1 はじめに
本年6月15日、経済産業省から、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン1)」が公表された。本ガイドラインは、データの利用等に関する契約やAI技術を利用するソフトウェアの開発・利用に際し、契約上の課題や論点、契約条項例、条項作成時の考慮要素等を整理している。

このジャンルのガイドラインとしては、「データに関する取引の推進を目的とした契約ガイドライン2)」(平成27年10月)、「データの利用権限に関する契約ガイドラインVer.1.03)」(平成29年5月)がすでに出されている。前者は、データに関する権限が誰にあるかが確定されている場合に、当該権利者がデータを提供するための条件やポイント等を示したものである一方、後者は、データの利用権限が誰にあるかを取り決めるための考え方を示すものである。今回公表された「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」は、後者のガイドラインの大幅なバージョンアップ版として、契約類型・契約条件の整理や個別取引の深掘り、ユースケースの充実を図るとともに、新たにAIの法的問題も取り扱うこととし、全面的な改訂作業を行ったものである。近年注目されるデータやAIの利活用において、特に契約の場面で参考になると思われることから、今回追加されたAI編についてその概要を紹介する。

2 AI編
(1)従来型システム開発との比較
本ガイドラインは、データ編とAI編からなる。これまでは主としてデータの利用権限やデータの取引が注目されてガイドライン(※注2),3)のもの)が策定されてきた。しかし本来的には、AIとデータは別個の概念である。AIは、少なくとも現状においては機械学習4)を含む一連のコンピュータプログラムであり、その意味で、AIの開発は従来のシステム開発とも比較すべきものである。

本ガイドラインでは、「従来型のソフトウェア開発と比較した特徴」として、

  1. 学習済みモデルの内容・性能等が契約締結時に不明瞭なこと、
  2. 学習済みモデルの内容・性能等が学習用データセットによって左右されること、
  3. ノウハウの重要性が高いこと、
  4. 生成物についてさらなる再利用の需要が存在すること

等を挙げている。

上記のような従来型との違いがある結果、開発完成の可否や完成義務の有無、性能・品質保証等の問題が生じるほか、成果物や開発途中で生じた物の知的財産等の権利の帰属、利用条件、さらには、AIの開発・利用に起因する責任の分配などの問題が生じる。

(2)権利帰属と利用条件・責任の配分
AIの開発・利用には上記のような問題が生じ得るため、それに対応した条項を契約に盛り込むべきである。

権利帰属・利用条件の対象は、大別、データ、プログラム、ノウハウがある。実務的にはこれらが誰のものかという権利の帰属が議論されることが多い。ただし、帰属に拘ると議論が膠着し、事業の目的が阻害されうる。そこで本ガイドラインは、利用条件に目を向けることで妥当な解決を目指すことができることもあると指摘している。具体的には、各データ、プログラム、ノウハウ等について、利用目的、利用期間、利用態様や利用許諾、利益配分等を契約で設定していく。こうすることで、例えば、開発された学習済みモデルの権利はベンダに帰属させつつも、その利用はベンダ内での技術向上のためだけとし、第三者への開示や利用許諾、提供等を制限するなどで、技術流出を防ぐことができる。

また、上記の通り、従来のシステム開発と比べてAIの開発・利用はその性能や結果が予測できない場合が多い。そのため、学習済みモデルの利用に伴う責任に関しては、従来の不法行為法によっては明確な結論を得ることが難しく、ユーザとベンダのどちらがどれくらい責任を負うかが不明確とならざるを得ない。そこで、本ガイドラインは、当事者において、契約に定めることによってそのルールに従って分配されることが望ましいと指摘する。

権利帰属や利用条件、責任の分配の具体的な定め方は、本ガイドラインに記載された契約条項を参照されたい。

3 おわりに
本ガイドライン(AI編)では、上記のような点に着目し、AI技術を利用したソフトウェアの開発契約・利用契約について、具体的事案を想定して説明を行っている他、モデル契約書の逐条的な解説や、多数のユースケースが紹介されている。

本ガイドラインはデータ編と併せて400頁ほどもあり、ここでは到底紹介しきれないが、その内容は網羅的であり、AI・データに関する契約の際に参照すべきものである。

【注】
1)経済産業省「「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を策定しました
2)経済産業省「「データに関する取引の推進を目的とした契約ガイドライン」を公表します ~契約締結時に留意すべき点をチェックリスト化しました~
3)経済産業省「「データの利用権限に関する契約ガイドラインVer1.0」を策定しました
4)本ガイドラインでは機械学習は、「あるデータの中から一定の規則を発見し、その規則に基づいて未知のデータに対する推測・予測等を実現する学習手法の一つ」と定義している。

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法律トピックス AI・データの利用に関する契約ガイドライン(1) 2018-05-30

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