1 はじめに

著作権法は、他者の著作物を利用する行為を原則として禁止しつつ、例外的にいくつかの場合には、著作者の許可を得ることなく著作物を利用することを認めています。これは、著作者の側からすると、一定の場合には、自分の著作権が制限されるということを意味します。一定の場合には、権利を保護するよりも、むしろ権利を制限し、著作物の利用を認める方が、著作権法の「文化の発展に寄与する」という目的(著作権法1条)に適うと考えられているのです。したがって、著作権を制限する規定の適用を考える場合には、「文化の発展に寄与する」という目的のために、権利を保護すべきか制限すべきか、という視点が重要といえます。

著作権法は、著作物の利用が認められる態様として、いくつかの類型を定めています。今回は、著作物の「引用」という類型について、その基本となる考え方を紹介したいと思います。

2 引用とは

クリエイティブな成果を世の中に発信することは極めて有意義なことですが、ゼロの状態から新しいものを産み出すのは困難です。ほとんどの場合、人間の創作活動は、先人の成果の上になるものといえます。たとえば、ブログやSNSで書籍や映画の感想を述べている方、あるいは、さらに踏み込んで、作品の批評をしている方も少なくありません。このような作品の感想や批評等を行うに際して、その対象となる作品の一部を引用することが、極めて効果的であり、読者にとっても分かりやすいことが多いと思います。

一方、たとえば小説のうち、もっとも面白いハイライト部分を20頁、丸々引用されてしまうと、小説の著者にとっては面白くはありません。場合によっては、書籍の売上に悪影響が及ぼされることもあるでしょう。このような著作物の利用が仮に認められてしまうと、今度は、その著者の新たな創作意欲がなくなってしまうかもしれません。

以上のことから、社会全体としての創作活動が活発になるためには、原則としては著作物の利用を禁止しつつ、一定の場合には著作物の利用を認めるというバランスが重要であるといえます。このバランスをとっているのが、引用の要件を定める著作権法32条1項です。

著作権法32条1項は、次のように定めています。

「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」

また、引用する際には合理的な方法および程度で出所を明示しなければなりません(同法48条)。

32条1項の解釈、すなわち、適法な引用にあたるかどうかの判断基準として、伝統的に、(1)引用される著作物と、そうでない部分とが明瞭に区別して認識できることができ(明瞭区別性)、かつ、(2)両者の間には主従関係があり、引用する側が主で、引用される側が従であること(主従関係)が要件である、と考えられてきました。最近は、これらの要件が32条1項に明記されていないことから、この要件が条文のどこから導き出されるのか、という疑問が呈されていますが、これら2つの点が重要な考慮事情であることは、おおむね争いはありません。

3 ブログやSNSへの投稿

前に紹介した伝統的な考え方によって、ブログやSNSの投稿において、文章や画像などの他者の著作物を利用することを検討してみます。

まず、(1)明瞭区別性要件の点は、たとえば、文章を引用する場合には、引用部分の書式をイタリックにしたり、引用部分をセルで囲うということが有効です。これにより、引用部分とそうでない部分を、明瞭に区別することが可能です。写真を引用したい場合には、コラージュ写真を作成するのでない限り、丸ごと引用することが多いでしょう。その場合には、画像の取得元が特定できる形で掲載することにより、引用部分である画像とそれ以外の部分を明瞭に区別できることが多いと考えられます。

(2)主従関係の要件はどうでしょうか。主従関係は、単なる量的な問題ではなく、質的な考慮も必要だと考えられています。たとえば、映画や書籍の感想を述べるとき、批評をするときには、正確に批判するためにかなり長く引用する必要がある場合もあり、そのような場合には、長くとも構わないといえます。判例分析に際して、他人の論文を引用する際にも、長めに引用する必要性が認められる場合もあるでしょう。写真を引用する場合も、写真を引用する量的割合だけではなく、写真を引用する必要性や、写真に関する文章の重要性など、質的な考慮をして、引用の可否を決定することになります。記事全体を見て、引用の対象である画像部分が特に重要という場合は、引用の要件を満たさない可能性が高いと考えられます。他方、写真に関するコメントが創作的である場合には、量的にコメント部分の割合がかなり大きいという場合でなくとも、適法な引用と認められることが多いでしょう。

4 おわりに

インターネット、そしてスマートフォンが登場して久しくなりました。2016年の総務省の統計によると、日本のインターネットの利用者割合は人口の83.5%で、スマートフォンの利用者割合は人口の56.8%です。国民が受信者であり、情報の発信者であるマスコミの情報を一方的に受け取るだけの時代は過去のものになっています。現在では、ブログやSNSなどを通じて、誰もが簡単に世界に向けて、情報を発信することが可能です。一昔前と異なり、だれしもが発信者たりうる現代社会において、著作物の「引用」という条文の重要性は、にわかに高まっていると思います。

うまく「引用」という制度が利用されることにより、豊かな情報が多く世の中に登場してくることを筆者も楽しみにしています。

【参考文献】
中山信弘「著作権法」(有斐閣、第2版)
高林龍「標準著作権法」(有斐閣、第3版)
総務省「平成29年度版 情報通信白書

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