既報の「特許行政年次報告書2017年版」では、「特許異議の申立ての状況」のように特定テーマのコラムのほかにも、審判の現状に関する各種のデータが示されている。

そこで、本稿では、登録された特許に対し、利害関係人が特許の無効を求めることのできる審判である特許無効審判に関するデータを紹介する。

日本情報201710-01_特許無効審判の請求件数

図1に示されるように、特許無効審判の請求件数は増減を繰り返しつつも2015年までは200件を超えていたが、特許庁「特許出願等統計速報」によれば、2015年4月に特許異議申立制度が導入された後は2017年7月まで請求件数が月20件を超えない月が続き、その結果2016年は年間140件まで減少した(なお、こちらの記事で示したように、2016年の特許異議申立ては権利単位で1,214件、申立単位で1,334件)。

日本情報201710-02_特許無効審判の平均審理期間

その一方で、図2からわかるように、平均審理期間については2013年以降は増加傾向にあり、2016年は前年2015年の数値を維持したもの10.5か月となった。2014年から2015年で1.3か月延びている点が特筆されるが、この要因には、特許異議申立の導入と特許無効審判における「審決の予告」の影響が考えられる。それぞれ審判部への負荷及び審理フローの面で審理が長期化する要素ではあるが、異議申立ての件数が増加したのは施行から半年後の2015年10月からであり、平成23年度改正特許法での「審決の予告」制度が導入されたのは平成24年(2012年)4月1日であることから、両改正特許法下で審理された案件の影響が現れる時期と平均審理期間の変化(特に、2014年から2015年で1.3か月延びている点)とが必ずしも連動していないようにも見受けられる。そのため、実際にはこれら2つ以外の要因も特許無効審判の審理長期化に繋がった可能性があると推測される。

なお、「特許行政年次報告書2017年版」によれば、特許異議申立ての平均審理期間は5.8か月となっており、統計上は特許無効審判よりも審理期間が大幅に短い。しかしながら、審理フローの特徴上、取消理由通知、訂正請求等の有無によって審理期間が大きく変化するため、今後、特許異議申立ての審理が長引く案件の増加に合わせて平均が延びる可能性がある。

日本情報201710-03_特許無効審判の最終処分件数

図3は最終処分件数の推移を示している。注目すべきは、長期的に下降傾向にあった無効率(=請求成立/(請求成立+請求不成立+取下・放棄))が2016年に7ポイント上昇した点である。2015年4月以降は請求件数が減少している一方で無効率が上昇した背景としては、平成26年度改正特許法により特許無効審判が利害関係人に限り請求可能となったことで、審判請求人がより慎重かつ周到な準備を行うようになった影響が考えられるが、一時的な傾向である可能性も考えられることから、2017年以降の推移が注目される。

日本情報201710-04_特許・当事者系審判に関する審決取消訴訟

図4は、特許無効審判及び訂正審判を含む当事者系審判に関する審決取消訴訟の判決結果を示したものである(なお、当該期間において訂正審判に係る件数は年1~3件であるため、傾向に大きな影響を与えるものではないと考えられる)。審決取消率は25~42%の範囲で年による変動が大きく、特定の傾向は認められないが、判決数そのものは減少傾向にあることがわかる。

なお、2017年10月末時点で、特許異議申立ての取消決定に関する特許取消決定取消請求事件の判決は1件となっている。

【出典】
特許庁「特許行政年次報告書2012~2017年版
特許庁「特許法等の一部を改正する法律(平成23年6月8日法律第63号)
特許庁「特許法等の一部を改正する法律(平成26年5月14日法律第36号)

【参考】
田口 傑「平成23年改正特許法における無効審判及び訂正審判の運用について」(特技懇 267号 2012.11.13)※頁番号23~24において、「審決の予告」に関する説明が示されている
原 泰造「平成26年改正特許法における特許異議申立制度について」(特技懇 276号 2015.1.28)※頁番号12~13において、「無効審判における請求人適格」に関する説明が示されている

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***追記(2017年11月7日、8日)***
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