<英国>総選挙実施の影響は?
既報のとおり、EU離脱交渉の開始に影響を受けることなく、イギリスは統一特許裁判所協定(UPC協定)の批准に向けた作業を続けると考えられていたが、5月3日に下院は解散、6月8日に総選挙が実施された。この影響により、イギリスの批准は夏以降との見方が出る中、欧州商工会議所の連合であるEUROCHAMBRES及び英国商工会議所は連名にて、単一特許制度実現のための役割を引き続き果たすことを求める書簡を5月23日付けにてビジネス・エネルギー・産業戦略省宛に送付している。このことから、欧州産業界では制度の早期開始を望む声が多いことが推察される。

なお、総選挙実施後、6月下旬には議会は批准の準備を再開したが、7月初めの時点でイギリスは批准の手続きを完了していない。
(※追記(2017年7月7日):統一特許裁判所は7月7日にウェブサイトを更新し、イギリスが、統一特許裁判所協定の暫定適用に関する議定書(Protocol to the Agreement on a Unified Patent Court on provisional application (PPA))に必要な書類を寄託したことを発表した。)

<ドイツ>連邦憲法裁判所が大統領に署名の保留を要請
すでに必要な法案が議会を通過し大統領の署名を待つのみとなっていたドイツでは、UPC協定の合憲性について異議を唱える匿名の申立てを受けて、連邦憲法裁判所が大統領に署名を待つように要請したと伝えられている。従前より、ドイツは自らの批准によりUPC協定の発効時期を確定させると見られていたが、今回の連邦憲法裁判所の動きは欧州単一特許制度の開始に向けて新たな問題を浮かび上がらせた。

<スペイン>議会からは参加を求める声が上がるも・・・
スペイン議会は政府に対して欧州単一特許制度への参加を求める非拘束の議決を2017年3月7日に承認していたが、首相は、3月22日、議会にてあらためて不参加の意向を表明した。

かつて、スペインはイタリアとともに、同制度に関する訴えを欧州連合司法裁判所(CJEU)に提起したが2013年4月に棄却されていた。その後、イタリアは方針を転換し、2015年9月に正式参加している。

なお、今回の議会による議決及び首相の意向表明と直接の関連はないが、スペインでは、以前から予定されていた特許法・実用新案法の改正が2017年4月1日に施行された

<統一特許裁判所>準備委員会のチェアマン名義によるメッセージも公表される
2017年6月7日、統一特許裁判所(UPC)は、2017年12月としていた運用開始のスケジュールを維持できなくなったことをウェブサイトにおいて発表した。これにより、5月見込みであったUPC協定の暫定適用フェーズの開始が遅れるだけでなく、裁判管轄のオプト・アウト申請を受け付けるサンライズ・ピリオドの開始は予想されていた9月よりも遅れることが確実となった。

また、イギリス及びドイツの他に批准が遅れていたエストニア、スロベニア等においても国内手続きが進められている模様であるが、上述のドイツの状況を受けて、UPCは準備委員会のチェアマン名義にて、ドイツにおける問題が早期に解決すれば、2017年秋の暫定適用フェーズ開始に続き、2018年初頭の運用開始を見込めるとのメッセージを6月27日付けで公表している。

UPC協定の発効にはイギリス、ドイツ及びフランスを含むEU13か国の批准が必要であり、2017年6月末時点でフランスを含む12か国が批准を完了していることから、今回のUPC準備委員会チェアマンが示したスケジュール通りとなるか否かは、イギリスの批准とあわせて、ドイツ連邦憲法裁判所の動きに大きく依存するものと考えられる。

【出典】
欧州統一特許裁判所「UPC – Timetable Update – June 2017
欧州統一特許裁判所「A Message from the Chairman, Alexander Ramsay – June 2017
欧州統一特許裁判所「Update on Provisional Application Phase
ジェトロ・欧州知的財産ニュース英国商工会議所及び欧州商工会議所、英国政府に対して統一特許裁判所協定批准を求める共同文書を提出(2017年5月30日)」
Kluwer Patent Blog「Minister De Guindos says Spain will not join Unitary Patent system
欧州理事会「Agreement on a Unified Patent Court」※UPC協定の批准状況を確認できる
欧州理事会「Protocol to the Agreement on a Unified Patent Court on provisional application (PPA)」※統一特許裁判所協定の暫定適用に関する議定書への署名、通知等の状況を確認できる

【参考】
ジェトロ・欧州知的財産ニュース欧州統一特許裁判所協定の暫定適用に関する議定書にEUの7加盟国が署名(2015 年10月15日)」
ジェトロ・欧州知的財産ニュース欧州統一特許裁判所準備委員会、統一特許裁判所協定施行時期に関する見解を表明(2017年6月28日)」
欧州特許庁「Businesses eager for Unitary Patent to start in early 2018」※7月5日に開催されたコンファレンスの報告記事で、実務者レベルでは制度の早期開始を望む声が多いことがわかる

【関連記事】
知財トピックス(欧州情報)[特許/EU、EP、英国]欧州単一特許及び統一特許裁判所の進捗状況(2017年3~6月:その1) ~2017年12月見込みの運用開始は遅れが不可避に~ 2017-06-07追記

季刊創英ヴォイス vol. 79 知財情報戦略室:欧州単一特許制度 ~制度が開始されるまでに知っておきたい基礎知識~ 2017-04-01

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。