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[特許/中国]中国におけるネットワーク関連発明の特許権による保護について

 本稿では、ネットワーク関連発明のサーバの所在地が侵害判定に影響するか否かが争点となった事件(事件番号:(2020)最高法知民终746号)を紹介する。

【事件概要】
 本事件の発明は、「国際物流情報追跡方法およびその方法を使用するシステム」に関するものであって、伝票番号から取得された各種標識に基づいて発送国の物流情報及び目的国の物流情報を出力する方法およびシステムである。

 控訴審(中国最高人民法院)では、一審(広東省深圳市中級人民法院)の侵害成立との判断を維持した。

▶判決全文へのリンク(会員登録要):文书全文 (court.gov.cn)

【主な争点】
 被疑侵害ウェブサイトのサーバの所在地が侵害判定に影響するか否か。

【結論】
 一審の侵害成立との判断に対して、被疑侵害者は、控訴審において、被疑侵害技術方案が使用するサーバは中国境外および中国香港にあるため、被疑侵害行為は中国境外および中国香港で発生し、特許権の効力の地域範囲に属さないという新たな主張を行ったが、中国最高人民法院は、サーバの所在地が中国境外にあっても侵害が成立する場合がある旨判示した。

【詳細】
 判決文の一部を下記のように抜粋して紹介する(①~④の符号は筆者が追記)。

①侵害行為地は侵害行為実施地および侵害結果発生地を含む。サーバの所在地を被疑侵害行為の実施地の判断のための唯一または核心的な要素とすべきではない。

②被疑侵害ウェブサイトの経営所在地は中国大陸にあり、被疑侵害ウェブサイトの運営主体も中国大陸にある。

③被疑侵害ウェブサイトの数多くのユーザは境内のユーザであり、被疑侵害技術方案の実施過程の触発点は中国大陸に位置している。

④被疑侵害技術方案の実施過程におけるデータの送受信の全部または一部は中国大陸で発生している。

したがって、被疑侵害行為の実施地は中国大陸にあると認定することができる。

 

【コメント】
 中国最高人民法院は、被疑侵害行為の実施地の判断にあたって侵害行為実施地だけではなく侵害結果発生地も考慮すべきであるという基本的な考え方を示したうえ(上記①)、サーバが中国境外にあったとしても所定の要件(上記②~④)を満たした場合には被疑侵害行為の実施地が中国大陸にあると認定できるとの判断を示した。

 権利侵害の判断における原則として中国境内での権利者の利益を保護すべきであるという観点からすると、第三者が中国境内で利益を得ている場合には侵害責任を負うべきである(権利者の利益が保護されるべきである)ように思われる。本件では、被疑侵害者は中国境内のユーザに向けたサービスの提供によって中国境内で利益を得ているといえる。したがって、被疑侵害ウェブサイトのサーバは中国境外にあるものの被疑侵害行為の実施地は中国境内にあり被疑侵害者は侵害責任を負うべきであるとの判断については、筆者としては自然と頷けるものである。被疑侵害ウェブサイトのサーバが中国境外にあるという理由だけで被疑侵害行為の実施地が中国境外にあると判断し被疑侵害者が侵害責任を負わないと判断すると、中国境内での権利者の利益の保護という上記原則に反すると考えられるためである。一方で、上記②も要件となっている点については、例えば第三者が中国境内で利益を得たとしても当該第三者の経営所在地等が中国境外にある場合には侵害非成立となるかという疑問が残る。

【参考】
 控訴審の判決文のうち「被疑侵害ウェブサイトのサーバの所在地が侵害判定に影響するか否か」の内容の筆者による日本語訳文を下記に示す。

 特許法第十一条第一款には、「発明及び実用新案の特許権が付与された後、本法に別途規定がある場合を除き、いかなる部門又は個人も、特許権者の許諾を受けずにその特許を実施してはならない。即ち生産経営を目的として、その特許製品について製造、使用、販売の申出、販売、輸入を行ってはならず、その特許方法を使用することができず、当該特許方法により直接獲得した製品について使用、販売の申出、販売、輸入を行ってはならない。」と規定されている。本案では、原審で調べた事実に基づいて、被疑侵害者が特許発明を実施したと認定すべきである。すなわち、被疑侵害者は生産経営を目的として特許発明に係る方法およびシステムの使用を実施したと認定すべきである。被疑侵害者は、被疑侵害技術方案が使用したサーバが中国境外および中国香港に位置しているため、被疑侵害行為は中国大陸(港澳台を除く中国地区)外で発生し、特許権の効力の地域範囲に属さず、特許法第十一条第一款に規定する使用行為には該当せず、被疑侵害技術方案が請求項1と同じであったとしても、侵害が成立しない、と主張している。

 本院は当該主張を認めない。理由は下記のとおりである。まず、サーバの所在地は侵害行為地の判断のための一つの要素であるものの唯一の要素ではない。侵害行為地は侵害行為実施地および侵害結果発生地を含む。中国法律によって保護される特許権について言えば、当該特許権を侵害する行為の実質的な一部または侵害結果の一部が中国領域内で発生した場合には、侵害行為地が中国領域内にあると認定することができる。したがって、侵害行為地の判断にあたっては複数の要素が存在し、サーバの所在地は侵害行為地の判断のための一つの要素にすぎない。必ず指摘すべき事項として、サーバの所在地のみに基づく侵害行為地の確認判断には一定の限定性があるというべきである。ネットワークの世界的な分布の特性はデータの送受信の国際性をもたらし、ネットワークコンピュータプログラムに関する方法及びシステムの特許について言えば、データの媒体すなわち被疑侵害ウェブサイトのサーバの所在地のみに基づいて被疑侵害行為の実施地を認定すると、この種類の特許の保護範囲が著しく制限されることになり、この種類の特許を実質的に実施する侵害者は侵害責任を極めて容易に回避することができ、最終的にこの種類の特許の有効な保護ができなくなる。そのため、被疑侵害者の上記主張は不合理であり、サーバの所在地を被疑侵害行為の実施地の判断のための唯一または核心的な要素とすべきではない。次に、被疑侵害者の営業所在地について述べる。被疑侵害者は中国大陸の企業であり、その住所が広州省深圳市にあることを証拠が示している。これにより、被疑侵害ウェブサイトの経営所在地は中国大陸にあることを推測することができ、さらに被疑侵害ウェブサイトの運営主体も中国大陸にあることを認定することができる。被疑侵害者は海外運営チームを有している旨を主張しているが、なんら証拠を提出していないため、その主張を採用することができない。さらに、被疑侵害ウェブサイトのユーザの所在地について述べる。被疑侵害ウェブサイトの数多くのユーザは境内のユーザであり、その被疑侵害ウェブサイトへの登録所在地は中国大陸にあることを証拠が示している。したがって、被疑侵害技術方案の実施過程の触発点は中国大陸に位置している。最後に、被疑侵害ウェブサイトのデータの送受信の所在地について述べる。被疑侵害ウェブサイトが提供する物流情報問い合わせサービスの対象は国際物流であり、その相当部分の物流情報は国内物流企業からのものであるため、これにより被疑侵害技術方案の実施過程におけるデータの送受信の全部または一部は中国大陸で発生していることを推測することができる。

 以上により、被疑侵害ウェブサイトは中国大陸と地理的な意義において多くの連結点を有しており、これにより被疑侵害技術方案の実施地すなわち被疑侵害行為の実施地は中国大陸にあることを認定することができ、そのため被疑侵害者の被疑侵害行為は特許法第十一条第一款に規定の使用行為に該当すると認定すべきである。被疑侵害行為の実施地が中国境外および中国香港にあり、被疑侵害技術方案は特許権の効力の地域範囲に属さない等の被疑侵害者による上訴理由は事実および法律の根拠に欠けているため、本院は採用しない。

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