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知財判決ダイジェスト

特許 令和6年(ネ)第10038号「自動二輪車のブレーキ制御装置及び挙動解析装置」(知的財産高等裁判所 令和7年1月15日)

【事件概要】
 不当利得返還等請求控訴事件において、原審が、本件特許権に係る発明はサポート要件を欠き、その特許について特許無効審判により無効にされるべきものであって控訴人(原告)はその権利を行使することができないとしてその請求を棄却したのに対し、控訴審も、控訴人が主張する明細書等に関する「誤記の訂正」を認めず、上記発明は依然してサポート要件に違反するものであるとしてその控訴を棄却した事例。
判決要旨及び判決全文へのリンク

【主な争点】
 本件明細書等に記載された角速度を表す記号「Ψ」を、角加速度を表す記号「Ψ.」(筆者注:「Ψ.」は「Ψ」の上に「.」)に訂正することが認められるか否か(特許法134条の2第1項ただし書2号の「誤記又は誤訳の訂正」の該当性)。

【判示内容】
 控訴人は、本件明細書に記載された数式「Ghosei=Gken-(Ψ・Rhsen)」について、物理学上の次元が合わないことから、記号「Ψ」は角加速度「Ψ.」の誤記であり訂正は認められるべきである旨主張したところ、裁判所は、次のように判示して控訴人の上記主張を排斥した。(下線は筆者による強調)

 『「Ψ」を角加速度を表す記号「Ψ.」への訂正について

 特許がされた特許請求の範囲、明細書又は図面における訂正について、特許法126条1項ただし書2号は、「誤記又は誤訳の訂正」を目的とする場合には、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることを認めているが、ここで「誤記」というためには、訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが、当該明細書、特許請求の範囲若しくは図面の記載全体から客観的に明らかで、当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないものと解され、特許法134条の2第1項ただし書2号の「誤記又は誤訳の訂正」も同様に解される。

 したがって、明細書等の記載について、物理学上意味をなさないことが客観的に明らかであることが認識できたとしても、物理学上意味をなさないことの一事をもって、ただちに同号の「誤記」と認められるわけではなく、当該物理学上意味をなさない記載について訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければ、同号の「誤記」とは認められないと解するのが相当である。この点、控訴人は、請求項に記載された計算式に係る誤記の訂正に関して、それを字義通り解すると、次元の異なる物理量同士の減算となり、その技術的意味が理解困難となること等を理由として、誤記の訂正が認められることを主張するが、技術的意味が理解困難となることの一事をもって誤記の訂正が認められるものとはいえないから、控訴人の上記主張は採用できない。』

【コメント】
 本判決は、特許後の特許請求の範囲等における訂正の目的の一つである「誤記又は誤訳の訂正」(特許法126条1項ただし書2号、同134条の2第1項ただし書2号。なお、本判決は触れないが、同120条の5第2項ただし書2号も同じであろう。)のうちの「誤記」の解釈について、この「誤記」に該当するといえるためには、訂正前の記載が誤りであることが明らかであるだけでは十分ではなく、当業者であれば訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならない旨判示している点が注目される。

 本判決と同旨を判示する裁判例はいくつか存在するが(例えば、知財高判令和5年8月10日、同平成29年5月30日、同平成18年10月18日)、本判決は、特許成立後に発見された記載不備を「誤記の訂正」によって安易に是正することには高いハードルがあることを示唆しているように思われる。特許後の「誤記の訂正」についての裁判所の考え方を理解する上で参考になる。

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