2019年1月4日、米国特許商標庁(USPTO)は米国特許法101条の特許適格性に関する新たな審査ガイダンス「2019 Revised Patent Subject Matter Eligibility Guidance」を公表し(出典(1)参照)、その後には抽象的アイデアの追加事例集「2019 PEG Examples 37 through 42」、審査官向け資料等(出典(2)~(3)及び参考参照)を公表した。

新ガイダンスでは、特許適格性の審査における透明性・予測可能性・一貫性を向上させることを目的として、図に示すようにステップ2Aを、プロング1(PRONG ONE; Prong 1)とプロング2(PRONG TWO; Prong 2)の2つの観点により、判例上の例外を「対象としている(directed to)か」否かを判断する流れに変更したことが特徴となっている。

〈図:新ガイダンスによる改訂後のステップ2Aを含む特許適格性の判断手順〉

2019Guidance参考訳

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原文(出典(3)”Introductory training module”の13ページ)の抜粋はこちら

これらプロング1及びプロング2で判断・評価される点の概要は次のとおりとなっている。

改訂後のステップ2A

プロング1(PRONG ONE)
判例上の例外に関する判断である点は従前のステップ2Aと変わらないが、改訂後のプロング1では、抽象的アイデア(Abstract Idea)、自然法則(Law of Nature)又は自然現象(Natural Phenomenon)を「言及(recite)しているか」否かが判断される。

ここで、抽象的アイデアについては「数学的概念(Mathematical Concepts)」、「人間の活動を体系化する方法(Certain Methods of Organizing Human Activity)」及び「精神的な処理(Mental Processes)」の3つにグループ分けされ、これらのうちいずれかをクレームの限定が含んでいない場合には、特許適格性を満たすと判断される。

プロング2(PRONG TWO)
判例上の例外を超える追加の要素がクレームにおいて記載されているか否かが特定される。その上で、従前と同様の観点(例えば、コンピュータ機能、他の技術又は技術分野の改良)から、当該追加の要素が、判例上の例外を実用的な応用(practical application)に組み入れる(integrate)ものであるか否かが評価される。

ステップ1、ステップ1後の合理化分析(Streamlined Analysis)及びステップ2Bについての変更はない。そのため、ステップ2Bに関して、MPEP 2106.05(d)及びBerkheimerメモランダム(PDF)に基づいて、追加の要素(又は追加の要素の組み合わせ)が、「よく知られ、ルーチンで、慣習的な活動」ではないとの反論を行うことは引き続き有用である。

また、ステップ2Bではクレームされた要素が「よく知られ、ルーチンで、慣習的な活動」のみを表しているか否かという点を考慮するが、ステップ2Aでは「よく知られ」等でも実用的な応用に繋がれば特許適格性ありと判断される。そのため、今回の新ガイダンスに従えばステップ2Aで特許適格性が認められやすくなると考えられ、今後、101条の拒絶理由が減少することを予想する見方が現地では出ている。

その一方で、新ガイダンスは法的拘束力を有するものではなく、審査官が新ガイダンスに従わずに判断したこと自体を審判請求の根拠とすることはできない。直近でも、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が2019年4月1日に判決を下したCleveland Clinic Foundation v. True Health Diagnostics事件では、新ガイダンスではなく2016年5月に公表されたライフサイエンスの事例29(PDF)に関するものではあるが、次のような言及がある。

判決文13ページ(PDF)より~
While we greatly respect the PTO’s expertise on all matters relating to patentability, including patent eligibility, we are not bound by its guidance. And, especially regarding the issue of patent eligibility and the efforts of the courts to determine the distinction between claims directed to natural laws and those directed to patent-eligible applications of those laws, we are mindful of the need for consistent application of our case law. (下線は筆者が付加)

このような性質から、USPTOの審判部(PTAB)はもちろん、連邦地方裁判所やCAFCが、今回の新ガイダンス(特に、ステップ2Aのプロング1及びプロング2の観点)とどの程度まで整合する判断を示すかが今後注目される。

なお、今回の新ガイダンスに関しては2019年3月8日まで意見募集が実施された(出典(4)参照)。米国法曹協会知財法部門(ABA-IPL)、米国知的財産権法協会(AIPLA)、米国知的財産権者協会(IPO)等の知財関係団体からの意見では、透明性・予測可能性・一貫性の向上を図った点を中心に全般に好意的なコメントが目立つが、それと同時に、裁判所による判断との間で齟齬が生じることへの懸念に基づく提案や、根本的な解決策として法101条の改正を求める意見等も示されている点は興味深い。

【出典】
(1)Federal Register「2019 Revised Patent Subject Matter Eligibility Guidance
(2)米国特許商標庁「Subject matter eligibility」※2019年1月7日~8日の更新で公表された資料は下記のとおり

また、2019年2月1日には裁判例リスト「Chart of subject matter eligibility court decisions(XLS)」の最新版が公表された。

(3)米国特許商標庁「Patent Examination PolicyTraining materials on subject matter eligibility」※審査官向けのトレーニング資料が掲載されているページで、2019年3月6日付けで新ガイダンスのステップ2Aに関する下記の資料2つがアップされた

(4)連邦巡回控訴裁判所「OPINIONS & ORDERS: CLEVELAND CLINIC FOUNDATION V. TRUE HEALTH DIAGNOSTICS LLC [OPINION – NONPRECEDENTIAL]
(5)米国特許商標庁「Comments on 2019 Revised Subject Matter Eligibility Guidance

【参考】
米国特許商標庁「Patent Quality Chat (2019 Chat Series) Revised Subject Matter Eligibility Guidance: Slides(PDF), Video
Thom Tillis上院議員「Sens. Coons and Tillis and Reps. Collins, Johnson, and Stivers Release Section 101 Patent Reform Framework」※米国議会上下両院の議員からなる超党派グループによる「米国特許法101条の改正に関する枠組み(framework)」についてのプレスリリース(2019年4月17日付け)で、「実用的な応用(practical application)」の文言が使われている等の点で今回の新ガイダンスの内容を成文化するような提案が含まれている
ジェトロ・知財ニュース米国発 特許ニュース 2019年5月24日  上院司法委知財小委員会のTillis議員ら、特許法第101条改正法案の草案を発表(PDF)」

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***更新情報(2019年4月8日、9日)***
出典(4)のCleveland Clinic Foundation v. True Health Diagnostics事件及び出典(5)の意見募集の結果に関する記述を追加

***更新情報(2019年4月19日、6月5日)***
【参考】及び【関連記事】に追記

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