(※米国における情報開示義務及び情報開示陳述書(IDS;Information Disclosure Statement)に関する全般的な説明はこちら

(1) Quick Path Information Disclosure Statement(QPIDS)

米国特許商標庁(USPTO)は、2018年9月28日付けでウェブサイトを更新し、2012年5月から継続してきたパイロットプログラムであるQuick Path Information Disclosure Statement(QPIDS)の恒久化を発表した。

QPIDSでは、情報開示陳述書(IDS; Information Disclosure Statement)の提出義務がありながらも、米国特許規則(37CFR)1.97(d)には規定がない特許発行料の支払後から特許発行までの期間について、所定の申請要件を満たすことで、特許発行の取下げ及び継続審査請求(RCE)を経ずとも、IDSの考慮を審査官に求めることができる。今回のQPIDS恒久化にあたって、パイロットプログラム時の内容から変更はなく、出願から特許発行までの期間におけるIDSの提出要件は表1の通りとなる。

<表1:IDSの提出時期と時期別の要件>

時期 要件
1. 「出願」以降で、
「最初のオフィスアクション(OA)」又は「出願/国内移行から3か月以内」
いずれか遅い方
無料で提出可能
2. 1.以降で、
「ファイナルOAの発行前」又は「許可通知」
いずれか早い方
陳述書(37 CFR 1.97(e))
又は手数料(37 CFR 1.17(p))
3. 2.以降で、
「特許発行料支払い」まで
陳述書(37 CFR 1.97(e))
及び手数料(37 CFR 1.17(p))
4. 3.以降で、
特許発行まで
QPIDSの対象
3.と同一の要件に加えて、
所定の書面及び手数料(一部返還あり)
参考図_IDSの提出時期と時期別の要件※クリックすると拡大表示できます
※IDSに関する全般的な説明はこちら
  • 特許審査便覧(MPEP)では§ 609.01(原文日本語仮訳(PDF))に同様の表が示されているが、当該セクションについて本稿執筆時点で現行のR-07.2015にはQPIDSに関する説明が反映されていない。
  • 時期2.~4.で提出する陳述書は37 CFR 1.97(e)で規定されており、「(1)対応外国出願で最初に引用されてから3か月以内の提出であること」又は「(2)対応外国出願で引用されておらず、情報を知ってから3か月以内の提出であること」を陳述する必要がある(MPEP 609.04(b)V(原文日本語仮訳(PDF))。2018年1月16日施行の料金改定後、37 CFR 1.17(p)の手数料は$240。時期3.~4.において、期間の徒過等により37 CFR 1.97(e)の陳述をできない場合、IDSを考慮してもらうためにはRCEが必要となる(時期4.におけるQPIDSの利用も不可)。
  • 時期4.のQPIDSでは、申請時に陳述書(37 CFR 1.97(e))及び手数料(37 CFR 1.17(p))の$240のほか、特許発行の取下げに係る手数料(37 CFR 1.17(h))の$140及びRCEに係る手数料(1回目$1,300、2回目以降$1,900)の支払いが必要となる。その後、審査が再開される場合は手数料(37 CFR 1.17(p))が返還され、審査が再開されない場合はRCEに係る手数料が返還される。[いずれの手数料も2018年11月現在]

(2) Relevant Prior Art Initiative

USPTOは、情報開示義務に関する「Access to Relevant Prior Art Initiative (RPA Initiative)」を発表し、第1フェーズを2018年11月1日より開始した。

このRPA Initiativeでは、一部の技術部門(Art Unit)が審査を担当する継続性出願(分割出願、継続出願、一部継続出願)を対象として、図1に示すように一世代分の親出願の引用文献を自動的に取り込み、当該引用文献についてはIDSの提出を不要とする(ただし、取り込む回数は1回だけであるため、取り込み後に親出願で引用された文献等については別途にIDSを提出する必要がある)。なお、Federal Register(官報)では、今後の構想として、実施対象の技術部門を広げつつ、取り込む文献については対応外国出願の引用文献まで拡大することも示されている。

2018年11月現在、日本のJ-PlatPatにおいてワン・ポータル・ドシエのファミリー情報から表示可能な「分類・引用情報」では、拒絶理由通知等で提示された文献に関する「文献番号」、「カテゴリ(X, Y等)」、「請求項」、「引用箇所」を表示可能であり、五大特許庁(IP5)の取り組みとして提供されているCommon Citation Document (CCD)においても同様の情報を入手することができる。これらの網羅性は完全ではないものの、IDS提出に必要な情報(例えば、MPEP 609.04(a)III(原文日本語仮訳(PDF))において説明があるconcise explanationの準備に有用な情報)をインターネット上で容易に入手できるようになってきており、将来的には、このような情報が主要特許庁間で効果的に共有されることで、米国特許出願における情報開示義務に伴う出願人の負担が軽減されることが期待される。

<図1:「Access to Relevant Prior Art Initiative」第1フェーズの概要>

図1_「Access to Relevant Prior Art Initiative」第1フェーズの概要
  • 従前より、親出願が国際出願である場合を除いて、審査官によって考慮された情報のリストを分割出願・継続出願で再提出することは不要だが、当該情報が特許公報で示されることを希望する場合には提出が必要となっている(MPEP § 609.02 II. A. 2.(原文日本語仮訳(PDF)))。

【出典】
米国特許商標庁「Quick Path Information Disclosure Statement (QPIDS)
米国特許商標庁「Access to Relevant Prior Art Initiative
Federal Register「Access to Relevant Prior Art Initiative
日本特許庁「特許庁ステータスレポート2018第2部第3章 支援施策、法改正等(PDF)」
five IP offices「Common Citation Document (CCD)

【参考】
日本特許庁「諸外国の法令・条約等 アメリカ合衆国:特許規則 §1.97 情報開示陳述書の提出(PDF)、特許審査便覧 609 情報開示陳述書 [R-07.2015](PDF)」※参考仮訳
横山 昌史「ワシントン発 スマート米国特許戦略 第5回 押さえておきたいIDSのポイント(PDF)(月刊発明2017年5月号)」
Intellectual Property Owners Association「IP5 Common Citation Document & USPTO Citation List(PDF)」※本文中で紹介したCommon Citation Document (CCD)とUSPTOのCitation Listとを取り上げ、使い方、機能等の面から比較した記事

米国特許商標庁「Manual of Patent Examining Procedure (MPEP): Chapter 2000」※開示義務(Duty of Disclosure)に関する章で、2018年1月公表の改訂版「Ninth edition, Revision 08.2017」では情報開示陳述書(IDS)に関する説明の一部がアップデートされた。

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***更新情報(2018年11月26日~30日、12月7日、12月10日)***
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