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知財判決ダイジェスト

特許 令和4年(行ケ)第10115号「非水系塗料用の粉末状揺変性付与剤、及びそれを配合した非水系塗料組成物」(知的財産高等裁判所 令和5年8月10日)

【事件概要】
 特許権者は特許請求の範囲等について訂正の請求をし、特許庁はこの訂正の請求による訂正(本件訂正)は認められないとした上で特許を取り消す旨の決定をした特許異議申立て事件に係る特許取消決定取消請求事件について、この決定が維持された事例
判決要旨及び判決全文へのリンク

【主な争点】
 本件訂正前の請求項1中の「マイクロクリスタリンワックス、水素添加ひまし油、及びポリオレフィンワックスから選ばれるもので重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし軟化点を低くても70℃とする非アミドワックス成分(B)と、」の記載から「重量平均分子量をポリスチレン換算で1,000~100,000とし」(本件記載)を削除する本件訂正が、特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる「誤記…の訂正」を目的とするものに該当するか否か

【判示内容】
 「特許法120条の5第2項ただし書2号にいう『誤記』に該当するといえるためには、同項本文に基づく訂正の前の記載が誤りで当該訂正の後の記載が正しいことが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかで、当業者であれば、そのことに気付いて当該訂正の前の記載を当該訂正の後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないと解するのが相当である。」

 「本件記載を含む本件訂正前の記載については、当該当業者にとって、これが誤りであることが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、当業者の技術常識等から明らかであると認めることはできないというべきである。」

【コメント】
 明細書、特許請求の範囲又は図面についての訂正の要件は特許法126条、134条の2、120条の5に定めがあり、これら要件のうちいわゆる目的要件の一つとして「誤記の訂正」の定めがあるところ、本判決は、訂正がこの「誤記の訂正」に該当するか否かの判断基準を説示している点で実務上参考になると思われます。(同旨を判示する裁判例として、平成28年(行ケ)第10154号判決(知財高裁平成29年5月30日)、平成18年(行ケ)第10204号判決(知財高裁平成18年10月18日)が挙げられます。なお、特許庁が公表する審判便覧38-03には、「誤記の訂正」とは「本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう」との説明があります。)

 ところで、訂正要件には、訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨の規定があり(特許法126条6項)、この規定の判断基準について、「特許請求の範囲は、…対世的な絶対権たる特許権の効力範囲を明確にするものであるからこそ、…特許発明の技術的範囲を確定するための基準とされるのであつて、…『実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの』であるか否かの判断は、もとより、…特許請求の範囲の項の記載を基準としてなされるべく、…明細書全体の記載を基準としてなされるべきものとする見解は、とうてい採用し難い…。」と判示する判例があります(昭和41年(行ツ)第1号判決(最高裁昭和47年12月14日))。そうしますと、特許権者が特許請求の範囲について「誤記の訂正」を目的として訂正を請求した場合において、特許請求の範囲の記載それ自体からは正しい記載が定まらず、例えば出願当初の明細書を参酌してはじめて正しい記載が定まるようなときは、このような訂正は、目的要件として「誤記の訂正」に該当するといえるかもしれませんが、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないとは必ずしもいえないことになりそうです。

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