特許 令和6年(行ケ)第10073号「細胞障害誘導治療剤」(知的財産高等裁判所 令和 7年 9月18日)
【事件概要】
この事件は、特許無効審判の請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。
裁判所は審決を取り消した。
【争点】
本件訂正発明1が甲第10号証に記載されたものであるか否か、甲第10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたか否か。
【結論】
(1)新規性
甲第10号証の段落【0744】には、エフェクター機能を排除するか又は低減することが望ましい場合に「ある種の他のFc領域」が用いられ得ることが記載されているのみであり、この「ある種の他のFc領域」が具体的にいかなるものであるかは明らかにされていない。仮に、Fcγ受容体結合親和性を低下させ、エフェクター機能を低下させるものの1つとして、Fc領域におけるD265A変異が周知技術又は技術常識であったとしても、この「ある種の他のFc領域」として、特定の変異であるD265A変異が記載されているとか、記載されているに等しいとかまでいうことはできない。
これに対し、甲第10号証の段落【0142】において引用される…(甲52)には、D265A置換がC1q結合を重度に阻害し、補体依存性細胞傷害活性を低下させたことが記載されている。
しかし、…(甲52)に、増大された又は低減されたC1q結合能力を有するFc領域における何らかの変異が開示されていることを漠然と理解することはできるものの、D265A変異がC1q結合を阻害するものであるというような具体的かつ特定の技術的事項については、甲第52号証自体を確認しなければ把握することができない。そうすると、そのように引用される文献自体を確認しなければ把握できないような具体的かつ特定の技術的事項までもが、甲第10号証に記載された事項であるとは到底いえない。
以上により、本件審決が認定した相違点3は認められる。
…。
以上によれば、…、相違点3が認められるから、本件訂正発明1は、少なくとも相違点3において甲10発明と異なる。
(2)進歩性
エフェクター機能を必要としない甲10発明の二重特異性抗体において、上記技術常識に基づいて、Fc領域にD265A変異を導入することは、当業者が容易に想到し得ることであると認められる。
…。
そうすると、本件訂正発明1は、甲10発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項により特許を受けることができない発明であると認められる。
【コメント】
被告は、「多数のFcγRへの結合能を低下させる変異の中からD265Aを選択できた事情があったということはできない」旨主張したが、裁判所は「D265A変異を選択することは当業者の単なる設計事項にすぎない」として被告の主張を採用しなかった。