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[特許/中国]無効審判における請求項の訂正方式を巡る重要判決

 本稿では、中国の特許無効審判(以下、無効審判)における訂正の許容性が争点となった重要判決(事件番号:(2021)最高法知行終556号。以下、本事件)を紹介する。本事件は、最高人民法院により「2023年知的財産権分野の十大事件」に選出されており、無効審判における訂正実務に重要な指針として注目されている。

 本稿では、この判決におけるポイントを解説するとともに、中国の訂正実務上の留意点をまとめる。 

1.事件の概要
 2023年12月12日、最高人民法院は、顔認証技術に関する特許(特許番号:200480036270.2)につき、国家知識産権局(CNIPA)の無効審判(審決番号:40531)に対する二審判決を言い渡した。最高人民法院の判断の要点は以下のとおりである。

・訂正要件違反を理由に審理対象から除外された一部の請求項については、無効審決を取り消しCNIPAに差し戻し(例えば後述の訂正後の独立請求項4)

・別の請求項については、無効審決を維持(例えば後述の訂正後の独立請求項11)

 2.無効審判での訂正に関する規定
 中国では、特許の権利付与後に権利範囲を変更し得る手続は、無効審判での訂正に限られる(日本にける異議申立や訂正審判制度はない)。無効審判での訂正は出願段階の補正よりも厳格で、専利法実施細則および専利審査指南において以下のように規定されている。

✓ 専利法実施細則第69条第1項(2023年改正後の第73条第1項)

無効請求の審判過程において、特許又は実用新案の権利者はその請求の範囲を訂正することができる。ただし、元の保護範囲を拡大してはならない。

✓ 専利審査指南第四部分第三章第4.6.1節「訂正原則」

特許又は実用新案の訂正は請求の範囲のみに限られ、かつ無効審判の請求理由又は合議体の指摘した欠陥に対して訂正を行わなければならず、その原則は以下のとおりである。

(1)原請求項の主題の名称を変更してはならない。
(2)権利付与時の請求項と比べて、元の保護範囲を拡大してはならない。
(3)原明細書及び請求の範囲に記載された範囲を超えてはならない。
(4)一般的には、権利付与時の請求の範囲に含まれていない技術的特徴を追加してはならない。

✓ 専利審査指南第四部分第三章第4.6.2節「訂正方式」

上記の訂正原則を満たすことを前提として、請求の範囲を訂正する具体的方式は、一般に、請求項の削除、発明の削除、請求項の更なる限定、及び明らかな誤りの訂正のみに限定される。

請求項の更なる限定とは、請求項に他の請求項に記載された一つ又は複数の技術的特徴を追加し、保護範囲を縮小することを指す

3.二審判決の判断の要点
 本事件では複数の請求項について訂正が行われたが、本稿では、訂正の許容性が特に争点となった訂正後の独立請求項4及び11に絞って概説する。

(1)訂正前後の関連請求項の概要

 二審判決の判断の要点に先立ち、説明の便宜上、訂正前後の関連請求項の概要を下表に示す。

(2)二審の判断
 1)訂正後の独立請求項4(方法発明)について

 無効審判において、権利者は、進歩性の無効理由に対応するため、訂正前の独立請求項1に更なる限定を追加することにより訂正後の独立請求項1を作成するとともに、訂正前の従属請求項3を独立請求項形式に書き換え(いわゆる書き下し)、訂正後の独立請求項4とした。

請求項の主題

経緯

無効審決(CNIPA)及び

一審判決(北京知的財産法院)の判断

二審判決(最高人民法院)の判断

方法

従属請求項3→独立請求項4

訂正要件違反

(進歩性未審理)

取消

 無効審決及び一審判決では、訂正前の独立請求項1は訂正後の独立請求項1に吸収される形で消滅した以上、消滅した訂正前の独立請求項1を基礎として訂正後の独立請求項4を作成することは許されないとして、訂正要件違反と判断された。

 一方、二審判決では、上記判断を覆し、訂正後の独立請求項4を審理対象に戻した上でCNIPAに差し戻した。その理由は以下のとおりである。

 訂正後の請求項4は原請求項3と実質的内容及び保護範囲は完全に一致し、両者の相違は、訂正後の請求項4が原請求項1に対応する内容について全文記載を採用したのに対し、原請求項3は番号による引用で表現していた点にとどまる。したがって、訂正後の請求項4は原請求項3そのものであり、原請求項13を併合して生じたものではない。…訂正により新たに生じた請求項ではないから、当然に審理の基礎となるものであり、いわゆる訂正を理由として受け入れられないという問題は存在しない。

 すなわち、訂正後の独立請求項4は権利範囲を変更する「訂正」に当たらず、単なる記載形式の変更(書き下し)であるから、無効審判の審理対象から排除すべきではないと判示した。

 2)訂正後の独立請求項11(システム発明)について
 無効審判において、権利者は、訂正前の独立請求項15に更なる限定を追加することにより訂正後の独立請求項8を作成するとともに、訂正前の従属請求項20を独立請求項形式に書き換えて訂正後の独立請求項11とし、その参照先を「請求項1又は4、…」に変更した。

請求項の主題

経緯

無効審決(CNIPA)及び

一審判決(北京知的財産法院)の判断

二審判決(最高人民法院)の判断

システム

◇独立請求項の形式へ書き換え:

従属請求項20→独立請求項11

◇参照先の変更:

「請求項1又は9」→「請求項1又は4、…」

訂正要件違反

(進歩性未審理)

維持

 無効審決及び一審判決では、上記訂正後の独立請求項4と同様の理由で、訂正後の独立請求項11は訂正要件違反と判断された。つまり、訂正前の独立請求項15は訂正後の独立請求項8に吸収される形で消滅した以上、消滅した訂正前の独立請求項15を基礎として訂正後の独立請求項11を作成することは許されないとして、訂正要件違反と判断された。

 二審判決では、上記訂正後の独立請求項4の場合と異なり、最高人民法院はこの結論を維持した。その理由は以下のとおりである。

 無効審決において訂正後の請求項11が受け入れられなかった理由は、原請求項15は既に「更なる限定」方式の訂正(訂正後の請求項8の作成)に用いられており、その時点で原独立請求項15は既に消滅し、それに対し更に「更なる限定」を行い訂正後の請求項11を形成する基礎が存在しない、という点にある。…無効審判における請求項の訂正が無効理由に対応する目的に限られるという審理理念に基づくと、無効審決において訂正後の請求項11に対してなされた処理は、不当ではない。

 ここでの「審理理念」とは、専利審査指南第四部分第三章第4.6.1節に規定の、無効審判の請求理由又は合議体の指摘した欠陥に対して訂正を行わなければならないという「訂正原則」に相当するように思われる。

 二審判決においては、無効理由対応の目的に限るという「審理理念」と、更なる限定とする「訂正の方式」との関係性の記述が明確でなく、論理の飛躍があるようにも見えるが、最高人民法院の「審理理念」の適用は明確化されたとものと理解できる。すなわち、訂正後の独立請求項11は、無効理由対応を目的としない訂正に該当するため、訂正要件違反に当たると判示した。

 4.まとめ
 二審判決を踏まえ、実務上の留意点をまとめる。

(1)「書き下し」について
 1)許容される場合
 二審判決は、訂正によって独立請求項(訂正前の独立請求項1)が他の請求項(訂正後の独立請求項1)に吸収されることで消滅した場合でも、当該独立請求項の従属請求項(訂正前の従属請求項3)を独立請求項(訂正後の独立請求項4)の形式に書き換えることは許容されることを明確にした。このような書き下しは、保護範囲を変更しない単なる「記載形式の変更」にすぎず、「訂正」には該当しないと判断されたためである。したがって、出願・権利化段階では、重要な技術的特徴を従属項として適切に配置し、必要に応じて書き下しにより独立請求項に書き換えることができるように確保しておくことが、無効審判での訂正対応に有利である。

 2)許容されない場合
 一方で、訂正後の独立請求項11については、一見すると訂正前の従属請求項20の書き下しにも見えるが、参照先を変更した結果、訂正前の従属請求項20とは保護範囲が異なるため、単なる「書き下し」ではなく実質的な「訂正」に該当すると判断された。中国実務では、相互参照型は独立請求項として扱われる。さらに独立請求項の参照先がマルチのマルチ形式であっても記載不備とはならない。したがって、本件でも、仮に訂正前の独立請求項15が「請求項1~14のいずれか一項」を参照する書き方であったなら、訂正後の独立請求項11についても書き下しとして主張し得た可能性がある。以上を踏まえ、出願・権利化段階では、相互参照型の独立請求項について参照範囲を狭めず、可能な限り広く参照して将来の書き下しの余地を確保することが、無効審判での訂正対応に有利である。

(2)無効理由対応の目的に限るという「審理理念」について
 二審判決における、訂正後の独立請求項11に関する判断には、論理付けが十分に明確とは言い難い面があるものの、少なくとも次の取り扱いが理解できる。

 すなわち、無効審判での訂正は、無効審判の請求理由又は合議体が指摘した欠陥に対応する目的に限られ、参照先の変更や請求項の再構築のみを目的とする訂正は許容されない。独立請求項(訂正前の独立請求項15)に対して異なる限定(特徴)を追加した複数の独立請求項を並列に作成する形で訂正した場合、無効理由対応として受け入れられるのは1つ目の請求項(訂正後の独立請求項8)のみに限られる可能性がある。

 このように、無効理由に対応する際に1つの訂正案しか許容されないことは、実体審査段階において複数の補正案を並列で提出できる実務よりもずっと厳しいといえる。したがって、無効理由対応にあたっては、最も価値のある権利範囲を維持できる1つの訂正案のみを選択するように、慎重な判断が求められる。

【出典】
1.最高人民法院知識産権法廷「(2021)最高法知行终556号

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