(1)最高人民法院、大量出願行為者の登録を無効と判断

2018年6月29日、中国最高人民法院(日本の最高裁判所に相当)は、第三者による商標の抜け駆け(悪意による登録;冒認登録)について注目できる判決を下した。

本件は、「闪银」の文字からなる登録商標(登録第13675000号)に対する無効宣告請求(無効審判)の決定に関する事件の再審((2017)最高法行申4191号)で、下記の1.及び2.が争点となっていた。

  1. 他人の周知著名商標と類似する商標を大量出願した行為は中国商標法44条1項に規定される「その他の不正な手段」による登録に該当するか否か
  2. 原審の審理手続き上の違法性の有無

「闪银」は、個人信用情報サービス会社の「北京闪银奇异科技有限公司(Wecash;以下「閃銀奇異」という)」が2013年11月から使用していた商標であった。しかしながら、本件再審の申立人である「武汉中郡校园服务有限公司」が2013年12月5日に同商標を出願し、2015年9月7日に登録許可が公告されていた。その後、閃銀奇異による無効宣告請求に対して商標評審委員会が登録無効の判断を示したところ、申立人は不服として争ったが、一審・二審ともに登録無効の判断が維持されていた。

再審では、1.について、主に公共利益の損害および不正な公共資源の占有などを考慮して、特定人の民事的権利を侵害する場合であっても商標法44条1項の規定を適用できるか否かが争われた。判決において最高人民法院は、支付宝(AliPay)、微信(WeChat)など他人の周知著名商標に類似する商標を含む出願を1,000件を超える規模で行っていた申立人の種々の行為は公共利益を十分に害するものと評価できると判断し、登録無効の判断を維持した。

また、2.については、口頭審理が実施されなかったことは行政事件の場合は手続上の違法性とまでは言えないとして、最高人民法院は申立人の主張を退けた。

本判決は、商標法44条1項の包括規定(「その他の不正な手段」)を第三者の抜け駆けによる商標登録を無効にする手段として利用できる可能性を示したと考えられる。

(2)商標局、大量出願を使用意思なしとして拒絶

第三者による商標の抜け駆けによる出願(悪意による冒認出願)については、中国国家知識産権局(CNIPA;旧国家工商行政管理総局)の商標局が注目できる取り組みの結果を2018年11月19日付けにて公表した。

公表があったのは、複数の特定企業による不適切な抜け駆けが疑われる1.6万件の商標出願を「一括」で拒絶したという措置で、商標法4条を根拠に「使用意思がないこと」がその理由とされた。これまでに無効宣告請求で同様の理由が主張された事例はあったが、審査で用いられることは珍しい。

これは非常に異例な制裁的措置とも言えるもので、冒認出願に対する商標局の厳しい態度を示すものといえる。

本稿で取り上げた2つの近況は、第三者による商標の抜け駆けの問題について中国司法及び行政が厳格な判断や対応を示す最近の流れに沿った事例と考えられ、引き続き動向が注目される。

中華人民共和国商標法

第四条
自然人、法人又はその他の組織が、生産経営活動において、その商品又は役務について商標専用権を取得する必要がある場合には、商標局に商標登録を出願しなければならない。

第四十四条第一項
登録された商標が、この法律の第十条、第十一条、第十二条の規定に違反している場合、又は欺瞞的な手段若しくはその他の不正な手段で登録を得た場合は、商標局は当該登録商標の無効宣告を行う。その他の単位又は個人は、商標評審委員会に当該登録商標の無効宣告を請求することができる。
(※下線は(2017)最高法行申4191号の争点1.に関する条文の文言として筆者が付与)

~条文の日本語仮訳は、出典(2)の「参考資料:1. 改正法の条文・対照表 (PDF)」より引用~

中国における第三者による商標の抜け駆け問題に関して、日本特許庁は、早期の商標登録や取消請求等の自発的な取組への支援などを含む総合的な支援策を実施している。本問題への対策を理解する上で有用な情報の提供も行っており、直近のところでは出典(3)において「冒認出願対策リーフレット(PDF)」を2018年12月11日付けにてウェブサイトで公表し、そこでは、本稿で取り上げた無効宣告請求等の事後的な対抗手段のほかに、事前の予防策として適時の出願・登録及び出願戦略の構築に関する説明が簡潔に示されている。

【出典】
(1)中国国家知識産権局(CNIPA)商標局「No to Improper Trademark Applications
(2)日本貿易振興機構(ジェトロ)「中国 〉知的財産に関する情報中国・改正商標法マニュアル(PDF)」
(3)日本特許庁「中国・台湾での我が国地名の第三者による商標出願問題への総合的支援策について

【参考】
日本特許庁「特許庁産業財産権制度問題調査研究:(平成29年度)悪意(Bad-faith)の商標出願に関する調査研究-全体版(PDF)、要約版(PDF)」
日本特許庁「知的財産に関する日中共同研究報告書平成29年度知的財産に関する日中共同研究報告書第3章 悪意の商標に関する研究(PDF)」

***更新情報(2019年2月25日)***
日本特許庁ウェブサイトのURL変更にあわせて、【出典】のリンク先を変更

***更新情報(2019年5月15日)***
本文の一部を変更、【参考】を追加

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