1 はじめに
特許法102条3項は、「特許権者…は、故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」と規定する。

この「実施料相当額」は、令和元年大合議判決(二酸化炭素含有粘性組成物事件、知財高判令和元年6月7日平成30年(ネ)第10063 号)で「原則として、侵害品の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである」と判示している。そして、その算定に当たっては、「通常の(実施許諾契約における)実施料率に比べて自ずと高額になるであろう」と判示しているが、その理由は、第4 回で説明した。

さて、通常の実施許諾を行い、実施権者が実施品を販売した場合、事実上、実施権者はライセンス料を考慮した実施品の価格を設定することとなる。他方で、実施許諾を受けずに被疑侵害品を販売する場合、当該被疑侵害品の業界の相場に比して低廉な価格で販売することも可能となっている。

このように被疑侵害者が低廉な価格で被疑侵害品を販売している場合、被疑侵害品の売上高を基準として実施料率を乗じて「実施料相当額」を算定すると、特許法102条3項で認められる損害額も不当に低廉となってしまうという問題点がある。

そこで、今回は、著作権に関する事案ではあるが、この点について判示した裁判例(知財高判平成22年11月10日平成22 年(ネ)第10046 号)を紹介することとする。

2 SLDVD事件の事案の概要
本件は、世界各地の蒸気機関車(SL)の映像を本件ビデオテープに撮影した本件映像の著作権者であるXが、Yにおいて、Xに無断で本件映像を編集して作成した本件DVDを仕入れて販売したことにつき、Yに対し、〔1〕本件映像についての著作者人格権(同一性保持権)の侵害を理由とする、著作権法112 条に基づく本件DVDの頒布等の差止め及び廃棄、〔2〕本件映像についての著作権(複製権)及び著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)の侵害を理由とする、財産的損害4,000万円(主位的には、逸失利益相当額。予備的には、著作権法114条3項に基づく損害額)、精神的損害500万円及び弁護士費用450万円、以上合計4,950万円等の支払を求めた事案である。

3 SLDVD事件の判示事項
著作権法114 条3 項(特許法102 条3 項に相当する)に関する部分について、知財高裁は次のように判示した。「Xが受けるべきDVD 1枚当たりの著作権料相当額を算定するに当たって基礎とすべきDVD 1枚当たりの販売価格としては、本件DVDの映像が世界各地の貴重なSLを収録したものであること、その収録時間(46 分)、同種のDVD商品の価格等を考慮すれば、4,000円が相当であると認められる

他方で、Yによる本件DVDの販売価格である315円(税込み)は、前記の本件DVDの内容や同種のDVD商品の販売価格に照らして、相当程度低廉であって、かつ、Yによる販売価格は、Xに無断で放送された本件作品1 及び2を利用して本件DVDが作成されたことから可能となったものであること…からすれば、これを基準にXの著作権料相当額を算出するのは相当でない。

「本件DVDについて、販売枚数1 枚当たりのXが受けるべき著作権料相当額は、販売価格の5パーセントと認めるのが相当である。」

(筆者注:Yが実際に本件DVDを仕入れた枚数は9,984枚であるが、そのうち3,403 枚は納品元に返品していたところ、)
「Yにおける本件DVDの販売枚数は6,581 枚であり、原判決は、かかる枚数についてXの損害を算定しているが、本件映像の複製権侵害は、納品された9,984枚において生じているものであって、Xが受けるべき著作権料相当額は、9,984 枚について算定すべきである。」

4 検討
本裁判例は、被疑侵害者が低廉な価格で被疑侵害品を販売していた場合、著作権法114 条3 項(特許法102 条3 項)における実施料相当額を算定するにあたり、被疑侵害品の価格を基準とするのではなく、被疑侵害品の内容や貴重性、同種の製品の価格等を考慮して、別途「基準となる価格」を算出した裁判例である。

特許権者が実施品等を販売している場合、被疑侵害者が低廉な価格で被疑侵害品を販売すると、より実施品の売り上げに対する影響が高くなるのに、実施料相当額の基準額は低くなるという結論は不当であるし、本来支払うべきライセンス料を支払わなかったことによって低廉な価格を実現できていたという面もあるため、被疑侵害品の価格を基準とするのではなく、別途基準となる価格を算出するとした本判決は妥当であると考える。

本判決は、「原則として、侵害品の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである」と判示した前掲大合議判決の「例外」を示したものであると位置づけられると解される。

参考文献:宮脇正晴「判批」小泉直樹ほか編『特許判例百選(第5版)』(有斐閣

2019年)85頁

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