今回は、前回に引き続き、損害論の審理について、当事者がどのような主張立証を行っていくかについて説明する。

3 損害の主張立証
(2)特許法102条1項2号
特許法102条1項2号では、特定の場合に実施料相当額の請求ができることについて定められているが(詳しくは、「改正特許法102条の概要(1)」をご参照ください)、102条3項と同様であるため、(4)をご参照ください。

(3)特許法102条2項
ア 原告側
原告は、以下の事実を立証することになる。

2021-0322-law3

【①について】
前号の3(1)ア【①について】と同様である。

【②について】
二酸化炭素含有粘性組成物事件大合議判決1では、利益の額とは、「原則として、侵害者が得た利益全額であ」り、「侵害者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にある」と判示している。すなわち、侵害品の単位数量当たりの利益額についても特許権者側が立証しなければならない。

そして、侵害品の単位数量当たりの利益額を知るためには、侵害品の売上高や製造原価、販売原価、その他の製造販売に関連して追加的に必要になった経費等が記載されている会計帳簿や伝票等を原告側で証拠として裁判所に提出しなければならない。しかし、これらの会計帳簿や伝票等は、被告内部に存在するものであって、原告側が有していることは極めてまれである。

そのため、原告側でこれらの書類を有していない場合は、被告側に任意の開示を求めていくことになるが、被告側が任意の開示に応じない場合は、前回説明した文書提出命令の申立を行うことになる。

なお、被告側がこれらの文書を提出したとしても、会計帳簿や伝票類は膨大な量である場合もあり、また、内容も複雑で、会計の専門知識も必要となる。これらの文書を裁判所や代理人弁護士のみで検討するには膨大な時間を要することが多い。そこで、そのような場合は計算鑑定人制度(特許法105条の2の112を活用することとなる。計算鑑定人制度は、「会計の専門家であって中立的な第三者である公認会計士等の鑑定人に、会計帳簿類や伝票類等の証拠資料から販売数量や販売単価、利益率等を鑑定させることにより、当事者の立証負担の軽減を図るために設けられたものであ」る3

イ 被告側
二酸化炭素含有粘性組成物事件大合議判決では、単位数量当たりの利益額について、原則として侵害者が得た利益全額について推定が及ぶが、「侵害者の側で、侵害者が利益の一部又は全部について特許権者が得た損害との因果関係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は覆滅される」とした。そして、その推定覆滅事情というのは、102条1項1号の特定数量の立証と同様であるため、その立証については前号の3(1)イをご参照いただきたい。

また、原告が立証した単位数量当たりの利益額について、より控除すべき経費が存在する場合は、被告の側で主張立証しなければならない。

(4)特許法102条3項
ア 原告側
原告は、以下の事実を立証することになる。

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【①について】
前号の3(1)ア【①について】及び(3)ア【①について】と同様である。

【②について】
当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合は、業界における実施料の相場等を立証することになる。相場については、同種の特許に関するライセンス実績が会社内であれば、それを証拠として提出することもできる。また、若干古いが、発明協会研究センター編『実施料率(第5版)』(2003発明協会)や、経済産業省経済産業政策局知的財産政策室編『ロイヤルティ料率データハンドブック』(2010 経済産業調査会)などの書籍も参考になる。

また、特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、特許発明の売り上げや利益への貢献や侵害の態様(特許発明を製品の全体について実施しているか、一部のみに実施しているか等)なども実施料率として考慮されるため(二酸化炭素含有粘性組成物事件や特許法102条4項参照)、これらの事情に該当する事実を立証すべきである。

イ 被告側
被告側としては、原告が主張する実施料の相場より低い相場があれば、証拠として提出することとなる。また、前記の実施料率として考慮される事情についても被告に有利な事情があれば立証すべきである。

1 知財高判令和元年6月7日平成30年(ネ)第10063号
2 令和元年特許法改正による査証制度(105条の2以下)の導入により、計算鑑定人制度に関する条文番号が105条の2から、105条の2の11に変更になった。
3 髙部眞規子編『特許訴訟の実務(第2版)』(商事法務 2017年)228頁以下

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