知的財産高等裁判所 平成29年1月20日判決

平成28年(ネ)第10046号(原審:東京地裁平成28年3月30日判決(平成27年(ワ)第12414号))

 

第1 はじめに

平成29年1月20日に、延長登録された特許権の効力に関する知財高裁の大合議判決が出された。本稿では、今回の知財高裁大合議判決を概観する。

 

第2 事案の概要

本件は、「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」という発明の名称の本件特許権を有する特許権者が、被告に対し、被告製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案である。本件特許権は、存続期間が延長されているところ、延長された特許権の効力が被告製品の生産等に対して及ぶか、すなわち、特許法第68条の2に規定される延長された特許権の効力の範囲が主たる争点である。知財高裁大合議は、一審の東京地裁判決と同様に、被告製品等に延長された特許権の効力は及ばないと判断した。

 

第3 判決の要旨

1 特許法第68条の2の趣旨について

知財高裁は、「特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨が,『政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするものである』(ベバシズマブ事件最 判)ことに鑑み,存続期間が延長された場合の当該特許権の効力についても,その特許発明の全範囲に及ぶのではなく,『政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)』についての『当該特許発明の実施』にのみ及ぶ旨を定めるものである。」と述べている。

2 延長された特許権の効力の範囲について

知財高裁は、上述のとおり、「存続期間が延長された場合の当該特許権の効力についても,・・・「政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)」についての「当該特許発明の実施」にのみ及ぶと述べている。そして、知財高裁は、「政令で定める処分の対象となった物」に係る特許発明の実施行為の範囲について次のように述べている。

「医薬品としての実質的同一性に直接関わる審査事項は,医薬品の『成分,分量,用法,用量,効能及び効果』である(ベバシズマブ事件最判)ことからすると,これらの範囲で『物』及び『用途』を特定し,延長された特許権の効力範囲を画するのが相当である。」

「そして、『成分,分量』は,・・・『物』を特定する要素とみるのが相当であり,『用法,用量,効能及び効果』は,・・・『用途』を特定する要素とみるのが相当である。」

「なお,・・・『成分』は,・・・有効成分に限られない・・・。」

そして、「・・・存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は,政令処分で定められた『成分,分量,用法,用量,効能及び効果』によって特定された『物』(医薬品)のみならず,これと医薬品として実質同一なものにも及ぶというべきであり,第三者はこれを予期すべきである・・・。」

3 医薬品として実質同一なものに含まれる類型について

知財高裁は、「医薬品の成分を対象とする物の特許発明において,政令処分で定められた『成分』に関する差異,『分量』の数量的差異又は『用法,用量』の数量的差異のいずれか一つないし複数があり,他の差異が存在しない場合に限定してみれば,」以下の4つの類型に分けられると述べている。

「①医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において,有効成分ではない『成分』に関して,対象製品が,政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合,②公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において,対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合で,特許発明の内容に照らして,両者の間で,その技術的特徴及び作用効果の同一性が認められるとき,③政令処分で特定された『分量』ないし『用法,用量』に関し,数量的に意味のない程度の差異しかない場合,④政令処分で特定された『分量』は異なるけれども,『用法,用量』も併せてみれば,同一であると認められる場合(略)は,これらの差異は上記にいう僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異に当たり,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれるというべきである(なお,上記①,③及び④は,両者の間で,特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認される類型である。)。」

なお、知財高裁は、「前記の限定した場合を除く医薬品に関する『用法,用量,効能及び効果』における差異がある場合は,この限りでない。」と述べている。その例として、「例えば,スプレー剤と注射剤のように,剤型が異なるために『用法,用量』に数量的差異以外の差異が生じる場合は,その具体的な差異の内容に応じて多角的な観点からの考察が必要であり,また,対象とする疾病が異なるために『効能,効果』が異なる場合は,疾病の類似性など医学的な観点からの考察が重要であると解される」と述べている。

 

第4 解説

1 知財高裁は、特許法第68条の2に規定される延長された特許権の効力の範囲について、医薬品として実質同一なものにも及ぶと述べている。そして、本判決では、実質同一なものについて4つの類型を示していることに意義がある。これにより、延長された特許権の効力の範囲について一定の方向性が示されたといえる。

4つの類型は、いずれも特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が認められる場合を想定している。判示のとおり、①,③及び④の類型は,両者の間で,特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認される類型である。また、②の類型についても、「公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において,・・・その技術的特徴及び作用効果の同一性が認められるとき」としており、特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が認められる場合を想定した類型である。

また、4つの類型は、いずれも『医薬品の成分を対象とする物の特許発明において,政令処分で定められた「成分」に関する差異,「分量」の数量的差異又は「用法,用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり,他の差異が存在しない場合に限定』した場合である。

そして、知財高裁は、「前記の限定した場合を除く医薬品に関する『用法,用量,効能及び効果』における差異がある場合は,この限りでない。」と述べており、その例として、前述したとおり、「例えば,スプレー剤と注射剤のように,剤型が異なるために『用法,用量』に数量的差異以外の差異が生じる場合は,その具体的な差異の内容に応じて多角的な観点からの考察が必要であり,また,対象とする疾病が異なるために『効能,効果』が異なる場合は,疾病の類似性など医学的な観点からの考察が重要であると解される」と述べている。

知財高裁は、「前記の限定した場合を除く医薬品に関する『用法,用量,効能及び効果』における差異がある場合」として上記の2つを挙げている。1つ目の「スプレー剤と注射剤のように,剤型が異なるために『用法,用量』に数量的差異以外の差異が生じる場合」は、その医薬品の技術的特徴あるいは作用効果の同一性が認められない可能性もある。2つ目の「対象とする疾病が異なるために『効能,効果』が異なる場合」についても同様である(「効能,効果」が異なる場合であるから、作用効果の同一性が認められないのは当然である)。

このような場合、知財高裁は、1つ目については、「具体的な差異の内容に応じて多角的な観点からの考察が必要」と述べ、2つ目については、「疾病の類似性など医学的な観点からの考察が重要である」と述べている。すなわち、当該医薬品の技術的特徴あるいは作用効果の同一性が認められない場合には、差異の内容を抽出し多角的な観点から事情を検討し実質同一の判断をすることになるといえよう。具体的な差異の内容により、どのような事情が重視されるのか等、今後の裁判例の蓄積が必要であると考えられる。

2 また、判決の要旨では省略したが、知財高裁は、均等の5要件の適用ないしその類推適用を否定している。しかし、意識的除外の適用については、禁反言を理由にその適用の余地があることが示されている。

3 さらに、判決の要旨では省略したが、知財高裁は、以下のように判示している。

「オキサリプラティヌム水溶液において,・・・『酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まないオキサリプラティヌム水溶液』を用いることにより,本件発明の目的を達成できることが記載されており,『この製剤は他の成分を含まず,原則として,約2%を超える不純物を含んではならない』との記載も認められる。」

このことから、「本件発明においては,・・・何らの添加物も含まないことも,その技術的特徴の一つであるものと認められるとして、一審被告各製品は,本件各処分の対象となった物と実質同一なものに含まれるということはできない。」

 

 2017年9月5日

弁護士 石川裕彬

 

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