特許庁に提出する書類として、例えば委任状や宣誓書などでは、出願人や発明者の署名が必要な場合がある。しかし、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに在宅勤務が広がっている現状では、書類への手書き署名が困難な場合も多いと思われる。このような場合、米国特許商標庁では電子的な署名が認められていることから、利用について相談が増えている。

米国特許商標庁が認める電子的な署名には、S-signatureや、graphic representationがある(規則1.4(d))。S-signatureとは、パソコン等により署名者の氏名をサイン欄にタイプ入力し、前後をフォワードスラッシュ (/)で挟んだものである。S-signatureの横又は下には署名者の氏名を明記する必要がある。例えば、下記の例1、2は適正な署名として扱われる。

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graphic representationとは、電子出願システムを通して提出する書類に対し、手書きしたサインやS-signatureを画像として保存したものを貼り付けて使用するものである。

た だ し、当 然 の こ と な が ら S-signature や graphic representationは署名者本人が行う必要がある。なお、将来の紛争に備えて、署名者本人が行ったことを証明するための証拠を保存しておくのが好ましい。例えば、米国出願時の宣誓書等にS-signature又はgraphic representationで署名するように発明者にメール(署名欄がブランクの宣誓書等を添付)で依頼し、発明者に署名を完了したというメール(署名済みの宣誓書等を添付)を返信させ、一連のやり取りを保存しておくことが挙げられる。また、「就労中に生じた発明に関する権利は、日本に限らずワールドワイドに企業に帰属する」という趣旨の文面を含む雇用契約(入社時に署名捺印したもの)も、立証に役立つと思われる。

なお、米国特許商標庁では譲渡の有効性は判断せず、提出された書類の登録を行っているだけである。譲渡の有効性については行為地の法律が適用されるため、無用な争いを避けるためには譲渡書には手書きの署名が推奨される。ただし、本人が署名したことを十分に立証できる証拠を揃えておく限り、多くのケースで電子的な署名でもリスクは限定的であろう。

それでは、米国以外でも電子的な署名が認められる国はあるのか? 残念ながら、欧州や中国など多くの国では未だ署名自体は手書きで行う必要がある(それでも、手書きで署名した書類をスキャンしてPDF等で提出を認める国は多い)。今後は電子的な署名を認める国が増えてくるものと推測される。

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