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[特許/ドイツ] 特許の有効性が確認されていない場合の暫定措置に関する欧州連合司法裁判所の予備的判決

2022年4月28日、欧州連合司法裁判所(Court of Justice of the European Union; CJEU)は、ミュンヘン地方裁判所からCJEUに付託された質問に対する予備的判決を下した。この予備的判決により、特許の有効性が異議申立手続又は無効手続における決定対象でない場合であっても、侵害事件について暫定的措置(差止命令)を命じることができることとなる。以下、ミュンヘン地方裁判所からCJEUに付託された質問と回答について経緯を含めて説明する。

1.本件予備的判決にかかる特許の経緯
本件予備的判決にかかる特許の経緯は以下に示す通りである。(予備的判決の段落19~23)

2.ミュンヘン地方裁判所における意見等
ミュンヘン地方裁判所は、Phoenix Contact社の本件特許が有効であると考えているものの、暫定的救済の申請について、暫定的措置を命じることができないとの意見を述べた。理由は、EUエンフォースメント指令第9条第1項(Directive 2004/48/EC of the European Parliament and the Council of 29 April 2004 on the enforcement of intellectual property rights)とミュンヘンの拘束力のある判例法との整合性がとれないと考えたためであった。以下、詳細を説明する。

 (1)EUエンフォースメント指令第9条第1項
EUエンフォースメント指令第9条第1項には、以下の内容が規定されている。

ミュンヘン地方裁判所は、当該特許が有効であると考えているため、当該規定を適用し、2020年12月14日のPhoenix Contact社の申請に基づく暫定的措置を命じることが認められるべきとの意見を述べている。(予備的判決の段落33)

(2)ミュンヘン高等裁判所の拘束力のある判例法
ミュンヘン高等裁判所の拘束力のある判例法(以下、判例法)には、以下の内容が示されている。

2021年1月15日にHarting Electric社がEPOに当該特許に対する異議申立てしているが、まだ当該特許は異議申立手続の決定対象ではない。したがって、ミュンヘン地方裁判所は、当該特許が有効であると考えているものの、判例法の要件を満たさないため、暫定的措置を命じることができないとの意見を述べている。(予備的判決の段落24~26)

(3)ミュンヘン地方裁判所の判断等
ミュンヘン地方裁判所は、上述の(1)、(2)に示すように、暫定的措置を命じることができるかどうかについて、EUエンフォースメント指令第9条第1項と判例法との間に整合性がなく両立しないとした。そこで、ミュンヘン地方裁判所は、この見解に基づいて審理手続を停止し、予備的判決を得るために以下に示す質問をCJEUに付託した。(予備的判決の段落27)

3.CJEUによる説明と結論
(1)CJEUによる説明
本件のCJEUの説明におけるポイントを示す。

① EUエンフォースメント指令第9条第1項(a)の実質的効果
CJEUは、EU法の規定を解釈する際には、その文言だけでなく、文脈や規則によって追求される目的も考慮することが必要であるとし、EUエンフォースメント指令第9条第1項(a)は以下のように解釈されるとしている。(予備的判決の段落30~32)

そして、当該解釈を踏まえてCJEUは、本件のように、対象特許が有効であり侵害されているとしても、拘束力のある判例法に基づいて暫定的措置(差止命令)を採択することを認めないとすれば、EUエンフォースメント指令第9条第1項(a)の実質的効果を奪うことになる、とした。(予備的判決の段落33、34)

② EUエンフォースメント指令第9条第1項(a)と判例法との整合性
CJEUは、EU法(本件ではEUエンフォースメント指令)に従って国内法を解釈するという要件は、それが指令の目的と両立しない国内法の解釈に基づいている場合には、必要に応じて、国内裁判所は確立した判例を変更する義務を伴う、とした。(予備的判決の段落51、52)

(2)付託された質問への回答
(1)に示した説明等を踏まえて、付託された質問への回答は以下であった。(予備的判決の段落55)

4.コメント
侵害者は、係争特許の有効性が確認されていないことのみを理由として、暫定的措置の命令を回避できないことが明らかとなった。言い換えれば、権利者にとっては、従来よりも暫定的措置(差止命令)の申請が認められやすくなった。

【出典】
1:InfoCuria Case-law「JUDGMENT OF THE COURT (Sixth Chamber) 28 April 2022
2:European Union「Directive 2004/48/EC of the European Parliament and the Council of 29 April 2004 on the enforcement of intellectual property rights
3:JETRO「欧州連合司法裁判所(CJEU)、特許の有効性が確認されていない場合の暫定措置に関するミュンヘン地方裁判所の付託質問に対して判決(2022年5月9日)」(PDF)

 

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