1 阻害要因とは
特許出願の拒絶理由(特許法49条)及び特許の無効理由(特許法123条1項)に容易想到性(特許法29条2項)がある。

平成30年4月13日知的財産高等裁判所判決(ピリミジン誘導体事件大合議判決)によれば、容易想到性の判断は、判断対象となる発明(以下、「本願発明」という。)と対比すべき公知の発明を主引用発明とし、「主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができたかどうか」で判断する。この判断をする場合には、「①主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆,技術分野の関連性,課題や作用・機能の共通性等を総合的に考慮して,主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に至る動機付けがあるかどうかを判断するとともに,②適用を阻害する要因の有無,予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断することとなる」。ここで主引用発明への副引用発明の適用を阻害する要因(以下、「阻害要因」という。)については、特許権者(特許拒絶査定不服審判の審決に対する取消訴訟においては、特許出願人)が、それがあることを基礎付ける事実を主張、立証する必要があるとされている。

したがって、阻害要因は、特許無効審決取消訴訟や特許異議の申立てに係る取消決定取消訴訟における特許権者、拒絶査定不服審判の審決に対する取消訴訟における出願人によって、容易想到の主張に対する反論として主張されうる。また、特許権侵害訴訟における無効の抗弁(特許法104条の3)に対する反論としても用いることができる。

2 裁判例からみた阻害要因
最近の裁判例において、阻害要因がどのように取り扱われているのか、調査をしてみた。

裁判所のウェブサイト上の「知的財産裁判例集」において、令和2年に言い渡された審決取消訴訟(無効審判の審決及び拒絶査定不服審判の審決についての取消訴訟)の判決(いずれも知的財産高等裁判所判決)のうち、「阻害要因」を含む判決は32件ヒットした。

このうち、阻害要因の存在が認められて容易想到でないとの判断がされた判決は32件中5件であった。

それぞれの判決において認められた、阻害要因があることを基礎付ける事実はさまざまである。副引用発明に、主引用発明の目的を達することを阻害する欠点が存在すること(令和2年8月27日判決(令和1年(行ケ)10139号))、主引用発明に副引用発明を組み合わせるためには、主引用発明の構成自体を変更する必要が生じること(令和2年3月24日判決(令和元年(行ケ)10102号))、主引用発明において、相違点に係る構成とするためには、デメリットがあること(令和2年1月29日判決(令和元年(行ケ)10016号))、主引用発明における構成に代えて、周知の構成を採用した場合には、機能が発揮できなくなり、又は機能が制限されること(令和2年1月31日判決(令和元年(行ケ)10057号))があげられている。

5件の判決では、いずれも阻害要因を単独で判断したものはなく、動機付けが無いことを併せて判断している。平成2年3月19日判決(平成元年(行ケ)10097号)では、主引用発明と副引用発明とは、「発明の課題や作用・機能が大きく異なるものであるから・・・当業者が容易に想到できたものであるとは認め難く,むしろ阻害要因があるといえる」と判示しており、課題や作用・機能の共通性等を考慮して判断する動機付けと重なる、阻害要因の判断をしている。

一方、32件中9件の判決においては、阻害要因については明示的に判断せず、動機付けが無いから容易想到ではないと判断している。令和2年7月2日判決(平成31年(行ケ)10040号)では、「主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に想到することを動機付ける記載又は示唆を見出せない以上・・・かかる想到を阻害する事由の有無や,本願発明の効果の顕著性・格別性について検討するまでもなく」容易想到ではないと判示している。令和2年7月15日判決(令和元年(行ケ)第10068号)も同旨をいう。ここでは、阻害要因を抗弁的に扱い、動機付けが無ければ直ちに容易想到ではないと結論できるとしている。

3 さいごに
以上のとおり、裁判例では動機付けを重視している。よって、容易想到性に関して、阻害要因の有無について主張する際にも、動機付けの有無について十分な主張をする必要がある。

※この記事は一般的な情報、執筆者個人の見解等の提供を目的とするものであり、創英国際特許法律事務所としての法的アドバイス又は公式見解ではありません。