著名な故人の氏名は商標登録できるのか?

人名を含んだ商標を採択するケースがあります。人名だけでなく芸名や愛称の場合もあります。こうした場合にその登録を左右する条文が幾つかあるのですが、その判断基準が必ずしも明確ではないようです。

 選挙に出たり、TVコマーシャルに出たり、ニュースになったりと色々話題を提供してくれるライブドアの堀江貴文氏ですが、そういえば商標「ホリエモン」に関して、ライブドア以外の出願人に係る「ホリエモン」には拒絶理由が通知されています。ライブドアの後願にあたるものに対しては4条1項11号が通知されたようですが、それ以外の出願に対する拒絶理由は4条1項8号の「著名な略称」に該当すると判断したようです。

 ところで、出願に係る商標が、ご存命の著名人の氏名である場合は4条1項8号の問題として処理されますが、故人の場合は4条1項7号が通知されます。特許庁の理論構成は、故人の名声・名誉を傷つけるおそれがあり、商取引の秩序を乱すもので、国際的な信頼を損なうおそれもあり、ひいては国際信義に反するので「公序良俗を害する」というものです。

 しかし、著名な故人の氏名すべてが「公序良俗を害する」という訳でもないようです。

  • シャガール(1985年没)
  • スティーブ・マックイーン(1980年没)
  • アインシュタイン(1955年没)
  • 福沢諭吉(1901年没)
  • ベートーベン(1827年没)
  • モーツァルト(1791年没)
  • バッハ(1750年没)
  • ダ・ヴィンチ(1519年没)

  蒼々たる著名人ばかりですが、特許庁は、シャガール、スティーブ・マックイーン、アインシュタイン、福沢諭吉、については4条1項7号に該当すると結論する一方、ベートーベン、モーツァルト、バッハ、ダ・ヴィンチは該当しないとしています。

 氏名の一部かフルネームか、結合商標の一部に含まれるものか等の事案も異なりますし、審決の時期も異なるので一概にはいえませんが、この中で最も新しい審決では、たとえばベートーベンについて「同人の没後180年近く経過し、同人の遺族並びにその遺産の管理財団等を確認することができない現在においては、本願商標をその指定商品及び指定役務について使用することが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものとはいえず、特定の国若しくはその国民を侮辱し、または、一般に国際信義に反すると言うこともできない」としています(審決日平成17年4月6日。不服2004-6824)。

 そもそも、著名な故人の氏名を商標として登録しないことの根拠条文を4条1項7号に求めることの妥当性に疑問はありますが、他に規定の存在しない現行法の枠内では止むを得ないのでしょう。しかし、どの時代の人物であれば登録を認め、どの時代の人物からは登録を認めないのか、その基準は明確でなければなりません。故人の名声や名誉を傷つけるか否かという判断はあまりに抽象的です。その点、遺族や管理財団等の存否を判断基準の一つにする上記審決は、ある程度明確な指針を示したものです。故人の名声は財産的価値を有するものですから、そこから生じる利益を合法的に享受し得る遺族や管理団体が存在するのであれば第三者の使用を認めることは適当ではなく、そうした観点からも適当な指針といえるのではないでしょうか。

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