1 はじめに
特許権を侵害された場合の主な対処方法として、本案訴訟の提起と仮処分の申立てが挙げられる。今回は、仮処分について焦点を当てる。

2 仮処分の概要
実務上よく利用される類型としては、特許権侵害差止めの仮処分である。これは、特許権(または専用実施権)に基づく差止請求権(特許法100条1項)を被保全権利として、実施行為(例えば、被疑侵害品の製造、販売等の行為)の差止めを求めるものである。

本案訴訟では、被疑侵害品の販売等の差止めや損害賠償請求を請求することができるが、仮処分では差止めを請求することができるにとどまる(損害賠償は請求できない)。

3 仮処分のメリット
本案訴訟の差止請求の場合、特許権侵害であると判断されたとしても、第一審判決に対して執行停止が容易にできる(ほぼ認められる)。すなわち、この段階では差止めは実現しない。一方で、仮処分の手続きでは、侵害が認められると執行停止を求めることができず、差止めが実現する。差止めの早期実現という点で、仮処分は有効な手段であるといえる。

次に、仮処分では印紙代が一律2,000円のためコストを抑えることができる。

実務では、仮処分と本案訴訟が同時に提起されることがある。この場合、双方の事件が同一の裁判所に係属して並行して進行していくことになる。

同時に提起することのメリットとしては、以下のとおりである。本案訴訟では侵害論が先に審理され、侵害の心証を裁判所が持つと損害論を審理するという流れになる。そのため、侵害の心証を裁判所が持ったとしても、その時点で直ちに判決がなされることなく損害論の審理に進む。

そこで、本案訴訟に加えて仮処分を同時に提起しておけば、裁判所が侵害の心証を持った時点で仮処分命令の発令を認める可能性があり、差止めを早期に実現できる可能性がある。また、被告が、仮処分命令が出されるリスクを考慮して和解に応じやすくなるなど、交渉を優位に進めることができる点もメリットと考えられる。

4 仮処分のデメリット
仮処分で差止めが認められたとしても、その後の本案訴訟で負けてしまうと、原告はそれによって発生した損害(例えば、製品の販売を差し止めたことによる損害)を賠償しなければならない。この場合に、原告にとっては本案訴訟を提起したことでかえって赤字になるというリスクがある。そのため、特許で技術的に複雑でない(比較的侵害が明らかと思われるもの)事案については仮処分を行う傾向がある。しかしながら、侵害の成否が明らかとはいえないような事案では、本案訴訟で判断が覆るリスク等を考慮して、仮処分を申し立てない、申し立てた上で途中で取り下げる、あるいは本案訴訟での心証で勝てる見込みがあると判断してから仮処分を申し立てるということがある。なお、特許権の残存期間が少ない場合にも、差止めを認めてもらうことの効果が小さいとして仮処分を申し立てないこともある。

なお、上記のような侵害の成否が明らかでない事案では、仮処分と本案訴訟を同時に提起したとしても、裁判官によっては本訴に絞って検討したい旨の打診(仮処分は取り下げてほしい旨の打診)がある。あるいは本案訴訟の判決が終わるまで仮処分の結論が先送りにされるといったことも起こり得る。

次に、仮処分とはいっても実質検討する内容は本案訴訟の侵害論と同じであるため、一般事件と比較して審理期間は長期化する傾向にある(本案訴訟における侵害論の審理期間とさほど変わらない)。

さらに、仮処分決定を得るためには、特許権者が担保を供託しなければならないという点もデメリットといえる。

5 おわりに
仮処分は、被疑侵害品の早期差止めを実現することができる強力な手段である。そして、仮処分には上記のとおりメリット、デメリットがある。そのため、事案に応じて、仮処分を申し立てるべきか否か、申し立てるとしてどのタイミングで申し立てるべきかを検討し、仮処分を有効に活用することが重要である。

【参考】
経済産業省「特許権侵害への救済手続
経済産業省「裁判所の手続を利用する:仮処分の申立て」

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