1 はじめに
日本では、コンビニで商品を買う時のように、双方の意思が合致する(=合意)だけで契約(この例では「売買契約」)が成立します。もっとも、重要な取引では契約書が作成されることが通常です。

契約書の作成には、以下のような意味があると考えられます。

①双方の意思内容を明確にすること
②契約上の債務の履行を求める根拠とすること
③紛争が生じた際の解決の拠り所とすること

今回は、③の点について触れたいと思います。

紛争が生じた際には、契約書の記載内容に従い、どちらの契約当事者がどんな義務を負うのか、どのような方法で義務を果たすか、その義務を果たしたといえるか、といった点が裁判で争われます。

ここで、契約書の記載の意味が、一見して一義的に確定できないような場合には、双方がそれぞれ自己に有利な記載内容の解釈を展開し、これについて裁判所の判断を受けることになります。

それでは、裁判所や法律家は、契約書をどのように読むのでしょうか? 契約書の「読まれ方」を知っておくことで、逆算して、契約書の記載をどうするか、注意点はどこか、といった点の参考になります(なお、国内取引と、海外企業との取引では、契約書の位置付けは大きく異なりますが、今回は、国内取引の紛争が日本の裁判所で問題になった際に、契約書が裁判実務においてどう「読まれる」か、という点を検討していきます。)。

2 裁判における契約書の役割について
合意の内容が記載された書面は、「処分証書」と言われます。そして、契約書上の義務の履行を求める場合、その契約書は、合意の内容が記載されているため、「処分証書」に当たります。

裁判において、処分証書が提出された場合には、「特段の事情がない限り、一応その記載どおりの事実を認めるべき」1とされています2

したがって、裁判に契約書が提出された場合には、原則として、契約書の記載通りの合意が当事者間に成立していた、と認定されます

そうすると、契約書には、自分たちが相手に履行を求める義務の内容を、確実に記載しておく必要があります。

3 契約書の「読まれ方」

(1)契約書の「読まれ方」が問題になる場合
前記のように、契約書の記載は、当事者の合意内容として裁判所に認識されます。

そして、原則として、契約書の記載の意味は、第一に、その文言の辞書的な意味によって解釈されます。辞書的な意味であれば、双方が認識していた意味内容は、基本的にその意味で一致していると考えられるからです。

しかしながら、次のような場合はどうでしょうか? 例えば、契約書に記載されていない合意内容が主張された時や、あいまいな文言が用いられていた場合には、どのように解釈されていくのでしょうか?

(2)契約書の「読まれ方」についての裁判例

  • ア 最判昭47・3・2集民105・225
    契約書に記載されていない特約を認めた高裁の判断について、「売買の目的たる土地の利用方法に関する特約は、契約の当事者にとつては極めて重要な事項であるから、前記法令の規定に基づき当事者間に契約書が作成された以上、かかる特約の趣旨はその契約書中に記載されるのが通常の事態であつて、これに記載されていなければ、特段の事情のないかぎり、そのような特約は存在しなかつたものと認めるのが経験則である」として、経験則の適用に誤りがあり違法であると判断しました。
  • イ 最判平19・6・11集民224・521
    コンビニのフランチャイズ契約に係る契約書について、「契約書の特定の条項の意味内容を解釈する場合、その条項中の文言の文理、他の条項との整合性、当該契約の締結に至る経緯等の事情を総合的に考慮して判断すべき」と、解釈の方法について述べました。

4 「 読まれ方」の原則と裁判例を意識した契約書の作り方
上記のような「読まれ方」を意識して、どのように契約書を作ることになるでしょうか?

(1)まず、当事者が重要な合意内容であると考えるような条項は、必ず漏らさずに盛り込む必要があります。裁判所は、訴訟当事者同士のやり取りの中では当然の前提となっているような点も、証拠がなければ全く分かりません。訴訟になって、その当然の前提をいずれか一方が否定すると、本来であれば問題とならなかった事項まで争点になってしまいます。「契約書の記載と異なる合意があった」旨の主張は、異なる合意が存在すると主張する当事者が、これを主張立証しなければなりません。過去の裁判例を見ても、この立証のハードルは低くありません。

(2)また、辞書に掲載されていないような文言には、定義規定を作成することが必要です。定義規定がない文言が問題になった場合には、その意味内容の立証に非常に苦労することになります。

(3)さらに、上記3(2)イの裁判例に照らすと、契約書の文言解釈の際には、契約に至る経緯をも考慮して「読まれる」ことになります。そうすると、契約書締結に至るまでの双方の契約書案の交換の過程等についても、メールの履歴等を保存しておき、立証に備える必要があります

5 終わりに
当然の前提となっているような合意内容が契約書から抜け落ちていないか、文言の意義が不明確ではないか、といった点は、交渉の経緯に携わってきた方が意外に気付かない「落とし穴」になることがよくあります。こうしたリスクを避けるには、「第三者の視点を入れる」という点が重要になります。

弁護士は、日常的に契約書のレヴュー等に取り組んでおります。客観的な第三者であり、かつ、訴訟法や裁判実務の知識を有する弁護士に契約書の作成・確認を相談することは、紛争を未然に防ぐことに資すると考えられます。

1 司法研修所編「民事訴訟における事実認定」(2013 年 法曹会)21 頁
2 最判昭45・11・26 集民101号565 頁など

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