【事件概要】
特許異議の申立てにおいて進歩性欠如と判断した異議決定を知財高裁が取り消した事例である。
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【争点】
相違点c1に係る本件発明の「120℃で1.5時間加熱後の残存モノマー及び水分を含む揮発分の揮発による加熱減量が1.5%以下であり、」の容易想到性の判断に誤りはないか。

【結論】
合成樹脂粒子の製造については、水分量を低減させ、残存モノマーを低減させることにより、その品質を向上させることが知られていたことは認められるが、・・・各証拠から、本件発明のように、粒子中の揮発分が表面ムラの発生や、塗膜表面の傷付き性低下などを生じさせていたこと(本件明細書の段落【0005】)という課題や、この課題を解決するために、加熱減量を減ずるという構成を採用することが、本件優先日当時、当業者に知られていたと認めることはできないし、まして、本件発明の「加熱減量の上限値1.5%」が当業者に知られていたと認めることはできない。

そして、他に、上記の点について動機付けとなる証拠が存するとは認められないから、甲2-3によって、相違点c1を容易に想到することができたと認めることはできず、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

【コメント】
特許庁は、相違点c1は些細な相違であると判断して、「合成樹脂粒子の技術分野において、粒子の残存モノマー、水分などの揮発分が存在することに起因して、何らかの問題が発生する場合に、当該揮発分の量を一定量以下に低減化させることは、一般的な共通課題である」から、「加熱減量」を減ずる動機付けが存在すると判断した。一方、裁判所は、その「前提は、本件発明に接したからこそであって、それを見いだしたのは、本件発明の発明者であり、被告の主張は、後知恵である」との特許権者の主張を認めて、「一般的な共通課題」よりも下位概念の「粒子中の揮発分が表面ムラの発生や、塗膜表面の傷付き性低下などを生じさせていたことという課題」を認定して、「動機付けとなる証拠が存するとは認められない」と判示している。

4者からの複数異議であったための使命感からか、特許庁は少し大胆な課題および動機付けの認定を行ったようである。

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