1 民事上の規制
会社(営業秘密保有者)の営業秘密へのアクセス権限を有する従業員が、不正の利益を得る目的又は会社に損害を加える目的(図利加害目的)で、その営業秘密を使用する行為又はその営業秘密を開示する行為は、不正競争(不正競争防止法2条1項7号)に該当します。

なお、商業的に収集・提供されるビッグデータ等の限定提供データのついては、図利加害目的に加えて、任務違反が不正競争(不正競争防止法2条1項14号)に該当するための要件になります。

不正競争防止法所定の不正競争に該当する行為は、差止請求及び損害賠償請求の対象になります。

不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争:
営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為

不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争:
限定提供データを保有する事業者(以下「限定提供データ保有者」という。)からその限定提供データを示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその限定提供データ保有者に損害を加える目的で、その限定提供データを使用する行為(その限定提供データの管理に係る任務に違反して行うものに限る。)又は開示する行為

不正競争防止法7条(限定提供データの定義):
この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)をいう。

2 刑事上の規制
上記の民事上の規制では、営業秘密が実際に使用されるか第三者に開示されることが差止・損害賠償請求の要件になります。これに対し、刑事上の規制では、使用・開示は処罰の要件とされていません。被告人が実際に営業秘密を使用するか第三者に開示する前であっても刑事罰が成立し得ます。刑事犯罪が成立するための構成要件は次に掲げる①~③の事実です。

①不正の利益を得る目的又は会社(営業秘密保有者)に損害を加える目的(図利加害目的)
②営業秘密の管理に係る任務に背いていること
③営業秘密データを自己の記憶媒体に複製する等の持出行為

会社の不正行為を告発するための証拠資料又は自己の正当な権利を行使するための証拠資料にするために営業秘密を持ち出す目的は、「不正の利益を得る目的」には該当しません。

民事上も刑事上も不正競争防止法違反を主張する者が「不正の利益を得る目的」の立証責任を負います。ただし、後述するとおり、最高裁判決によると、被告人が営業秘密を持ち出した合理的理由を説明できない場合には、不正競争防止法違反を主張する者が具体的な不正の利益を得る目的と特定しなくても、裁判所は被告人は何らかの不正の利益を得る目的を有していたと認定できます。

営業秘密へのアクセス権限を有する従業員が不正の利益を得る目的を有しているとき、通常、持出行為は、データ使用規程に違反し、営業秘密の管理に係る任務に背くことになります。なお、営業秘密へのアクセス権限を有さない者が営業秘密を取得する行為も、実際の使用・開示を問うことなく、処罰の対象になります(不正競争防止法21条1項1号)。

不正競争防止法21条:
次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、(略)管理侵害行為(略)により、営業秘密を取得した者
(略)
三 営業秘密を営業秘密保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得した者
(略)
ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。

3 最高裁判所平成30年12月3日判決
(1)事案
自動車メーカ(A社)の従業員であり、営業秘密へのアクセス権限を有する被告人が、退職する約2週間前及び数日前に営業秘密(商品企画に関する情報など)の電子データの一部を自己の記憶媒体にコピーした。このとき被告人はA社の同業他社に転職することが内定していた。

(2)判決
最高裁判所は、被告人がコピーした営業秘密をA社における業務に使用した事実がないこと、またコピーする必要性・合理性が見受けられないことから、被告人は自己又は転職先のために何らかの不正の利用を得る目的で当該コピーをしたと認定しました。その結果、被告人の有罪が確定しました。

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