1 はじめに
2回にわたり、査証制度について概要をご説明しております。今回は後編です。

※【前編】はこちら
季刊創英ヴォイスでの別シリーズ記事第1回はこちら(PDF)

2 査証制度【前編】からの続き)
(4)査証に非協力的な場合の効果
査証を申し立てられた被疑侵害者側が査証に協力しない場合、どうなるのでしょうか。

改正特許法第105条の2の5は、「査証を受ける当事者が前条第二項の規定による査証人の工場等への立入りの要求若しくは質問若しくは書類等の提示の要求又は装置の作動、計測、実験その他査証のために必要な措置として裁判所の許可を受けた措置の要求に対し、正当な理由なくこれらに応じないときは、裁判所は、立証されるべき事実に関する申立人の主張を真実と認めることができる。」と規定しています。すなわち、査証人による査証を正当な理由なく拒絶するような場合は、侵害訴訟において、申立人側が査証により立証しようとした事実が正しいものとして扱われてしまいます。

(5)報告書による営業秘密等漏洩リスクへの対処
査証を受けた側としては、査証人の報告書に営業秘密等が記載され、訴訟手続を通じてこれが公開されてしまう可能性がありますが、これは受忍しなければならないのでしょうか。

これについては、①査証報告書の一部の非開示(黒塗り)が認められるか、②認められないとしてどのように対処するか、という2つの観点から整理すべきと考えられます。

(ア)査証報告書の非開示について
査証人は、査証報告書を作成した場合にはこれを裁判所に提出し、裁判所はこれを査証を受けた側に送達します。この段階で、査証を受けた側は裁判所に対し、査証報告書の一部または全部の非開示を申し立てることができます。この申立てが通った場合には、該当部分は黒塗りがなされ、それが査証報告書として査証の申立人による閲覧・謄写等の対象となります。

裁判所が非開示の申立てを認めるのは、申立に「正当な理由があると認めるとき」です(改正特許法第105条の2の6)。この点には注意を要します。査証を受ける側は、査証報告書に営業秘密が書かれた場合、正当な理由を裁判所に説明して認めてもらえなければ、その営業秘密は査証報告書に記載され、申立人側に開示されてしまうことを意味します。また、「正当な理由」があるかどうかの判断は、「侵害を立証するための必要性というものと、そして一方で、営業秘密などを保護する必要性、この二つの必要性を比較考量して判断する」と説明されております。すなわち、営業秘密の保護の必要性があったとしても、侵害立証の必要性の方が重要だと判断されれば、開示が優先されます。(なお、国会審議では、開示される典型的なものとして、「まさに侵害をしているという証拠になるようなものを企業が営業秘密として管理をしている場合」が挙げられております。査証制度の目的からすると当然といえます。)

査証を受けた側が非開示の申立てをしないか、あるいは非開示の申立てについての裁判が確定した場合には、非開示とされなかった部分が開示された査証報告書が、査証の申立人の手に渡り、これが場合によっては訴訟の証拠として用いられることになります。

(イ)非開示が認められなかった場合の対応
証拠として採用された資料は、原則として一般に公開され、非開示の申立てが認められなかった部分も含めて、何人でも閲覧が認められます。

これに対しては、当該部分が営業秘密である等を疎明すれば、閲覧制限が認められ、以後一般公開されることを防ぐことができます(閲覧制限等申立、民訴訟第92条)。

もっとも、前述のとおり、査証報告書で隠しておきたい事項の非開示の申立てが認められなかった場合、この部分が査証申立人側に知られてしまうことは避けられません。査証申立人側からの情報漏洩を防ぐためには、秘密保持命令(改正特許法第105条の4)による対応が必要となると考えられます。

3 おわりに
実際には、特許権があり、第三者による特許権侵害が疑われても、これを立証する手段がないために放置する、といったケースもしばしば見られるところでした。このような状況が維持されてしまえば、侵害した者勝ちとなってしまい、我が国の特許権の価値が疑われてしまいます。

査証制度は、特許権の保護を実効化するものです。この制度が適切に運用されることを期待したいと思います。

【参考文献】
・「特許法等の一部を改正する法律(令和元年5月17日法律第3号)特許法等の一部を改正する法律の概要(PDF)」(経済産業省)
・国会経済産業委員会議事録(第198回国会 経済産業委員会 第7号 平成三十一年四月十二日(金曜日)

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季刊創英ヴォイス
vol. 85 知財情報戦略室:データから見る日本における特許侵害訴訟の現状[2019年版](PDF) 2019-04-01
vol. 86 視点:平成31年特許法改正による査証制度について(第1回)(PDF) 2019-08-01

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