今回は、比較的論じられることが少ない、知的財産法と労働法にまたがる論点を紹介する。

(1)職務発明に関する労使の定めと「労働条件」該当性
労働契約法では例えば、第8条において、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と定められ、あるいは、第9条において、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」などと定められ、「労働条件」との用語が用いられている。では、職務発明に関する労使の定めは労働各法でいう「労働条件」に該当するだろうか。

この点、労働条件該当否定説の論拠は、発明の対価たる「相当の利益」(特許法35条)は、あくまで「発明者」たる地位との関係で生じるものであり、「労働者」たる地位との関係とは異なる、とするものや、特許法35条は使用者と従業者の関係を実質的に織り込んでおり、さらに労働法的配慮をする必要はない、とするものが挙げられる。

他方、労働条件該当肯定説の論拠は、発明の対価は従業者の処遇の一つであるとの点や、特許法と労働法で適用範囲が重なるとしても、両者の重畳適用を認めつつ特許法の優先適用を認めればよいのであって労働法を排除する必要はない、とするものが挙げられる。

裁判例は、東京高判 平成16・1・29(「光ディスク」事件控訴審)において、「特許法35条は、特許法中に規定されているとはいえ、我が国における従業者と使用者との間の雇用契約上の利害関係の調整を図る強行法規である点に注目すると、特許法を構成すると同時に労働法規としての意味を有する規定であるということができる」として、特許法35条の労働法規性に言及している。また、東京高判 平成13・5・22(「オリンパス光学工業」事件控訴審)においては、「特許法35条3項、4項は、強行規定であるから、上記定め(※職務発明規定)が、これらに反することができないことは明らかである(就業規則に関する労働基準法92条1項参照)」として、特許法と職務発明規定の関係について、法令と就業規則の関係について定めた労働基準法92条1項を参照している。

裁判例の立場は必ずしも判然としないが、特許法35条の適用においては、労働法的な配慮が必要であることを認識しているものと思われる。

(2)「労働条件」該当性による影響
①労働条件の明示
労働基準法第15条は、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定めている。この規定によれば、使用者は、労働者と労働契約を締結する際(通常は入社前)、労働者に対して、賃金の額や計算方法、支払い時期などや、始業時間、終業時間などを明示しなければならない。

職務発明に関する労使の定めが「労働条件」に当たるとすれば、労働者をあらたに雇い入れる際、職務発明規定などを示す必要がある。ただし多くの場合はそのような運用がされていないと思われ、この「実務との乖離」が「労働条件」非該当の論拠にもなっている。

②就業規則の不利益変更
労働契約法第10条は、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、・・・合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」と定めている。したがって、就業規則の変更によって労働条件を変更するには、その内容が「合理的」であるという労契法10条の要件を満たす必要がある。

他方、職務発明規定については、特許法35条5項において、①基準の策定に関しての協議の状況、②策定された当該基準の開示の状況、③相当の利益の内容の決定についての従業者等からの意見の聴取の状況などを考慮して「不合理でない」ことが求められている。

両者の要件は若干異なるため、職務発明に関する定めが「労働条件」に当たるとすれば、特許法35条に加え、労契法10条の要件にも配慮すべきことになる。

実務上、後者にまで厳密に配慮した規定の設定はあまり見受けられないと思われるが、実際のところ、両者の要件は相当近いものでもあり、特許法35条の要件を満たすことで、ほとんどの場合、労契法10条にも適応できているというのが著者の感覚ではある。

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