[特許/米国]2025年度のUSPTOにおける大幅な手数料の値上げ
2024年4月3日、米国特許商標庁(United States Patent and Trademark Office:USPTO)は、2025年度から手数料(庁費用)を調整するとして規則改訂案(以下、改訂案)を公表しました。この改訂案は、2023年4月に示された予備的提案(以下、原案)に加えて、特許諮問委員会(Patent Public Advisory Committee:PPAC)を通じて得た公衆からの意見を考慮したものとなっていますが、多くの手数料は原案の内容を維持したものとなっています。ほとんどの手数料は少なくとも4%引き上げられ、いくつかの手数料については大幅な引き上げとなり、新しい手数料も導入されることとなっています。これらの手数料の改訂は、今後の数年間で予想される継続的なデジタル技術の最新化による支出の増加に対処するとともに、特許の予測可能性及び信頼性の観点から出願人に特定の行動を促すことを意図しています。ここでいう特定の行動とは、詳細は本稿で検討しますが、多くの継続審査請求(Request for Continued Examination: RCE)をするよりもAFCPや審判請求をすること、ダブルパテントを評価する審査官の負担を軽減するためにターミナルディスクレーマーを積極的に提出すること、5年経過後にする継続出願を抑制すること等が考えられます。
出願手数料
現在の出願に関する庁費用は総額で1,820ドル(基本出願手数料、調査手数料、審査手数料の合計)ですが、改訂案では10%の値上げとなる2,000ドルとすることが提案されています。また、3個を超える独立クレームについては1クレームあたり480ドルから600ドルに値上げ、20個を超えるクレームについては1クレームあたり100ドルから200ドルのように倍となる値上げが提案されています。
IDS
審査官の検討のために提出する情報開示陳述書(Information Disclosure Statement Size Fee:IDS)については、現在260ドルの基本手数料で任意の数の文献数を提出できます。改訂案では、この基本手数料を275ドルに値上げすることが提案されています。さらに、基本手数料に加えて累積の文献数が50を超えた場合に適用される新たな手数料の導入が提案されています。新たな手数料についての詳細を以下に示します。
累積の文献数51~100の場合: 200ドル
累積の文献数101~200の場合: 500ドル※1
累積の文献数200を超える場合: 800ドル※1
※1:文献数に応じた別の手数料を支払い済の場合は、その額が差し引かれる
改訂案では、上記の500ドルと800ドルの手数料に関しては、文献数に応じた別の手数料を支払い済の場合には減額されるとしています。例として、最初のIDSの文献数が100である場合で説明します。最初にIDSを提出する際の手数料は、基本手数料275ドルと文献数に応じた200ドルの手数料を加えた額となります。その後、文献数が累積で200(追加で100の文献)となるような2回目のIDSを提出する場合の手数料は、基本手数料275ドルと文献数に応じた300ドルの手数料を加えた額となります。ここで累積の文献数が200の場合には文献数に応じた手数料は500ドルと考えられるものの300ドルとなるのは、最初にIDSを提出する際に文献数に応じた手数料200ドルを既に支払っているため、500ドルから200ドルが差し引かれることとなるためです。同様に、文献数が累積で250(追加で150の文献)となるような2回目のIDSを提出する場合の手数料は、基本手数料275ドルと文献数に応じた600ドル(800ドルから支払い済の200ドルを差し引いた額)の手数料を加えた額となります。
基本手数料だけでなく追加で文献数に応じた手数料が必要となるのは、おそらく特定の技術分野である可能性が高いと考えられます。また、通常、継続出願や分割出願のような場合には、先の出願や親出願で提出されたIDSと同一の文献を記載したIDSを提出することになるので、さらにこの手数料は増大するかもしれません。追加手数料を回避又は削減するため、IDSの文献が特許性に対して重要かどうかをより慎重に評価することを、出願人は検討し得ます。しかしながら、場合によっては、このような評価をするための費用が、改訂案で提案されているUSPTOの追加手数料を上回ることも考えられます。ここでいう評価するための費用とは、代理人が評価するための費用はもちろんのこと、出願人自身が評価のために時間をかけることも費用となり得ますし、ソフトウェアを使った場合における合理的な出力であるかの確認も費用となり得ます。なお、IDSで提出する文献を決める際に、人工知能(Artificial Intelligence:AI)のツールを利用する場合には、出願人はAIベースのツールの使用に関するUSPTOのガイダンスを確認しておく必要があります。
RCE
改訂案では、ファイナルオフィスアクションに対してRCEをする際の手数料は10%~80%の値上げが提案されています。
最初のRCE: 現行の費用1,360ドルから1,500ドルに値上げ
2回目のRCE: 現行の費用2,000ドルから2,500ドルに値上げ
3回目以降のRCE: 現行の費用2,000ドルから3,600ドルに値上げ
現在は、2回目以降のRCEに対しては同じ2,000ドルが適用されていますが、改訂案では、2回目と3回目以降では手数料が異なるような新たな手数料体系が導入されます。この手数料体系が採用された場合、出願人は、最終拒絶(ファイナルオフィスアクション)の数を減らすことによって、不必要なRCEの手数料を節約できます。例えば、1つの同じ出願に異なる独立クレームや様々な従属クレームといったように多数のクレームを伴うような出願をする又は予備補正を提出することで、許可されるクレームの特徴をより迅速に特定できます。また、審査官との面談はファイナルオフィスアクションの数を最小限に抑えるために有用です。そして、審判請求手続に頼ることが賢明な場合もあるかもしれません。
AFCP
After-Final Consideration Pilot 2.0(以下、AFCP)は、審査官が設けられた期間内に補正を検討し得ることを条件として、ファイナルオフィスアクション後に補正を検討するための追加期間を認める仕組みのことをいいます。AFCPに基づく検討の請求(以下、AFCPの請求)は、RCEの必要性を回避し得ます。現在はAFCPの請求についての手数料は設定されていませんが、改訂案では500ドルの手数料を導入することが提案されています。
このように手数料を導入することが提案されていますが、AFCPの請求は、ファイナルオフィスアクションを解消にあたって費用対効果の高い選択肢であることは変わらないと考えられます。AFCPの請求後に出願が許可される可能性を高めるとともに、ファイナルオフィスアクション後のクレームの補正を最小限にするために、出願人は出願手続の早い段階で、様々な異なるクレームや従属クレームを含む出願とすることが望ましいといえます。
継続出願
改訂案では、継続出願には以下の手数料が新たに導入されるとしています。
最先の優先日から5年を超えて出願された場合は、2,200ドル
最先の優先日から8年を超えて出願された場合は、3,500ドル
これらの手数料は、最先の優先日から最初の5年以内に改良及びバリエーションに関する継続出願を提出すること、又は継続出願として認定されることを回避するために原出願日に2以上の出願を提出することを、出願人に促すものと考えられます。
ターミナルディスクレーマー
米国の特許実務では、他の特許又は係属中の出願に対する非法定自明性タイプ(nonstatutory obviousness-type)のダブルパテントに関する拒絶理由は、170ドルを支払って特許期間及び所有者について他の特許又は係属中の出願と結びつけるターミナルディスクレーマーを提出することによって解消できます。改訂案では、ターミナルディスクレーマーの提出時期に基づき、以下のような手数料が設定されています。
最初のオフィスアクションの前(審査未着手)に提出された場合 200ドル
ファイナルオフィスアクション又は許可通知の前に提出された場合 500ドル
ファイナルオフィスアクション又は許可通知の後に提出された場合 800ドル
審判請求と同時に又はその後に提出された場合 1,100ドル
特許の発行後又は再発行特許出願の際に提出された場合 1,400ドル
改訂案は、出願人に対して、ターミナルディスクレーマーを提出する前にダブルパテントで拒絶されることを待つのではなく、ダブルパテントの問題の可能性があるかどうかを出願時に出願人自身で評価することを促していると考えられます。例えば、より少ない手数料とするために、継続出願と同時にターミナルディスクレーマーを提出するかもしれません。一般的に複数のターミナルディスクレーマーが提出されるような規模の大きなパテントファミリーにおいては、改訂案に示された新しい料金体系では、大幅にコストの増加につながる可能性があります。不必要なターミナルディスクレーマーの提出を減らすために、出願人は、重複するイノベーション(発明)に関連するクレームを同じ出願にグループ化することを考慮できますが、超過クレームの手数料の追加費用が発生する点に留意する必要があります。また、限定要求を受ける可能性が高まることも考えられますが、限定要求を受けて分割出願した出願については非法定自明性タイプのダブルパテントに関する拒絶理由の対象とはなりません。
なお、ターミナルディスクレーマーに関しては、USPTOによる最近の規則改訂案が、ターミナルディスクレーマーの実務にさらに影響を与える可能性があります。既報の記事をご参照ください。
特許期間調整及び特許期間延長
特許期間調整(Patent Term Adjustment:PTA)の申請については、現行の手数料210ドルから300ドルに値上げすることが提案され、特許期間延長(Patent Term Extension:PTE)の申請については、現行の手数料1,180ドルから6,700ドルに値上げすることが提案されています。
小規模団体及び極小団体
上記で説明してきた手数料の改訂は割引のない事業体に対する手数料であり、小規模団体(Small Entity)、極小団体(Micro Entity)については、引き続き割引が適用されます。ただし、文献数に応じたIDSの手数料、ターミナルディスクレーマー、PTA及びPTEの申請については割引されません。
USPTOの改訂案には、上記のものに加えて手数料の変更に関する長いリストが含まれています。全て手数料変更に関するリストはUSPTOのサイトのTable of Patent Fees(Excelファイル)からご確認ください。
USPTOは、最終的に規則を改訂するにあたっては、公衆からの新たな意見を考慮して調整を行うことも考えられますが、公表された改訂案によれば、おそらく2024年10月から始まる2025年度の間のどこかで大幅に手数料を値上げすることが予想されます。新たな手数料の発効日を定める最終規則は、発効日の少なくとも45日前に公表されます。
現時点で、出願人は米国への特許出願に関する大幅な手数料の増加を見越した予算をたてておくことが賢明です。また、手数料の増加を少しでも緩和するため、出願人は以下の措置を検討し得ます。
- 可能であれば、少なくとも出願手数料を節約するために、新しい規則が施行される前に、早期に米国へ出願する。
- 新しい規則が施行される前に、新規出願及び継続中の出願に、より多くのクレームを含めることを検討する。これは、超過クレーム手数料を低く抑えること、早期に出願が許可される可能性を高めること、何度もRCEをする可能性を減らすこと、継続出願の数を減らすこと、ターミナルディスクレーマーの手数料増加に伴うリスクを減らすことにつながる。
- 複数の出願を同一の原出願日にすることにより、継続出願とならないようにする。
- 規模の大きな特許ファミリーの場合には、ダブルパテントの拒絶理由につながる可能性のあるクレームを同じ出願にグループ化する戦略を検討し、不必要なターミナルディスクレーマーの手数料を削減する。
- 継続出願のように、ダブルパテントの拒絶理由につながる可能性が高い出願については、ターミナルディスクレーマーを早期に提出することを検討する。
- 繰り返される拒絶を避けるため審査官との面談を検討する。
手数料の値上げにあたっての影響は、出願人ごとに異なると考えられます。上記は一般的に考えられる提案にすぎません。具体的な影響等についてのお問い合わせは、弊所までご連絡ください。