1 概要
特許侵害訴訟において、特許権者が被疑侵害者に特許権侵害に基づく損害賠償請求をする場合、民法709条を根拠に損害賠償請求することとなる。しかし、特許害訴訟では、民法709条で求められる損害額の立証は困難である。そこで、権利者の損害額の立証を容易にしたのが特許法102条である。

2 改正特許法102条1項
「令和元年特許法等の一部を改正する法律」により、特許法102条が改正された(下線部は改正部分)。
20200619topics3

今回は、改正特許法102条1項について4月30日発行された特許庁総務部総務課制度審議室編『令和元年特許法等の一部改正 産業財産権法の解説』(発明推進協会)1(以下、「解説書」という。)を参考にしながら解説することとする。

3 改正特許法102条1項1号
改正特許法102条1項1号は、2号新設に伴い改正前特許法と若干記載が異なることになったが、改正前に比べ実質的な変更はない。(詳しい解説は既報をご参照ください。)

4 改正特許法102条1項2号
本来であれば、被疑侵害者が適法に特許発明を実施するには、特許権者によるライセンスを受けなければならない。そして、実施能力を超えた数量が存する場合や販売することができない事情が存する場合でも、本来であれば特許権者がライセンスをしなければ被疑侵害者が販売できなかった分も含まれる場合がある。しかし、この部分について損害を一切認めないとなると、特許権者がライセンスできたのに侵害によってできなくなったということで、ライセンスをする機会を喪失したことになる。

そこで、改正特許法102条1項では、権利者自らが実施すると同時にライセンスを行ったと擬制し得る場合に限って、1号にプラスして、実施能力を超えた数量及び販売することができない事情に相当する数量について実施料相当額を請求できると規定した。そして、2号では、「実施許諾し得たと認められない場合を除く」旨が括弧書で規定されているが、具体例が解説書にて示されている。以下、私見を交えて検討する。

(1)「実施相応数量を超える数量」について
原告の実施能力に限界がある場合、その部分について権利者が他社にライセンスしてライセンス収入を得ようと考えるのは自然であるため、通常、侵害者に対してライセンスし得たと観念することが可能である。そのため、括弧書には当たらず、ライセンス相当額を請求できると解する。

(2)「販売することができないとする事情」について
知財高判 令和2年2月28日(令和元年(ネ)第10003号)によれば、特許法102条1項における「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい、例えば、〔1〕特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性)、〔2〕市場における競合品の存在、〔3〕侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、〔4〕侵害品及び特許権者の製品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの事情である。

〔1〕原告製品と侵害品の市場等が異なる場合、〔2〕原告製品の競合品が存在する場合、〔3〕侵害者の営業努力が存する場合は、いずれも本来であればライセンスを受けなければ侵害者は販売できなかったと考えられ、侵害者に対してライセンスし得たと観念することは可能である。そのため、原則としては、括弧書に該当せず、ライセンス相当額もプラスして請求できると解する。(なお、解説書(20頁)では、〔3〕に関し、「当該事案の事実関係に照らし…判断される」としている。)

〔4〕侵害品及び特許権者の製品の性能に相違が存在する場合(又は特許発明が侵害製品の付加価値全体の一部にのみ貢献している場合)は、特許権が貢献していないという理由で数量が控除されているため、その部分についてはライセンスの機会が喪失したとはいえず、括弧書に該当し、ライセンス相当額を請求できないと考えられる。

【出典】
1.特許庁「令和元年法律改正(令和元年法律第3号)解説書

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。