1.協議等の手続の状況

 前回の記事記載の「相当の利益」について基準を策定するにあたっては、使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、合理性が判断されます(特許法35条5項)。そして、改正法では、この基準を明確にするため、経済産業大臣による指針(ガイドライン [1] )を定めること、とされています(同条6項)。

(1)協議の状況

 相当の利益の内容に関する基準案の協議を行ったかについては、行ったかまたは今後行う予定であるとする企業が、全体の79.4%でした[2]。相当の利益に関する基準は、利益付与の前提ともなるもので、その策定のための協議は、基準の合理性判断に大きな影響があると思われますから、これを行うことは必須とも言えるでしょう。

 協議の方法については、「集団的協議」(43.7%)、「代表者を通じた協議」(33.1%)、「イントラネットを通じた協議」(26.2%)が多く見られました。

 ガイドラインによれば、「協議の方法については、特定の方法をとらなければならないという制約はな」く、「一同に介した従業者等と話合いを行ったり、社内イントラネットの掲示板や電子会議等を通じて集団的に話合いを行ったりすることも、協議に該当する」とされています[3]。「代表者を通じた協議」としては、労働組合の代表者等と協議することが考えられますが、この場合、当該労働組合の非組合員と別個に協議する必要が生じえます[4]。その意味では、イントラネット等を利用して対象従業員全体と協議を行うのが簡便であると思われます。

(2)基準の開示の状況

 相当の利益の内容に関する基準の開示を行っているかについては、77.6%の使用者等が開示を行っており[5]、特に、大企業[6]では、80%以上の使用者等が開示を行っています。開示の方法は、「従業者等が基準を見ようと思えば見られるような措置がとられていれば[7]」よいとされ、けっしてハードルは高くありません。中小企業では開示を行っている使用者等の割合は63.3%でしたが、何らかの方法で開示を行っておくべきと思われます。

 開示の具体的方法としては、「従業者等が常時閲覧可能なイントラネットにおいて公開」が81.3%と圧倒的に多く、「インターネット上のウェブサイトにおいて公開」が11.1%、「基準を記載した書面を従業者等に交付」が6.8%となっています。

 また、開示の程度としては、ガイドラインにおいて、「基準が開示されているといえるためには、相当の利益の内容、付与条件その他相当の利益の内容を決定するための事項が具体的に開示されている必要がある」[8]とされていますが、「金額や計算式を含む」具体的な内容を開示しているとした使用者等が87.8%[9]に昇りました。使用者側の恣意的な決定と思われないためにも、考慮要素や計算式を示した基準をあらかじめ策定し、公開しておくことが公正な判断につながるものと思われます。

(3)意見の聴取

 ここでいう「意見の聴取」とは、相当の利益を付与する段階になって行われる、相当の利益の内容についての意見聴取です。発明者は、使用者の決定した相当の利益の内容に不服があれば、これについて意見を申し述べるなどすることができます。

 意見の聴取の方法としては、「基準に基づき決定した相当の利益の内容を発明者に通知したあと、発明者(ないし発明者の代表者)から意見を聴取」が71.8%、「あらかじめ発明者(ないし発明者の代表者)から意見を聴取した上で相当の利益の内容を決定」が16.0%でした。上記「基準」が定められていれば、基本的には基準に沿って相当の利益の内容を決定し、事後的に発明者から意見を聞くことで足りると思われます。

 また、意見の聴取の程度については、知財担当者等で決定した相当の利益の内容を発明者に通知し、その内容について発明者は意見を述べることができる、とするものが多く、意見聴取の回数としても1回以内が68.8%、2回以内が89.3%[10]でした。従業者等の側から見ても、意見の聴取の納得度について、「とても納得している」と「納得している」を併せると72.2%であり[11](「あまり納得していない」と「全く納得していない」を併せても9.6%)、小数回の意見聴取で従業者等の大方の納得を得られているものと言えるでしょう。



[1]
https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/shokumu_guideline.htm

[2]報告書P.77

[3]ガイドライン第二の二2(一)(二)。

[4]ガイドライン第二の二2(四)(七)参照。

[5]報告書P.84

[6]大企業、中小企業の定義については、中小企業基本法二条一項参照。

[7]ガイドライン第二の三2(二)。

[8]ガイドライン第二の三3

[9]報告書P.86

[10]報告書P.90

[11]報告書P.97

2017年5月12日

弁護士 水野秀一

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。