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知財判決ダイジェスト

特許 令和6年(ワ)第70064号「蚊類防除用エアゾール、及び蚊類防除方法」(東京地方裁判所 令和7年12月17日)

【事件概要】
 本件特許は、蚊類防除用エアゾールに関するもので、特許権侵害差止等請求事件において、被告製品の本件発明の技術的範囲に対する属否、本件特許の無効の抗弁の成否が争点になったところ、裁判所が、本件特許権に係る発明は明確性要件を充足せず、その特許は特許無効審判により無効にされるべきで、本件特許権の権利を行使することができないとして原告の請求を棄却した事例。
判決要旨及び判決全文へのリンク

【主な争点】
 「少なくとも一部が処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子として噴射され」との発明特定事項が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否か(特許法36条6項2号の無効理由を有するか)。

【判示内容】
 「付着性粒子」について、エアゾール原液が噴射されて形成された薬剤粒子であり、処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着することが理解できるが、「付着性」の意義については、特許請求の範囲の記載からは明らかではない。

 本件明細書の記載及び上記特許請求の範囲の記載によれば、「付着性粒子」とは、処理空間内にエアゾール原液が噴射されて形成された薬剤粒子であって、処理空間内の露出部に付着し、時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まる蚊を駆除・防除する粒子であると解することができる。

「時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まる蚊を駆除・防除する粒子」というためには、単に露出部に付着しただけでは足りないから、「時間が経過しても付着した状態を維持」といえるための付着の程度が明らかである必要がある。

 本件明細書には、「付着性粒子」の好ましい付着量の記載があるが、付着量を確認する試験方法、測定方法等については何ら記載されておらず、特定の試験方法、測定方法等が本件優先日当時の技術常識であったこともうかがわれないから、上記の記載により、「時間が経過しても付着した状態を維持」といえるための付着の程度を具体的に認識することはできない。

 本件明細書には、実施例及び比較例として、①噴射2時間後に捕集した空気中の害虫防除成分の気中濃度を分析して算出した気中残存率についての試験及び②噴射直後、10時間後、14時間後及び20時間後の各時点について、蚊を放逐して50%がノックダウンされるまでの時間(KT50値)を測定する防除効果の試験が記載されている。

結局、上記①及び②の試験からは、10時間後以降のKT50値(上記②の試験)が、露出部に付着した薬剤粒子が露出部に止まっている蚊を防除したことによるものか、露出部に付着した薬剤粒子に含まれる害虫防除成分が揮散して空中の蚊を防除したことによるものかが不明であって、上記①及び②の試験が、薬剤粒子が、時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まる蚊を防除したことを示すものであるということはできない。

 その他、本件明細書に、「時間が経過しても付着した状態を維持」といえるための付着の程度についての具体的な記載はなく、これを確認する試験方法、測定方法等についての記載も見当たらないから、本件明細書の記載をもって、本件発明が規定する「付着性粒子」の意味内容を理解することはできない

 以上によれば、本件明細書の記載や本件優先日の技術常識を基礎として、「少なくとも一部が処理空間内における蚊類が止まる露出部に付着する付着性粒子として噴射され」について、当業者が理解することはできないから、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるというべきである。

【コメント】
 本判決は、「特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべき」との従来から多数の判決例により確立されているといえる明確性要件の判断規範をおいた上で、機能・性質を含んだ発明特定事項に対して、本件明細書の記載と特許請求の範囲の記載から「付着性粒子」を解釈した上で、「時間が経過しても付着した状態を維持し、露出部に止まる蚊を駆除・防除する粒子」というためには、単に露出部に付着しただけでは足りないから、「時間が経過しても付着した状態を維持」といえるための付着の程度が明らかである必要があると判示している点が注目される。

 そして、本件明細書の、「付着性粒子」の好ましい付着量の記載があるものの付着量を確認する試験方法、測定方法等についての記載がないこと、特定の試験方法、測定方法等が本件優先日当時の技術常識であったことがうかがえないこと、及び実施例及び比較例を用いた2つの試験を検討しても、付着の程度についての具体的な記載、確認する方法についての記載も見当たらないことを指摘し、本件発明が規定する「付着性粒子」の意味内容を理解することはできないと結論づけている。

 「時間が経過しても付着した状態を維持」との直接の記載は発明特定事項でなくとも、特許請求の範囲の機能・性質で表した発明特定事項について、その意味内容が明確でないことから、発明の技術的範囲が確定できない状態になっていると裁判所が判断し、本件明細書の記載を合理的に参酌した上で、当該発明特定事項の程度が明らかになっていないと結論付けたものと考える。

 本判決は、処理空間内の露出部に薬剤粒子を付着させて蚊類を防除するという発明の技術的思想自体が明確であっても、その発明の技術的範囲が不明確になりがちな機能・性質で表した発明特定事項を用いる場合は、明細書において、その程度を明らかにする結果の記載や、試験方法、測定方法を含めた記載をすることの必要性を示唆している。

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