帰属を維持していると回答した使用者等は、その理由について、「これまで原始従業者帰属で特に問題が生じていないため」(76.4%)とするものが最も多く見られました[4]。上記原始使用者帰属の利点は理論上想定しうるものですが、現実に問題となるケースは限られていると思われます。事実、原始使用者帰属を採用した企業等も、採用後に実感したメリットや問題を問う質問に対して、多数の企業が「特になし」と答えています[5]

 むしろ、原始使用者帰属の選択にあたり直面した問題等として、「従業者の権利を奪うものとの意見が労働組合に寄せられるのではとの懸念があったので、労働組合に対して事前に説明を行った」など、手続き面で慎重さを要したとする企業も見られました[6]

 その意味では、必ずしも早急に原始使用者帰属への対応を迫られている、というわけではなさそうです。

(2)「譲渡書」の扱いについて

 前記の通り、原始使用者帰属を選択した理由として、「事務手続きの簡素化」が挙げられています。

 従前の「原始従業者帰属+予約承継」の制度では、職務発明に関する特許を受ける権利がまず従業者に生じ、次いで、使用者に承継されることとなります。このため、多くの企業では、従業者から使用者への権利承継を示す「譲渡書」が作成されています。

 一方、原始使用者帰属制度では、職務発明に関する特許を受ける権利は原始的に(発生したときから)使用者に帰属するので、「譲渡書」は必要ないことになります。

 この点を捉えて、「事務手続きの簡素化」がされる、と考える企業が多かったことが伺えます[7]

 ただし、原始使用者帰属を選択していると回答した使用者に対して、譲渡書に代わる書面の作成を行っているかを問うと、68.4%が「作成を行っている」と回答しました[8]。「譲渡書に代わる書面」としては、職務発明が使用者等に帰属されていることの確認書や職務発明を権利化することの確認書などが挙げられていますが、原始使用者帰属を採用する場合であっても、社内の手続きの管理上何らかの記録や証左を残す要請があるものと思われます[9]

 また、国内において原始使用者帰属を採用したとしても、外国においては、原始使用者帰属を認めていない国もあり、外国における特許を受ける権利に関しては、依然として譲渡書が必要になるものとも思われます[10]



[1]
特許法第35条第6項の指針(ガイドライン)https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/shokumu_guideline.htm

[2]報告書P.33~。なお、大学等においては、原始使用者帰属が14.5%と少ない。

[3]詳しくは、特許庁総務部総務課制度審議室編「平成27年特許法等の一部改正産業財産権法の解説」P.9~11参照。

[4]報告書P.42

[5]報告書P.37

[6]報告書P.35

[7]実際にそのようなメリットがあるとした例として、報告書P.37参照。なお、「事務手続きの簡素化」としては、共同出願の場合における同意手続きを省けることも、例として挙げられる。

[8]報告書P.39

[9]報告書P.40

[10]外国の特許を受ける権利の取得と譲渡書の扱いについては、「知財管理」Vol.66 No.5 2016 P.513に詳しい。

2017年5月8日

弁護士 水野秀一

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。