(※続報は【関連記事】のリンク先参照)

1.日本特許庁、「各国における近年の判例等を踏まえたコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状に関する調査研究報告書」を公表

2017年12月7日、日本特許庁(JPO)は19の国・地域を調査対象とした「各国における近年の判例等を踏まえたコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状に関する調査研究報告書」をウェブサイトで公表した。

この報告書では、2017年夏頃時点でのアメリカにおける現状として、特許審査便覧(MPEP)のほか、ガイドライン相当の審査官向けメモランダム等の米国特許商標庁(USPTO)による公表資料をはじめとして、連邦最高裁判所及び連邦巡回控訴裁判所(CAFC)による判決の歴史的変遷や、個別出願の審査経過をサンプル的に調査した結果等がまとめられている。なお、2014年6月のAlice最高裁判決以降で米国特許法101条の特許適格性(保護適格性;日本特許法の特許・実用新案審査基準における発明該当性に相当)を判断したCAFC判決の紹介については、既報のVisual Memory v. Nvidia事件までが網羅されている。

2.米国特許商標庁、特許審査便覧(MPEP)を改訂

上述の日本特許庁による調査研究報告書でもまとめられているように、コンピュータソフトウエア関連発明に関する事件を中心に特許適格性を判断したCAFC判決が相次いでいるが、USPTOは、審査官向けガイダンス/メモランダム及び事例の追加を2017年には行わなかった。しかし、USPTOの諮問委員会Patent Public Advisory Committee(PPAC)は、2017年11月6日付けの2017年度版年次報告書において、更なるメモランダムの発行とMPEPの改訂を促していた。また、次期USPTO長官候補であるAndrei Iancu氏の承認に関する上院司法委員会の公聴会が2017年11月29日に開催された際には特許適格性に関する質疑があり、Iancu氏は対応に前向きな回答を行っていた。

このような動きに呼応するように、USPTOは特許審査便覧(MPEP)の改訂版「Ninth Edition, Revision 08.2017」を2018年1月25日に公表した。今回の改訂は多くのセクションを対象としており、特許適格性に関するSection 2106 Patent Subject Matter Eligibilityでは、下図に示すように、特許適格性ありの判断に至る道筋(pathway)3つを示す形に判断手順のフローチャートが変更されている。しかしながら、例えば2106の改訂内容の説明では「主題適格性に関する現在の庁ガイダンスを反映するために修正(Rewritten to reflect current Office guidance on subject matter eligibility.)」とあるように、全般に審査実務の変更を意図したものではなく、従前と同様にAlice/Mayoテストを特許適格性の評価に用いる唯一のテストとし、これまでに公表された審査ガイダンス、事例集、主要な裁判例等を反映させつつ説明の充実化を図った改訂と言えよう。
(※MPEP改訂後の2018年4月に公表されたメモランダムの紹介を含む記事はこちら

判断手順におけるフローチャートの変更点は下記の通りで、ステップ1の前に「最も広く合理的な解釈(Broadest Reasonable Interpretation; BRI)」の検討を明記した点が目立つが、これはUSPTOの審査におけるクレーム解釈基準と平仄を合わせていることを示すためと思われる。

<図:USPTOにおける特許適格性の判断手順>

2014年12月公表の暫定ガイダンス(参考訳)
2018年1月改訂前の参考訳
※クリックすると拡大表示できます
原文はこちら(PDF)
2018年1月改訂のMPEP 2106(参考訳)
2018年1月改訂後の参考訳※クリックすると拡大表示できます
原文はこちら
注)CAFCの判決文では、Aliceテスト(Mayoテスト、Alice/Mayoテスト、Mayo/Aliceテスト等の名称も用いられる)のステップ1及びステップ2と表記されるが、ステップ1が図中のステップ2Aに対応し、ステップ2が図中のステップ2Bに対応する。

3.連邦巡回控訴裁判所(CAFC)による判決の近況

今回2018年1月に改訂されたMPEPで言及があるCAFC判決にはVisual Memory v. Nvidia事件が含まれるが、出典(6)における裁判例リスト「Chart of subject matter eligibility court decisions」の2018年2月5日更新分によれば、Visual Memory v. Nvidia事件(2017年8月15日判決)より後の8月下旬から12月までの間、CAFCは抽象的アイデアであるか否かが争点となった事件について先例(precedential)となる判決を5件下しており、いずれも特許適格性なしの結論となっている。

そのうち、Smart Systems Innovations v. Chicago Transit Authority事件(2017年10月18日判決;誤記の訂正あり)では、バンクカード情報を用いて交通システムへの入場を制限するためのシステム等に関する対象特許4件(US 7566003 B2, US 7568617 B2, US 8505816 B2, US 8662390 B2)について多数意見は特許適格性なしと判断した。しかしながら、そのうち2件(US 7566003 B2, US 7568617 B2)に対する判断に際して、3人の判事のうち1人は、クレームされている限定に着目しつつ明細書で記載されている発明が奏する機能も検討して、Aliceテストのステップ1(上図のステップ2A)における抽象的アイデアには該当しないとの反対意見を示している。

また、Two-Way Media v. Comcast Cable Communications事件(2017年11月1日判決)では、Aliceテストのステップ2(上図のステップ2B)を「いいえ」とする判断において、対象特許5件のうち、判断を示した4件を2つのグループ「US 5778187 A及びUS 5983005 A」並びに「US6434622 B1及びUS 7266686 B1」に分けつつ、それぞれについて明細書に記載されている構成がクレームで言及されていないことを理由に、クレームが発明概念(inventive concept)に欠如するとして、CAFCは下級審である連邦地裁の判決を支持し、特許適格性なしと判断した。

その後2018年1月には、CAFCは、同じく抽象的アイデアであるか否かが争点となったFinjan v. Blue Coat Systems事件(2018年1月10日判決)及びCore Wireless Licensing v. LG Electronics事件(2018年1月25日判決)において特許適格性を認める判決を下している。

Finjan v. Blue Coat Systems事件では、対象特許(US 6154844 A)の代表クレームである方法クレーム1において所望の結果を達成するための具体的なステップが記載されていることに着目し、Aliceテストのステップ1(上図のステップ2A)の判断において抽象的アイデアではないとして、CAFCは特許適格性ありと判断した。

もう1件のCore Wireless Licensing v. LG Electronics事件では、特許適格性が争点となった2件の特許(US 8713476 B2のクレーム8及び9、並びに、US 8434020 B2のクレーム11及び13)について、明細書の記載を参照しつつ、クレームされた発明が抽象的なアイデアではなく、改良されたユーザーインターフェースを対象としている(directed to)として、Aliceテストのステップ1(上図のステップ2A)の判断においてCAFCは特許適格性ありと判断した。

4.コメント

上記3.で取り上げた4件のCAFC判決は、発明の技術的特徴を明細書で記載することの重要性だけでなく、クレームで技術的特徴に対応する構成をどこまで明確に限定すべきかという点について、改訂後のMPEPとあわせて今後の実務に指針を与えるものと考えられる。

すなわち、Aliceテストの適用(特に、抽象的アイデア(abstract ideas)の判断)に際して、CAFC判決では明細書及びクレームに記載された発明の技術的特徴に着目しているが、このような判断手法は、これまでにCAFCが用いてきた要素である「発明の属する技術分野(例えば、コンピュータ関連技術)における技術的課題とその解決手段」並びに「技術的な改良(improvements)」等に関する言及(例えば、2016年11月2日付けのUSPTOメモランダム及び改訂後のMPEP 2106.04(a)でのMcRO v. Bandai Namco Games America事件に対するCAFC判決への言及(上述の日本特許庁による報告書での説明はこちら))に沿っているものと考えられる。しかしながら、最近のCAFC判決では個別の事案に応じた判断と思われる側面もあり、具体的には、特許権者の主張、地裁段階での議論、パネル(合議体)を構成するCAFC判事等の要素によっても判断が左右されるとの見方は少なくない。そのため、現状に関して、CAFCにおける判断手法の方向性が定まってきたとの評価は可能だとしても、USPTOの審査段階において定型的な対応によって安定性の高い権利を取得することができる状況にはないと言えよう。

また、特許適格性の判断においてクレームの記載を超えて明細書を参酌することについては、Openet Telecom v. Amdocs (Israel)事件において裁量上告の申立てでの争点(issue; question)とされていたが、連邦最高裁は2017年11月27日に棄却しており、新たな規範となる判断が近々に示される可能性も低い。

したがって、特にソフトウエア関連発明については、発明の技術的特徴を踏まえて技術的課題とその解決手段・効果を少なくとも明細書には記載し、所望の権利範囲となる限度でクレームおいても明細書での記載に対応する技術的特徴を限定することが、現時点での審査段階の実務としては、特許適格性の拒絶理由に対する現実的な予防策・対応策になると考えられる。また、これも所望の権利範囲を考慮した上で適切かつ許容できる場合に限られるが、着目する技術的特徴がソフトウエア的な解決手段によってもたらされるものであるときには、一般的な機能向上に関する特徴よりも、解決手段とハードウエアとの関係が明確であり、明細書において技術的な面からの説明が加えられている特徴の方が有利と考えられる。

このような予防策・対応策を取った上で拒絶理由を受けた場合には、拒絶理由を解消しうる技術的特徴を議論して詰めるために審査官とのインタビューを積極的に行うことが有用であるとする現地実務家の見解は多い。また、改訂後のMPEPにおけるステップ1、ステップ2A及び2Bのそれぞれついての説明を踏まえた反論やクレーム補正を行うことはもちろんであるが、その他にも、明細書の記載を積極的に参酌させるために、改訂後のMPEP 2106「II. ESTABLISH BROADEST REASONABLE INTERPRETATION OF CLAIM AS A WHOLE」でのEnfish v. Microsoft判決に関する言及を踏まえて、法112条(f)項の適用を受けてミーンズ・プラス・ファンクション・クレーム(means-plus-function claim)として限定的に解釈されることを意図的に選択することも一考に値するケースが出てくると考えられる。さらに、技術的特徴の詳細を限定した従属クレームを適宜用意することは、権利化後を考慮した備えとなるであろう。

一方、ステップ1(上図のステップ2A)の判例上の例外のうち自然法則及び自然現象・自然物が関連する発明については、抽象的アイデアが争点となる発明(特に、ソフトウエア関連発明)とは異なり裁判例は依然として少ない。しかしながら、改訂後のMPEP 2106.05(a)「II. IMPROVEMENTS TO ANY OTHER TECHNOLOGY OR TECHNICAL FIELD」における既存技術の改良(improvement in existing technology)の例ix.のように、ソフトウエア関連発明の場合と同様に発明の技術的特徴に着目することは有用であると考えられる。また、より技術分野に即した対応を検討するためには、MPEP 2106.05(a)のほか、2012年3月のMayo最高裁判決以降で自然法則及び自然現象・自然物の分野が関連する発明を扱った事件であるRapid Litigation Management v. CellzDirect事件Ariosa Diagnostics, v. Sequenom事件への言及を含むセクションや、自然法則及び自然現象(自然物)に関連する記載を含むセクションを参考にすることも有益であろう。そのようなセクションとしては、例えば下記を挙げることができる。

以上

【出典】
(1)日本特許庁「外国知的財産制度に関する調査研究報告 -産業財産権制度各国比較調査研究報告書について-:各国における近年の判例等を踏まえたコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状に関する調査研究
(2)米国特許商標庁「Patent Public Advisory Committee (PPAC): PPAC Annual Reports FY2017
(3)ジェトロ・米国発 特許ニュース上院司法委員会、Andrei Iancu 氏をUSPTO長官として承認するための公聴会を開催(2017年11月29日)
(4)Federal Register「Manual of Patent Examining Procedure, Ninth Edition, Revision of January 2018
(5)米国特許商標庁「Manual of Patent Examining Procedure (MPEP) Ninth Edition, Revision 08.2017, Last Revised January 20182106 Patent Subject Matter Eligibility [R-08.2017]
(6)米国特許商標庁「
Subject matter eligibility
(7)米国連邦最高裁判所「Docket SearchNo. 17-136

(8)SCOTUSblog「Openet Telecom, Inc. v. Amdocs (Israel) Limited

【参考】
横山 昌史「ワシントン発 スマート米国特許戦略 第1回 新規性・非自明性違反への応答-BRIとは何か?月刊発明2016年9月号)」※最も広く合理的な解釈(Broadest Reasonable Interpretation; BRI)についての論説
横山 昌史「ワシントン発 スマート米国特許戦略 第8回 ソフトウエア関連発明の特許適格性-Alice判決以降の実務的アドバイス月刊発明2018年1月号)」※本文で取り上げたMPEP改訂より前の状況についての論説で、審査官インタビューの有用性等について言及

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***追記(2018年2月6~8日)***
出典(6)において裁判例リストの2018年2月5日更新分が公表されたこと等にあわせて、本文の一部を加筆

***追記(2018年2月14~15日)***
本文の一部を加筆、【参考】に論説を追加

***追記(2018年3月13日)***
<図:USPTOにおける特許適格性の判断手順>において、2018年1月改訂のMPEPにおけるフローチャート原文を参考訳と差し替え、説明を一部変更

***追記(2018年5月7日、16日)***
MPEP改訂後に公表された審査官向けメモランダム関する情報を含む【関連記事】を追加

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