1 はじめに
特許権について、訂正審判請求(特許法第126条)を行ったり、無効審判係属中に無効理由を解消させる目的で、訂正請求(特許法第134条の2)を行ったりすることがある。

この際、特許権について第三者にライセンスをしており、通常実施権者が存在する場合、訂正審判請求又は訂正請求をするためには、通常実施権者の承諾を得る必要がある(特許法第134条の2第9項、第127条、第78条第1項)(専用実施権者、質権者等も同様)。なお、承諾を得る必要がある通常実施権者は、職務発明に基づく通常実施権者と許諾に基づく通常実施権者に限られる(第127条、第35条第1項、第77条第4項、第78条第1項)。

承諾を得られない場合、訂正審判請求は審判長による補正命令の後、却下される(第133条第2項第2号、第133条第3項)。訂正請求も同様である(第133条第2項第2号、第123条の2第9項、第133条第3項)。

そうすると、後者の場合、無効審判において訂正請求が出来ないまま、特許が無効となってしまう恐れがある。

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2 通常実施権者に承諾義務があるか
承諾義務を別途契約で定めていないことを前提として、実施権者には訂正審判請求又は訂正請求につき承諾義務があるか、問題となる。

裁判例(東京高判 平成16年10月27日 平成16(ネ)2995)では、事例判断ではあるものの、「特許法127条の法意及び信義則を考慮しても、被控訴人に本件訂正審判請求を承諾すべき義務を認めることはできない」と判示し、承諾義務はないと判断した。

この点あまり議論はされてはいないが、承諾義務を別途契約で定めない限りは、原則として承諾義務は存在しないと考えられている。

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3 契約条項について
通常実施権者の承諾義務、つまり、「特許権者が本件特許につき、訂正審判請求又は訂正請求を行った場合、実施権者は当該請求につき承諾するものとする。承諾しない場合、特許権者はライセンス契約を解除することができる。」(以下「承諾条項」という。)旨を別途契約で定めた場合、特許権者が訂正審判請求又は訂正請求を行うと、通常実施権者に承諾義務が生ずる。そして、承諾義務に違反した場合、契約解除を行い、通常実施権者としての立場を失わせることができる。

しかしながら、通常実施権者の立場からすると、①承諾するかどうかは原則として通常実施権者の自由であり、承諾するかどうかは個別に判断したいと考えられること、②仮に承諾しなかった場合において特許が無効となった場合、実施料を支払う義務を免れる等、承諾しないことによる利益も存することから、事前に承諾条項を定めたくはないだろう。

特許権者の立場からすると、ライセンス契約に承諾条項を入れることが交渉上困難な場合、例えば以下の条項を定めることによって最低限の手当てをすることが考えられる。

「実施権者が、本件特許権について自ら又は第三者をして特許無効審判を請求した場合には、特許権者は催告の上本契約を解除することができる。」(以下、「不争義務条項」という。)

不争義務条項は、特許ライセンス契約でよく用いられる条項ではあるが、不争義務条項を定めておくと、以下の利点がある。

通常実施権者が無効審判請求を行ったとする。そうすると、特許権者はライセンス契約を解除し、通常実施権者にその地位を失わせることができる。そのため、当該実施権者との関係では、訂正請求の場面で、承諾の問題は生じないこととなる。そうすると、訂正の機会を確保することができることとなる。

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不争義務条項は、無効審判の抑止力として機能すると一般的に考えられているが、これに加え、通常実施権者から無効審判請求がなされた場合、(第三者からの無効審判請求に関しては、不争義務条項をもって直ちに通常実施権者に承諾させることはできないが、)ライセンス契約を解除することによって、訂正の機会も確保することができる。

4 まとめ
訂正審判請求・訂正請求をする場合、通常実施権者の承諾が必要となる。これに加え、通常実施権者には、原則として承諾義務が存在しない。

そうすると、特許権者として訂正の機会を確保しておくためには、承諾条項を定めておくことが最善ではあるが、特に無効資料を有している通常実施権者(となろうとする者)とライセンス契約を締結する場合、次善の策として不争義務条項を定めておくと、通常実施権者から無効審判請求がなされたとしても、当該通常実施権者との関係では、訂正の機会を確保することができる。

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