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[商標/英国] 審査実務の変更:過度に広範な商品・役務を指定した出願に対して、「悪意(bad faith)」を理由に拒絶することができる

【概要】
2025年6月27日、英国知的財産庁(UKIPO)は、商標登録出願における指定商品・役務の範囲に関する審査実務を大幅に厳格化する旨の公式通知(PAN 1/25)を発表し、即時施行した。

これは、SkyKick事件([商標/英国]過度に広範な商品を指定することが悪意(bad faith)にあたると判断した判決(「SkyKick v Sky」事件) – 創英国際特許法律事務所)の最高裁判決を受けたものであり、過度に広範な商品・役務を指定した出願に対して、「悪意(bad faith)」を理由に積極的に拒絶する方針を示したものである。

【審査実務の変更点】
今回の実務変更により、英国出願の審査において、指定商品・役務が「明白かつ自明なほど広範(manifestly and self-evidently broad)」であると判断された場合は、悪意(bad faith)の出願であるとして拒絶理由が通知されることになった。UKIPOの説明によると、例えば、以下のような場合には善意の出願と認められない可能性がある。

・広範な一般用語の指定
「computer software」(第9類)、「pharmaceuticals」(第5類)、「clothing」(第25類)等、非常に一般的な用語で商品・役務を指定する場合。

このような表示は多様なカテゴリーの商品・役務を包含するが、出願人がその一部にしか商標を使用しないと考えられる場合は、悪意が認定される可能性がある。

・クラスヘディングの安易な利用
欧州やイギリスの出願において、商品・役務に国際分類の類見出し(クラスヘディング)を指定することは非常に一般的な実務であった。しかし、クラスへディングは互いに関連性の低い多種多様な商品・役務を含むことがある。例えば、第9類では「Scientific, research, navigation, surveying, photographic, cinematographic, audiovisual, optical, weighing, measuring, signalling, detecting, testing, inspecting, life-saving and teaching apparatus and instruments」のように極めて広範な表示が含まれるほか、「cash registers」と「diving suits」のような全く性質の異なる商品が含まれる。このようなクラスヘディングを安易に用いる場合、悪意が認定される可能性がある。

・事業実態と乖離した網羅的な指定
事業実態と関係なく、多数の区分にわたって膨大な数の商品・役務を指定する場合等も悪意が認定される可能性がある。ただし、上記のような広範な商品・役務を指定したとしても、必ず拒絶されるわけではない。審査官は案件毎に出願人の事業の実態を踏まえ、指定商品・役務が「明白かつ自明なほど広範であるか否か」を判断するとされている。例えば、衣料品全般を販売する百貨店を経営する出願人が25類のクラスヘディング「Clothing, footwear, headwear」を指定することは自然であり、このような場合は善意の出願と認定されると思われる。

一方で、UKIPOは、「全45区分のすべての商品・役務を指定する場合」や「第9類の全ての商品を指定する場合」などは常に拒絶されると説明している。

【拒絶された場合の対応】
仮に悪意を理由に拒絶された場合、出願人は2か月以内に応答する必要がある。応答の方法としては、以下のいずれかとなる。

  • 該当の商品・役務を指定することの商業的合理性を説明する
  • 実際の事業内容に即したより適切な商品等に限定する

①によってその商品・役務を指定した合理的な理由を説明できれば、拒絶を解消できる可能性はあると思われる。

【今後の出願について】
上記の通り、どのような商品・役務の表示に対して悪意が認定されるかどうかは出願人の事業実態に応じてケースバイケースで判断される。また、実際の審査において審査官がどの程度厳しく判断するかは不明であり、今後の運用を見守る必要がある。

このような状況においては、今後の出願において、無用に広範な商品・役務を指定することは避けるとしても、理由を合理的に説明できる限りは、チャレンジしてみる価値はある(もちろん、出願時において商標の使用意思があることを示すような文書による証拠があればベストである)。

また、今回の指針は主に審査実務にフォーカスしたものであるが、異議申立や無効請求、権利行使においても注意が必要である。広範な指定商品等に基づいて異議申立等を行った場合、悪意の出願に基づく権利であるとして反撃を受ける可能性もある。従って、今後は出願時だけでなく、権利化後も広範な指定にはリスクが伴う点にも注意すべきである。

今後、英国以外で同様の「悪意」の概念の拡張や審査の厳格化が進むかどうかは不明であるが、指定商品・役務が事業実態に即したものであるかどうかを確認することは他国においても重要であろう。前向きにとらえるのであれば、単に広い権利を得るために漫然と広範な商品・役務を指定するのではなく、実際の事業との結びつきを重視して商品・役務を選定することで、より実効的で質の高い権利を取得することにつながる可能性もある。これをきっかけに知財戦略やブランド保護のあり方を見直してみることは有用である。

[出典]
https://www.gov.uk/government/publications/practice-amendment-notice-125/pan-125-required-behaviour-and-the-impact-on-examination-practice-following-the-supreme-courts-judgment-in-skykick-uk-ltd-and-another-v-sky-ltd-a

https://www.gov.uk/government/news/guidance-for-trade-mark-applicants-following-judgment-in-skykick-v-sky

https://www.jakemp.com/knowledge-hub/guidance-issued-to-uk-trade-mark-applicants-by-uk-ipo-following-supreme-court-decision-in-skykick-v-sky/

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