欧州特許庁(EPO)での進歩性の審理において、技術的効果を立証するための「“post-published“ data」(特許の優先日または出願日の後に作成された実験データ等)が認められるための条件については長年にわたって問題となっており、これまでに審判T1329/04を含む複数の審判でそれぞれ判断がなされてきました。

上記審判T1329/04は、上記のような問題に象徴的な審判であり、出願明細書の記載に技術的効果の「妥当性」(plausibility)が認められなければ「“post-published“ data」は進歩性の唯一の根拠として認められない旨を示しました(下記参照資料1.「DECISION of 28 June 2005 : T 1329/04」(特に”Reasons for the Decision”項目12)をご参照ください。)。

今般、欧州特許EP2484209に対する異議申し立ての決定に対する審判の審理(T0116/18)において、審判部(Board of Appeal)は、技術的効果が出願明細書によりサポートされておらず「“post-published“ data」のみを技術的効果の立証に採用することはできないと判断され得るような場合において「“post-published“ data」の採用を認めてもらうためには出願明細書から当業者が判断する技術的効果の「妥当性」の程度が重要になる旨の見解を示しました。そのうえで、この審判部は、このような「妥当性」と「“post-published“ data」の関係について拡大審判部(Enlarged Board of Appeal)に照会して判断をあおぐべきとして下記照会をおこなうことを決定しました(下記参照資料2.「Minutes of the oral proceedings of 22 July 2021」(特にp. 6)をご参照ください。):

特許権者が進歩性の確認のために技術的効果に依拠しておりそのような技術的効果を立証するためにデータ又はその他の証拠を提出し、そのデータ又はその他の証拠が「“post-published“ data」である場合に、

[1]技術的効果の立証が「“post-published“ data」のみに基づいていることを理由として、「“post-published“ data」を採用すべきでないと認められる場合、いわゆる自由心証主義(principle of free evaluation of evidence)に例外を認めるべきか?

[2]上記[1]の回答がYESの場合(技術的効果の立証が「“post-published“ data」のみに基づく場合には「“post-published“ data」を採用すべきでなく、自由心証主義に例外を認めるべきである。)に、出願明細書の記載に基づいて技術的効果が「妥当」であると当業者が認め得るのであれば「“post-published“ data」を採用し得るか?

[3]上記[1]の回答がYESの場合(技術的効果の立証が「“post-published“ data」のみに基づく場合には「“post-published“ data」を採用すべきでなく、自由心証主義に例外を認めるべきである。)に、出願明細書の記載に基づいて技術的効果が「妥当」ではないと考える理由は全く無いと当業者が認め得るのであれば「“post-published“ data」を採用し得るか?

上記照会によって、実験データ等の後出しに関する長年の問題に対して拡大審判部がどのような判断を下すのかに注目が集まっています。

【参照資料】
1.EPO「DECISION of 28 June 2005 : T 1329/04」(PDF)(特に”Reasons for the Decision”項目12)
2.EPO「Minutes of the oral proceedings of 22 July 2021」(特にp. 6)

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