中国では専利権に関連する紛争事件の件数が近年急増しており、その傾向は2017年も続いている。

人民法院に訴訟を提起する「司法ルート」については表1に示す通りで、2017年は対前年比29.6%増と顕著な伸びを示した。中国では専利が日本の特許、実用新案及び意匠に相当することのほか、訴訟の制度や運用における相違が件数に影響する可能性を考慮しても、日本及び米国との件数差はさらに開いたと考えられる。

〈表1:日米中における特許関連訴訟の件数〉

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
中国(専利) 9,195 9,648 11,607 12,357 16,010
日本(特許) 164 182 154 142 158
米国(Patent) 6,497 5,686 5,564 5,080 4,319
  • 中国は、専利に関する民事案件第一審(司法ルート)の件数
  • 日本は、出典(2)及び(3)において示されている全国地裁第一審の件数に基づく
  • 米国は、各米国会計年度の出典(4)において「Patent」について示されている件数

また、各地方知識産権局による行政取締りの形で差止めを請求することが可能な「行政ルート」については表2に示す通りとなっている。2017年は合計の件数が対前年比34.2%増というだけでなく、特許が同110%増となった点が特筆される。

〈表2:行政ルートの専利権侵害紛争受理件数〉

2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
発明専利(特許) 504 1,010 1,865 2,192 4,596
実用新型専利(実用新案) 1,589 3,461 7,836 7,382 8,550
外観設計専利(意匠) 2,591 3,200 4,501 10,777 14,159
合計 4,684 7,671 14,202 20,351 27,305
  • 出典(5)の各年版において「专利行政执法状况 Patent Enforcement」に示されている件数

中国では、2018年3月に採択された組織改編により国家工商行政管理総局(SAIC)が廃止されることとなり、商標に関する行政は再編後の国家知識産権局の傘下となる。あわせて、国家知識産権局の英語名称及び略称が変更された(略称はSIPOからCNIPAに変更)。

2019年1月1日からは特許等の専門性が高い訴訟の裁判管轄が変更され、第二審は最高人民法院に新たに設立される知識産権法院(知的財産権法廷)が審理することとなっている。また、以前から検討が進められていた専利法改正については2018年12月初めに国務院常務委員会において草案が採択されたところであり、国家知識産権局の発表によれば、2015年12月公表の送信稿と同様に侵害行為に対する損害賠償額の引き上げに関する規定の導入が含まれているとみられる(追記:その後2019年1月4日に公表された専利法改正案については【参考】に示す日本語訳資料参照)。このような動向に近年の出願件数の増加も相俟って、今後も紛争件数の増加が続くとともに、司法の対応力強化が図られるものと考えられる。

【出典】
(1)中国・国家知識産権局「2017年中国知识产权保护状况
(2)日本・知的財産高等裁判所「知財高裁パンフレット(2018)
(3)日本・特許庁「知的財産国際権利化戦略推進事業報告:平成29年度 海外における知財訴訟の実態調査
(4)United States Courts「Judicial Business of the United States Courts
(5)中国・国家知識産権局「统计信息国家知识产权局统计年报
(6)中華人民共和国中央人民政府「中共中央印发《深化党和国家机构改革方案》」※特に(四十三)
(7)中国・国家知識産権局「关于正式启用国家知识产权局新英文译名等事项的通知
(8)中国・中国法院「全国人民代表大会常务委员会 关于专利等知识产权案件 诉讼程序若干问题的决定
(9)中国・国家知識産権局「国务院常务会议通过专利法修正案(草案)

【参考】
科学技術振興機構(JST)「中国知財戦略に関する調査」(2017年3月)
日本特許庁「平成28年度知的財産に関する日中共同研究報告書(2017年3月):基礎調査 中国専利侵害訴訟判例データ分析報告書(2016年11月)」

日本貿易振興機構(ジェトロ)「中国 〉知的財産に関する情報 〉法令・法規 〉法律・法規-意見募集稿:中華人民共和国専利法改正案(草案・日本語訳)改正草案改正案(草案)の説明対比表(いずれもPDF)」

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***更新情報(2019年1月11日)***
【参考】欄にジェトロ提供の中華人民共和国専利法改正案(草案・日本語訳)へのリンクを追加し、本文の一部を変更

***更新情報(2019年2月15日)***
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