(※審理期間に関するデータ、特許権侵害訴訟に関する他の統計等を紹介した記事はこちら

(1)2017年は著作権の新受件数が急増

全国地方裁判所(全国地裁第一審)における知的財産権関係民事事件の件数は、2016年の505件から2017年は692件の対前年比37%増と大幅に増加した(出典(1)参照)。同出典の最新及び過去公表分に基づいて算出した法域別新受件数は図1のとおりで、2017年は著作権の件数が急増し、構成比は2016年の25.4%から2017年は46.4%(いずれもプログラム著作権を除いた構成比)と急上昇していることがわかる。

なお、この急上昇について、知的財産高等裁判所から提供されている資料中には背景等の分析は見受けられない。また、本稿執筆時点で裁判所ウェブサイトにて公表されている著作権関連の判決数(地方裁判所に限定した場合で、2016年=44件2017年=23件2018年=32件)にも目立った変化は認められなかった。

〈図1:知的財産権関係民事事件・種類別新受件数(全国地裁第一審)2013~2017年〉

知的財産権関係民事事件(全国地裁第一審)2013-2017

その一方で、表1(a)に示す通り、全国高裁控訴審の新受件数は、知的財産権関係民事事件全体で2014年をピークに減少が続いている。また、2017年における審決取消訴訟の新受件数は過去10年間で最も少ない236件だった(表1(b)参照)。特許庁の特許行政年次報告書において公表されているデータを加えて比較すると(表1(b)の( )内の件数参照)、審決取消訴訟の件数減少は、特許の査定系審判(主に、拒絶査定不服審判と考えられる)に関する出訴件数の減少が、主な原因となっていることがわかる。

〈表1:全国高裁控訴審及び審決取消訴訟〉

(a)知的財産権関係民事事件
全国高裁控訴審・新受件数
(b)審決取消訴訟・新受件数
2013年 148件 353件(146)
2014年 169件 278件(102)
2015年 161件 263件(72)
2016年 141件 279件(77)
2017年 131件 236件(46)
※( )内は特許の査定系審判に関する出訴件数

(2)今後の法改正に向けた動き

2018年に成立した「不正競争防止法等の一部を改正する法律」により、特許法等において「書類提出命令に係る手続の拡充」が2019年7月1日に施行されるが、直近の動きとしては、2019年3月1日に閣議決定された「特許法等の一部を改正する法律案」を挙げることができる。同法律案の主要な措置事項は以下のとおりとされている(経済産業省ウェブサイトで公表されている概要はこちら(PDF)、新旧対照条文はこちら(PDF))。

  1. 特許法の一部改正
    (1)中立な技術専門家が現地調査を行う制度(査証)の創設
    ・特許権の侵害の可能性がある場合、中立な技術専門家が、被疑侵害者の工場等に立ち入り、特許権の侵害立証に必要な調査を行い、裁判所に報告書を提出する制度の創設(特許法第105条の2等関係)
    ※報道において「立ち入り調査」又は「立ち入り検査」として伝えられている制度
    (2)損害賠償額算定方法の見直し
    ・権利者の生産・販売能力等を超える部分の損害を認定(ライセンス料相当額)(特許法第102条関係)
    ・特許が有効であり侵害されたことが裁判で認定されたことを考慮できる旨明記(特許法第102条関係)
    ・実用新案法第29条、意匠法第39条、商標法第38条においても同様に改正
  2. 意匠法の一部改正
    (1)保護対象の拡充
    以下を保護対象に追加
    ・物品に記録・表示されていない画像(意匠法第2条関係)
    ・建設物の外観、内装デザイン(意匠法第2条、第8条の2関係)
    (2)関連意匠制度の見直し
    ・本意匠の出願から10年以内であれば登録可(意匠法第10条関係)
    ・関連意匠にのみ類似する意匠であっても登録可(意匠法第10条関係)
    (3)意匠権の存続期間の変更
    ・「登録日から20年」から「出願日から25年」に変更(意匠法第21条関係)
    (4)意匠登録出願手続の簡素化
    ・複数の意匠を一括して出願できる制度の導入(意匠法第7条関係)
    (5)間接侵害規定の拡充
    ・「その物品等がその意匠の実施に用いられることを知っていること」等の主観的要素を規定(意匠法第38条関係)
  3. その他
    公益団体等(自治体、大学等)が自身を表示する著名な商標権のライセンスを認める等の措置(商標法第31条関係)

これらの措置事項のうち、「1. 特許法の一部改正」については、「侵害した者勝ち」にならないよう配慮が必要として、権利保護の実効性を高めるための知的財産制度の見直しについて提言した先の報告書(出典(5)参照)を受けたものとなっている。そのため、施行された際には、図1に示した訴訟件数のほか、下記のように報告されている状況(例えば、立証の観点で中小企業が相対的に不利な立場にあることが推察される統計データや、出典(5)で参照されている報告書(PDF)においても言及がある「損害賠償額算定に対する納得感」)にどのような変化がもたらされるか注目される。

  • 出典(7)より:特許権の侵害に関する訴訟における統計(東京地裁・大阪地裁,2014~17(平成26~29)年)(PDF)
    認容判決(原告勝訴)が16%、給付条項ありの和解が28%で、訴訟を通じて権利の実現が図られた考えられる割合の合計は全体の44%
  • 出典(8)より:原告分類別、原告・被告組み合わせ別の勝訴率(PDF)
    「(原告)大企業→(被告)大企業」の場合、36%
    「(原告)大企業→(被告)中小企業」の場合、25%
    「(原告)中小企業→(被告)中小企業」の場合、28%
    「(原告)中小企業→(被告)大企業」の場合、7%
    「(原告)外国企業→(被告)日本企業」の場合、20%
  • 出典(8)より:非侵害を原因とする原告敗訴の割合(PDF)
    原告が「大企業」の場合、37%
    原告が「中小企業」の場合、62%
    原告が「外国企業」の場合、58%
    全体では56%
    →出典中の分析では「中小企業において非侵害による敗訴が多い原因は、見込み違いによる提訴のほか、十分に権利侵害に係る証拠を集めることができないことが理由として推測される。」とあり、今回の特許法改正案における査証制度との関連が見受けられる
  • 出典(8)より:損害賠償請求額/認定額(PDF)
    原告が「大企業」の場合、損害賠償額認定率30%
    原告が「中小企業」の場合、損害賠償額認定率8%
    原告が「外国企業」の場合、損害賠償額認定率24%
    全体では損害賠償額認定率16%

※出典(8)から引用したデータは、2009(平成21)年1月~2013(平成25)年12月に地裁判決があった特許権/実用新案権の侵害訴訟(225件)を調査対象としたもの

【出典】
(1)知的財産高等裁判所「知財高裁パンフレット(2018)」
(2)裁判所「裁判例情報:知的財産裁判例
(3)特許庁「特許行政年次報告書(2018年版)」
(4)経済産業省「「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました
(5)特許庁「実効的な権利保護に向けた知財紛争処理システムの在り方-産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会-
(6)特許庁「特許庁産業財産権制度問題調査研究:(平成27年度)知財紛争処理システムの活性化に資する特許制度・運用に関する調査研究(PDF)」
(7)知的財産高等裁判所「知財高裁の資料 > 統計特許権の侵害に関する訴訟における統計(東京地裁・大阪地裁,平成26~29年)(PDF)」
(8)内閣官房知的財産戦略推進事務局「知財紛争処理タスクフォース(第2回)資料2:イノベーション創出に向けた侵害訴訟動向調査結果報告(1)(PDF)」

【参考】
内閣官房知的財産戦略推進事務局「知財紛争処理タスクフォース(第3回)資料2:イノベーション創出に向けた侵害訴訟動向調査結果報告(2)(PDF)」
知的財産研究所「知財紛争処理タスクフォース(第3回)資料3:特許権等の紛争解決の実態に関する調査研究(PDF)」
特許庁「特許庁産業財産権制度問題調査研究:(平成28年度)特許権侵害訴訟における訴訟代理人費用等に関する調査研究-全体版(PDF)、要約版(PDF)」
特許庁「特許庁産業財産権制度問題調査研究:(平成29年度)特許権侵害における損害賠償額の適正な評価に向けて-全体版(PDF)、要約版(PDF)」

衆議院「議案審議経過情報:閣法 第198回国会 32 特許法等の一部を改正する法律案」※2019年3月1日に議案が受理されている
参議院「議案情報:第198回国会(常会)特許法等の一部を改正する法律案

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***更新情報(2019年3月8日、11日)***
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